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上間常正 @モード
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ファッションが示す未来への希望 2021秋冬コレクション

日本と世界のトップブランドが一斉に新作を発表する2021年秋冬コレクションが、今週でほぼ終わった。ファッションの発信はもう数年前から、大きな変化をきたしている。去年は新型コロナウイルスの影響で、ランウェーショー以外の発表方法を試みるブランドが目立った。しかし今年は観客なしではあっても、ショー形式への回帰が増えたようだ。ショー以外の形式では、映像を重視した舞台衣装のようなデザインになりがちだったためなのかもしれない。

ファッションにおける「直球の力」とは

数年前からファッションが新たに表現しだしたのは、女性や性的マイノリティーへの差別、地球温暖化による自然災害、大量の廃棄物による環境汚染を正面から告発するメッセージだった。こうした主張は、それまでのファッションの表現ではほとんどなかった。特に1960年代以後のプレタポルテ(高級既製服)は、基本的に大量生産を前提にしていて、他分野も含めたそんな生産の仕方の旗振り役を担っていた。

そういった事情からすれば、ファッションの新たなメッセージは画期的なものだった。だが、それはいかにもストレート(直球的)で、ファッションの表現とはどこかなじみにくい印象を拭えないともいえた。ところが、今年秋冬の表現を見ると、多くのブランドやデザイナーが直球ではなく、それぞれの個性的な変化球を使うようになったと思えるのだ。

はからずも野球を引き合いに出してしまった。球技の世界では、例えば卓球では優れたカットマンでも、剛球のスマッシュの使い手にはたいてい最後に負けてしまう。野球なら、変化球が生きるのは、力強い直球を投げる力があってこそだと言われる。では、ファッションの場合の直球の力とは何か? それは多分、ファッションが数年前から打ち出したメッセージを支えている、時代への敏感な危機意識の力なのだと思う。

クリスチャン・ディオールは、幼い頃の思い出と今の成熟を融合させたような「おとぎ話の世界」を披露した。たとえば赤頭巾ちゃんのようなケープ付きの赤いコートと、どぎついメイクとまなざしで現実の世界をみすえた顔は、その“融合”を象徴しているようだ。おもちゃの兵隊の軍服を再解釈したカシミヤのピーコートや、小学生のような白いシャツとジャンパースカートの組み合わせなども……。

ファッションが示す未来への希望 2021秋冬コレクション

クリスチャン・ディオール 2021年秋冬コレクション

ディオールのデザイナーに女性としては初めて就任したマリア・グラツィア・キウリは、当初はフェミニズムの理念をストレートに打ち出して注目された。それから数年たった今回のコレクションは、その主張がより成熟して説得力を増したといってよい。

ミラノではプラダが、前シーズンに続いてデザイナーのミウッチャ・プラダとベルギー出身のラフ・シモンズと協作した新作を発表した。しかし、前回のミニマルなスタイルとはうって変わって、今回は「変化と変容、開かれた可能性」とのコンセプトで、クラシカルなスタイルと現代的な力強さを混ぜ合わせた、インパクトと深い象徴性に富んだ服になった。深い緑色の古典的なシャツの上に着ている大胆な形のコート。黄色のコートと鋭角的なデザインの機能的な黒いバッグ、スエードのブーツの対比が現代的な強いエネルギーを感じさせる。

ファッションが示す未来への希望 2021秋冬コレクション

プラダ 2021年秋冬コレクション

ロエベは「エレクトリシティ、衝撃」をキーワードに、形や色を飽和状態まで駆使した視覚的な服。大胆に膨らんだ形に緑や青、グレー、朱などの幾何学的な線を配したキルティングコート……。新聞に新作の写真を載せた冊子を織り込むという取り組みも。表紙に「特報・ロエベ、ファッションショーを中止」との“ニュース”を載せ、小説も掲載した冊子を世界の主要紙、日本では朝日新聞の一部の世帯に折り込んだ。

ファッションが示す未来への希望 2021秋冬コレクション

ロエベ 2021年秋冬コレクション

またエルメスは、パリでランウェーショーを行い、ニューヨークと中国・上海からダンスのパフォーマンスをライブ発信した。パリ・コレの “トリ”役を飾ったルイ・ヴィトンは、ルーブル美術館のミケランジェロ・ギャラリーを舞台に、同館のエトルリア、ギリシャ、ローマ彫刻の数々の時を超えた対話のような服を発表した。デザイナーのニコラ・ジェスキエールは「実験的伝統主義」と述べているという。

ファッションが示す未来への希望 2021秋冬コレクション

エルメス 2021年秋冬コレクション ©Filippo Fior

ベルギー出身のドリス・ヴァン・ノッテンも、ダンサーらが新作をまとって激しく踊った。テーマは「情熱への呼びかけ」。純粋さと熱情、抑制と奔放(ほんぽう)など相反する要素を盛り込んで、強い情熱への思いが確かに伝わってくる。たとえば、薄いベージュのオーバーサイズのテーラードジャケットと透けた茶色の下着のようなドレスの組み合わせは、マスキュリンとフェミニンの対立と融合を表現しているようだ。

ファッションが示す未来への希望 2021秋冬コレクション

ドリス・ヴァン・ノッテン 2021年秋冬コレクション ©Casper Sejersen

こうした各ブランド、デザイナーの表現の試みを、ネット配信で見て強く感じたこと。それは、それぞれが今回こそ本格的に自らの過去のアーカイブと向き合い、そのことで不確定な未来へ向かって進もうとの強い意識なのだと思う。気候変動や性差別、人種差別などの危機的状況は、SDGsのような曖昧(あいまい)で悠長な動きではとても間に合わない。新型コロナウイルスがこれほど恐れられているのは、このパンデミックが今の危機的な状況をあぶり出してしまったからだ。

新規感染を避ける努力をあえて否定する必要はないだろう。だが、それより必要なのはコロナを正しく恐れ、未来への希望を求めて前に進む努力なのではないか。ファッションはそのことを示し始めているのだと思う。

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