「先生が変われば子どもも変わる」公立高校でなぜ? eスポーツチーム創設の狙い

2010年代後期に国内メディアで頻繁に目にするようになった“eスポーツ”という言葉。言葉自体は知っているけれども、今どのように盛り上がりを見せ、どんな課題を抱えているのか。日本のゲーム文化とeスポーツを取り巻く実態はどのようにつながっているのか。果たしてeスポーツとはなんなのか——。本連載はそのような疑問を解決する糸口を探るべく、プロゲーマー、教育者、企業など、eスポーツに関わる方々にお話をうかがっていきます。ナビゲーターにはゲーム好きでeスポーツの普及を目指す十束おとはさん(フィロソフィーのダンス)をお迎えします。

第2回の対談相手は、福岡雙葉中学校・高等学校の谷本昇校長。2020年3月まで福岡市立福翔高校で校長を務め、2018年当時、公立高校では初めてeスポーツチーム(※部活動としてはコンピューター部)を創設しました。eスポーツ専攻コースを抱える通信制高校があるなかで、公立高校が部活動の一環としてeスポーツチームを立ち上げた狙い、そして課題についてうかがいました。

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「先生が変われば子どもも変わる」公立高校でなぜ? eスポーツチーム創設の狙い

谷本昇(たにもと・のぼる)

2009年に50歳で民間人管理職として福岡市立福翔高校に赴任し、2013年、校長に就任。2018年に公立高校では初めて部活動としてeスポーツチーム(※部活動としてはコンピューター部)を設立。同校を2020年3月に定年退職し、現在は福岡雙葉中学校・高等学校の校長を務める。

【Contents】

#01
「文化に必要なのは観客」ももち選手に聞くeスポーツのこれから

#02
「先生が変われば子どもも変わる」公立高校でなぜ? eスポーツチーム創設の狙い

#03
「やってみなはれではなく、やって当然」 サントリーがeスポーツ支援にこめた思い

【動画】谷本昇校長と十束おとはさんの対談動画。テキストでは掲載しきれなかったことについても話しています。

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新しい文化を伝えるのが学校の役割

十束おとは(以下、十束):谷本校長は一般的な学校と比較して、スピーディーに新しいことや難しいことに挑戦されているなと感じました。

谷本昇校長(以下、谷本):私自身、昭和の学校のシステムになじめませんでした。21世紀を生きていく今の子どもたちは、時代にあったスキルを身につけなければなりません。学校は社会に出るための準備をする場所ですが、現在の教育現場はその本質を見失っていると感じています。学校は色々な仕組みの弊害でスピード感を出しづらい場所ではありますが、自分の学校はどんどんスピード感を出していくことを意識しています。私が子どもの頃は、従順で論理的で勤勉で、責任感が強いということがひとつの価値でした。今は自由で直感的でわがまま、そういう好奇心の旺盛な人材が価値を生み出し、本質的な意味で豊かな人生を送ることにつながると考えています。

十束:eスポーツを教育に採り入れようと思ったきっかけはなんでしょうか。

谷本:たまたまTVでeスポーツを取り上げていたのが目に留まり、これを体験したら教育現場に違うことが起こるなと感じました。海外ではeスポーツに様々な動きがあり、日本でも2、3年前から社会に浸透しつつあります。そのような新しい文化を子どもたちに伝えるのが学校の役目であり、大人が価値を決め、子どもに押しつけるのはよくありません。子どもたちがeスポーツをやってみて判断すればいいと思うんです。学校で「eスポーツチームを設立します。責任はとるので見守ってください」と発表した際、先生たちは鳩が豆鉄砲を食ったように口が開いてました(笑)。日頃からゲームをやっている先生たちは小さくうなずいていましたね。

十束:賛同する方もいらっしゃったんですね。

谷本:学校で教育として活用するのが初めてでも、ゲーム自体は浸透しています。何をやるにも新しいことは反対されますが、保護者には「こういう目的で学校に導入します。学校でやる以上は教育なので、教育効果を高めます」と言ったところ、ちゃんと伝わりました。子どもは好きなことしか真面目にやらないけれども、好きなことを続ければ世界が広がります。生徒にはゲームが好きならゲームをやっていいけど、高校生としての本分である学力が下がったり、親に心配をかけたりしてはいけないと話しました。

十束:入部を希望する生徒は多かったのでしょうか。

谷本:元々コンピューター部があったんです。所属している男子たちはコミュニケーションが苦手だったので、チームゲームをやらせ、やる以上は勝ちなさいという指示を出しました。勝つには話し合い、論理的に戦略を立てないと勝てない。コミュニケーション能力も上がり、論理的思考力、想像力も鍛えられる。また、女子もチームに加入できるので多様性も広がり、みんな楽しそうです。eスポーツチームの生徒は、ゲームを経験することでプロのゲーマーにはなれないと感じたようです。プロって半端じゃない、すごいなぁと気づくことから始まります。彼らがそうやって体験することで価値観が変わっていくことが成長だと思います。

福翔高校は運動部が強い学校でしたが、一方でスポーツが苦手な子たちもおり、その子たちが活躍する場所を作りたかった。なのでeスポーツチームの活動だけでなく、文化祭はeスポーツの種目でもある「ウイニングイレブン(ウイレレ)」のクラスマッチを開催しました。運動競技ですと1年生が3年生に勝つ、女子が男子に勝つことが珍しいなかで、すごくいい光景でした。特別枠のシードとして教員も入っており、ウイイレではスライディングで教員側が削られるんです。ドラマがあってとても面白かったです。

新しいものを理解するためには勉強が不足している

福翔高校でのeスポーツの取り組みは生徒たちに活躍と成長の機会をもたらした。だがその一方で、eスポーツチームの設立時には全国から批判の声があがったという。

谷本:「税金を使ってどうしてゲームをするんだ」など、私のTwitterのDMもひどかったですね。取材に来た記者からは「ゲーム依存が問題視されているなか、あえて子どもたちにゲームをさせるとは何を考えているんですか?」という質問も受けました。そこはあえて学校がやらないといけません。学校に来ることができない子がいても、放課後に一緒にゲームをやろうと誘って来られる子もいる。ゲームは教育のツールとして色々な使い方ができますが、日本ではゲームがダメという価値観が根強く、批判のほうが多かったですね。

――香川県でもゲームは1日1時間(学校などの休業日は90分)という「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」が昨年の4月に施行されました。

(参照:ゲーム条例めぐる訴訟、原告「憲法違反」 県は争う姿勢

谷本:あの条例も大人の都合で作られたものです。テクノロジーがどんどん発達していき、新しいものが出てくることを大人が勉強不足で理解できていない。1990年に出たスーパーファミコンを体験してきた人がいまの40代。50代以上はなかなか現状を理解できないのではないでしょうか。うちの妻にも「なんてことをするの? 学校でゲームをさせるなんて、やめなさい!」とか、いろいろ言われました。でも今はやってよかったね、と。

十束:何がきっかけで奥様の考え方が変わられたんですか?

谷本:福翔高校の生徒の変わりようを見てですね。「やめなさい!」と妻に言われて悔しかったので、「こんな風になったよ!」と報告していました。学校側は子どもたちの姿を見て、柔軟に考えてくれるようになりました。福翔高校は茨城国体「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」に出場できたので、学校に垂れ幕を作りました。それを作ってあげたかった。運動部の横に「eスポーツチーム、全国大会出場!」と。

十束:私も学校になじめなかったので、こんな先生がいたら幸せだなと思って涙が……。

――ゲームを通じて子どもやプレーヤー同士のつながりが密になる一方で、ゲームに触れてこなかった世代との断絶が広がるのでは?と感じます。

十束:私の親はゲームに理解がある親だったのでありがたかったのですが、親御さんの中にはやっぱりゲームに批判的な方もいらっしゃいますよね。

谷本:自分の中の価値観で判断し、わからないから否定的なんでしょうね。彼らが小さいころは、ゲームはよくないという流れがあった。

十束:そこでeスポーツが部活動として認識されることで親御さんや世の中の理解は高まるのではと思います。

谷本:行政や教育委員会がよくゲームを理解し、公立高校を含めた学校側がどう展開していくかは大きいと思います。福岡は例えば、他の高校でもeスポーツの部活動を始めるなど、街自体がゲームに力を入れている環境があります。工業系の高校だとプログラミングなどの授業とミックスできたり、商業系ならコンピューターの授業と絡めてeスポーツに取り組んでみたりというのが可能です。

先生が変われば子どもも変わる

前回のももち選手との対談では、ネットゲームにおける視聴者のマナー問題が浮上し、eスポーツがより文化として認知されていくには視聴者のマナーを向上させる必要があることに話が及んだ。

十束:オンラインゲームのチャットで他人や選手を中傷することが問題になるなど、一部のゲームで視聴者のマナーが問題となっていますが、教育者としてのお考えを教えてください。

谷本:ゲームを問題に結び付けやすいだけだと思います。そこには家庭の教育や、育ってきた環境、プロセスがあります。ゲーム依存に対しても、環境の問題や依存するまでの過程がある。そこに目を向けずに依存元のゲームだけが悪いという人が多いのではないでしょうか。ゲームへの理解が足りていない人がネガティブなことを言っているのだと思います。ゲームやeスポーツだけではなく、ほかの部活でもいろんなことがあり、それぞれの問題だと思います。

少し話がそれますが、このコロナ下で雙葉学園ではYouTubeに「YouTube校福岡雙葉中学校・高等学校」チャンネルを作り、全国の困っている子どもたちのために2000本ほどの授業動画を一般公開しました。

それでもネガティブな意見は来ました。世の中にはいろんな意見を言う人がいますが、そういう人たちには言わせておけばいい。責任者が覚悟して進めばいい。その覚悟をするという部分が現在の教育界では、なかなか勇気がいることかもしれないです。けれど、先生が変われば子どもたちも変わることができる。

校長の私は直接教育にたずさわることはできないので、人を育てる環境を整えることを重視しています。実際、教えたり様々なことをしたりするのは先生なので、彼らが毎日学校に来て頑張れるようにしていく。先生も人だからもちろん毎日元気ではないですが、元気でないといい教育はできない。人と人の関係性を大切に、継続していく、これは企業にいた時からそうやってきました。

日本のほとんどの学校は「主体性が大切だ」と言っていますが、本当に教師陣がそれを納得してやっているのかというのは別です。子どもたちが当事者意識をもち、大人になったときに自分で考えて責任ある行動をとれるように、そのための準備をする場所が学校なので、いろんな体験が必要です。

雙葉高校では、子どもたちの能力を開花させるために、学習意欲や知的好奇心を高める授業を展開しようと話しています。一方で、オンラインを使ったデジタルな授業も目いっぱいやっている。それでも一番大切なのは、アナログな対面の部分です。ここに魅力がなければ、子どもたちは学校に来ません。みんなが学校に来て笑いながら学習できる環境を大切にしようと取り組んでいます。ただ、なにかしら障害があって、それができない学校が多いのかもしれないですね。

日本の教育システムの話になりますが、学校の管理職、校長や教頭は様々な場所から入ったほうがいいと思います。先生が色々積み上げてなることも大切だけど、異業種を経験した人が学校に入り、子どもたちを教育していく。これからの学校はいろいろな価値観や多様性がなければいけないと思います。先生が変われば子どもたちも変わる、先生の一言が子どもの人生を決めてしまうこともある。だから頑張りますよ。頑張るというか、突き進むだけです。

十束:谷本先生、ありがとうございました。

次回は大会や協会に対しての企業の取り組みについて、サントリー食品インターナショナルに話をうかがいます。

(取材・構成:小川翔太 動画:林紗記、佐瀬醇)

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