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アニメ『ゴジラ S.P』始動【2】作家・円城塔「脚本を書き上げた今も、ゴジラとは何かを問い続けている」

いまや日本だけでなく世界でも人気を博す「ゴジラ」。1954年に第1作の映画が公開されてから現在に至るまで、国内外問わず生み出された30を超える作品数がその人気を物語っているだろう。そして2021年、令和にして日本国内では初のTVアニメシリーズ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』がスタートする。さまざまなエンタメ分野で活躍するクリエーターやアーティストへインタビューする本連載「Creators Book」で、『ゴジラ S.P』スタッフ・キャストの本作へ込めた創意工夫や思いに迫る特集を4回にわたって掲載します。

2回目はシリーズ構成・脚本を務めた円城塔さんに、参加経緯や本作の苦労と制作秘話を聞きます。

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SF考証の参加から一転、シリーズ構成・脚本に

小説家である円城さんがアニメのシリーズ構成・全編脚本を務めるのは『ゴジラ S.P』が初となる。当初は脚本家としてではなくSF考証として参加が決まっていた。SF考証は、物語の中に描かれるSF表現が科学の基本的原則に準拠しているかを検証する役割を持つ。例えば、「ゴジラ」が口から熱線を吐く、背びれが光るという設定に対し、SF考証は「それはなぜなのか」「科学的に辻褄(つじつま)が合うのか」と考えるのだ。直接的に物語上で描かれないとしても、科学的な根拠に基づく裏設定を用意することで、ドラマとしての厚みが出るという。

当初のSF考証の役割から円城さんはなぜシリーズ構成・脚本としての立場にうつったのか。その理由は「ストーリーとSF設定を分離しない」高橋敦史監督の作劇手法にあった。

「高橋さんはストーリーとSF設定が結びつき、話が進んでいくようにしたいと。物語の設定と考証を繰り返し積み上げていった結果、別の脚本家へ依頼用の設定を書き出すことさえ現実的ではない状態になっていました。そのため、高橋さんと設定を詰めていた僕が脚本を書くことになりました」

“円城ゴジラ”か “高橋ゴジラ”か

本来であればあらかじめ用意された設定・あらすじ、世界観のイメージボード(美術)を見ながら、シリーズ構成を固め、脚本を書いていく。ところが本作は、そういった素材はほとんどない状態。手探りで進めていく特殊なつくり方だった。

「ゴジラとは、という設定は過去シリーズからの積み上げがあります。その上で、現代を舞台に自衛隊と戦うという状況を考えたときにはやはり、ゴジラはバンカーバスター(地中貫通爆弾)に耐えられるのかといったことは考えなければならない。倒されても困るのでそれをなんとかするように作劇に合わせて設定を考えていく、というようなことですね」

また、『ゴジラ S.P』は「ゴジラ」シリーズ初のTVアニメシリーズだ。1話30分、13話のフォーマットで表現する試み自体に前例はなく、円城さんは「2時間の映画ならこんなに苦しみませんでした」と苦笑を浮かべながら振り返る。特に困難を極めたのが、メインとなるゴジラ登場のタイミングだった。

「歴代のシリーズでもゴジラは出ずっぱりではありません。そうすると13話の中でどうゴジラを出すか考える必要があります。東宝のプロデューサーはできる限り早めに登場してほしいというけれど、ストーリーをつくる我々としてはできれば登場してほしくない。登場してしまえば一つの山が終わってしまうから、なんなら最後まで出なくてもいいくらい(笑)。では登場までのストーリーをどう埋めるか、登場したあとはどう息切れせずにストーリーを続けるか。2話に1回、13話中6回ゴジラが登場してきたらさすがに飽きるのではないか。『エヴァンゲリオンの使徒』や『ウルトラ怪獣』のように1話ごとに登場するのはどうも違うとなったんですが、おかげで構成がとても難しかったんです」

アニメ『ゴジラ S.P』始動【2】作家・円城塔「脚本を書き上げた今も、ゴジラとは何かを問い続けている」

高橋監督と二人三脚でつくり上げた『ゴジラ S.P』のストーリーと設定。しかし、円城さん自身「脚本に自分の名前が書かれているのはかなり意外です」と笑いながら話す。

「ストーリーを決める際、僕は分かる人が分かればよいと考えますが、高橋さんは誰が見ても分かるリアルから考え始める。全体のリアリティーレベルは高橋さんがすべて制御しています。なので、本作はなるべく“高橋ゴジラ”として見ていただきたい。脚本家として僕の名前が出たとき、とてもざわついていたじゃないですか。“円城ゴジラ”と呼ばれれば、被害担当艦として頑張りますけどね(笑)。でもこれはやっぱり高橋作品ですよ。いや、そうでもないかな……」

歴代ゴジラとは異なる、TVアニメだからこそ実現した“ゴジラ”

『ゴジラ S.P』は歴代の「ゴジラ」シリーズと異なる点が大きく二つある。一つはゴジラに立ち向かう主人公が一般人であることだ。

「国レベルで戦う話はどうしても『シン・ゴジラ』と同じになってしまうので、できないだろうと最初の段階で決まっていました。とはいえ、ただゴジラから逃げ惑う人々やゴジラが歩いているだけで普通に生活をしている人々を描くわけにもいかない」

「2時間の映画ならそれで乗り切れるかもしれません。ゴジラが登場したとして、どこか広い土地を与えておけば、たまに熱線を吐くくらいで増殖するわけでもない。来たら逃げればいいじゃんと。それはそれで面白いと思うんです。でも、13話となると視聴者のみなさんは冷静になってくる。どこかの動物園からライオンが逃げたのとあまり変わらなかったり、ドラマとしてうまく成立したけれどゴジラと関わりませんでしたってわけにもいかないじゃないですか(笑)」

それゆえ、本作では神野銘(カミノ・メイ)と有川ユンという男女二人のキャラクターをメインに据え、そこからどのようにドラマをつくり上げていくかを考えた。とはいえ国を救う権限も資金力もない一般人がゴジラを倒すのは、当然のことながら非常に難しい。そこで、ゴジラに立ち向かう鍵となるのが、主人公たちが持つ知識と技術力だ。

「ゴジラほどの大きな生物を倒すには、落とし穴か毒薬か爆弾くらいしかありません。一般のボーイ&ガールはそれすらも使えない。ただ知恵があるだけなんですが、そこででてきたのが、ロボットやAIですね」

そして、導入されたのが映画『ゴジラ対メガロ』(73年/第13作)に登場した人型ロボット・ジェットジャガーとメイの相棒である犬型人工知能・ペロ2だった。

アニメ『ゴジラ S.P』始動【2】作家・円城塔「脚本を書き上げた今も、ゴジラとは何かを問い続けている」

歴代シリーズとのもう一つの違いは“メッセージ性”を極力排除したことだ。これまでのゴジラは時代を反映したテーマを何かしら内包している。『ゴジラ S.P』でも今の時代を反映し、メッセージ性を付与することもできただろう。ところが、本作においてはエンターテインメント作品に振り切ったのだ。それは「アニメでできることをやろうとしたから」だという。

「本作は“頑張れば何とかなる!”みたいなお話です(笑)。戦争や核、環境汚染などゴジラはその時代の大きなテーマを反映してきた。それがチャレンジでもありました。本作でもメッセージ性が全く入っていないわけではありません。人間はどうしても自分たちが想像できる範囲で事柄に対処しようとする。本作のゴジラはそうではなく、根本的に分からないものとして描いています。物理法則を無視した存在、昔の自然の概念と同じですね」

「本作のゴジラは説明できない“特異点”です、本質的に不可知であるものに対する敬意はある程度必要ですよ、と無理やりテーマをつけることもできます。ただ、今を反映して何かメッセージを明言するよりも、せっかくアニメのフォーマットでの表現ですしエンタメに振り切って楽しんでいただければと」

「ゴジラ」は日本の文化的アイコンの一つ

「世の中には解けない謎が多くある。もっともそのほとんどは、考え続けていくうちにだんだん小さくなっていく。しかしここにごくごくまれに、考えれば考えるほど増え続けていく謎があり、たとえばそれはゴジラと呼ばれる。ここ数年、なんとかそれを抑え込もうとしてきたが、手記はここで途切れている。」(引用:『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』公式サイトより

『ゴジラ S.P』公式サイトに掲載された円城さんの印象的なコメント。同氏の「ゴジラ」との出会いは中学生時代に遡る。1984年に公開されたシリーズ第16作目の映画『ゴジラ』から気になる存在であった。「どこに住み、何を食べているのか」と生物として興味を持ち、その疑問を問い続けてきた。『ゴジラ S.P』の脚本を書き上げた今もなお、ゴジラへの問いはとどまることを知らない。

「いまだに分からない存在だけれども、完全に虚構という気もしない。科学的・社会的・文芸的……ゴジラはどんな文脈でも繋がれる日本の文化的アイコンの一つである、と思うようになりました。ゴジラを考えていくといろんなことが分かるんですよ。自分の知らないことが見えてくる。現実について別の見方をするための一つの手がかりとして、すごく面白いところまで育ってきたコンテンツです。だからこそ、ここで終わらないでほしいと思います」

ゴジラを継続的コンテンツにするため、本作ではこれまでになかった“エンタメに振り切る”表現をあえて選択したのかもしれない。

アニメ『ゴジラ S.P』始動【2】作家・円城塔「脚本を書き上げた今も、ゴジラとは何かを問い続けている」

最後に『ゴジラ S.P』の見どころを聞くと、「どれくらい一般的なメッセージの方がいいですかね……」と含みを持たせつつ意味深なコメントを残していった。

「各所にSF算数パズル的な要素が入っています。ストーリーに絡むものもあれば、全く絡まないものも。興味のある方やお好きな方は解いてください。たぶん解けるはずですよ」

(取材・文=阿部裕華 写真=かさこ)

プロフィール

円城塔(えんじょう・とう)

アニメ『ゴジラ S.P』始動【2】作家・円城塔「脚本を書き上げた今も、ゴジラとは何かを問い続けている」

小説家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。2007年『Self-Reference ENGINE』でデビュー。同年『オブ・ザ・ベースボール』で第104回文學界新人賞受賞。2010年『烏有此譚』で第32回野間文芸新人賞、2012年『道化師の蝶』で第146回芥川賞受賞、伊藤計劃と共著『屍者の帝国』で第33回日本SF大賞特別賞、2014年デビュー作『Self‐Reference ENGINE』の英訳版でフィリップ・K・ディック記念賞特別賞、2017年『文字渦』で第43回川端康成文学賞、2019年には同作で第39回日本SF大賞を受賞した。

作品情報

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』

アニメ『ゴジラ S.P』始動【2】作家・円城塔「脚本を書き上げた今も、ゴジラとは何かを問い続けている」

<放送・配信情報>
202141日(木)~ テレビ放送開始
毎週木曜22:30 TOKYO MX、KBS京都、BS11 /24:00 サンテレビ
2021325日(木)~ Netflixにて国内配信開始(毎週木曜1話ずつ先行配信)

<キャスト>
神野銘:宮本侑芽 有川ユン:石毛翔弥
加藤侍:木内太郎 大滝吾郎:高木渉 金原さとみ:竹内絢子
ペロ2:久野美咲 ユング:釘宮理恵
佐藤隼也:阿座上洋平 山本常友:浦山迅 鹿子行江:小岩井ことり
海建宏:鈴村健一 李桂英:幸田夏穂 マキタ・K・中川:手塚ヒロミチ
ベイラ・バーン(BB):置鮎龍太郎 リーナ・バーン:小野寺瑠奈
マイケル・スティーブン:三宅健太 ティルダ・ミラー:磯辺万沙子 松原美保:志村知幸

<スタッフ>
監督:高橋敦史
シリーズ構成・脚本:円城塔
キャラクターデザイン原案:加藤和恵
キャラクターデザイン:石野聡
怪獣デザイン:山森英司
コンセプトアート:金子雄司
CGディレクター:池内隆一・越田祐史・鈴木正史
VFXディレクター:山本健介
軍事考証:小柳啓伍
美術デザイン:平澤晃弘
デザインワークス:上津康義
美術監督:横松紀彦 色彩設計:佐々木梓
撮影監督:若林優 編集:松原理恵
音楽:沢田完 音響監督:若林和弘
アニメーション制作:ボンズ×オレンジ
製作:東宝

<主題歌>
OP:『in case…』BiSH(※「…」の正式表記はピリオド三つです)
ED:『青い』ポルカドットスティングレイ

(C)2020 TOHO CO., LTD.

TVアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』公式サイト
TVアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』公式Twitter

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