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細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」

2019年、音楽活動50周年を迎えた細野晴臣さん。その年は、日本とアメリカでライブを行い、また、幼少期からをたどるドキュメンタリー映画が公開されたり、作品世界をひもとく展覧会が開かれたりするなど、さまざまなプロジェクトが繰り広げられた。今年2月、活動の全貌がわかるブルーレイ&DVDボックスと、USツアーライブ盤を同時にリリース。作品のことや、USツアーを成功させたLAでの思い出などを語ってもらった。

初めてのLAでの経験が、50年横たわっている

――一昨年ソロのアメリカツアーで訪れたLAは、思い出の街だとか?

人生初の海外渡航がLAでした。はっぴいえんどの最後のアルバム『HAPPY END』のレコーディングをしました。1972年のことです。僕の音楽のルーツはアメリカの音楽で、少年時代はビーチボーイズなど西海岸サウンドに影響を受けて音楽を始めたので、まさに「憧れのロスアンゼルス航路」でした(笑)。

当時は直航便がなく、今よりはるかに遠かった。僕は飛行機であまり眠れず、現地の安モーテルに到着するなり昼寝しちゃった。目を覚ますとメンバーが誰もいないんです。みんな街に繰り出し、レコードショップに行っていたみたいで。後を追うように僕も街に出て、レコード店と楽器店をめぐりました。東京では手に入らないアナログ盤が山ほど売っていて、カントリー&ウェスタンのレコードをジャケ買いしまくり。30枚か40枚か、相当な重さになって帰りの手荷物は大変でした。でも、仲間の大滝詠一はもっとたくさん買ってたけどね(笑)。

そんな経験も刺激的だったけれど、やっぱり一番興奮したのはレコーディング。自分たちだけでやるつもりが、当日スタジオにヴァン・ダイク・パークスという謎の人物が現れたんです。酩酊(めいてい)しながら突然意味不明な演説を始め、なんだこの人? と。不安しかなかったのですが、セッションが始まったら素晴らしかった。彼がじつはすごいミュージシャンだということが、あとでわかったんですけど。

それまで僕らがやってきたことは、蒔絵(まきえ)のような世界だった。音や演奏を平行に並べて平面的な作り方をしていたのです。ところが彼らのやることはすごく奥行きがあった。一つひとつレイヤーを重ねるようにサウンドを作り、多層構造になっている。初めての体験だった。帰国しても影響されっぱなしでした。今は直航便ですぐに行けるし、インターネットがあるから情報は日本にいたっていくらでも手に入るけれど、やっぱり実際にその場に行き、触れ、体感することは、今でも価値があることだと思います。それをあの時代に経験できたことはとても大きかった。そこからの僕の約50年に脈々と横たわっています。

――DVDボックスの中の1枚、映画『NO SMOKING』には、パークスさんと再会する様子も収録されています。

そうそう、USツアーでライブをやった、LAのマヤン劇場まで来てくれてね。あの人、昔は僕をアメリカに入れるな、とか言っていたらしい。「ホソノはアメリカの音楽を盗むから」と(笑)。そんなこともあったけれどすごく仲良くなって、2011年にリリースした『HoSoNoVa』で共演したりと、初対面のあの日から付かず離れずで付き合ってきました。そんな彼が僕のソロのライブを見て「泣いたんだ」と目を潤ませていた。その気持ちはなんだかよくわかった。お互い50年の間には色々あったけれど、それぞれ成長もして、「めでたいな」という涙だったんでしょう。初めてのLAで出会った人に、50周年を記念してやってきたLAで再会する――。一周したなぁと感慨深いですね。

細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」
photo:Dazie

「パンダのような気分」だったけれど

――ソロ初となるアメリカツアーはNYとLAで開催されました。ライブ盤『あめりか』の解説には、「いざ大都会でやることが決まったら、おじけづいてしまった」と吐露されています。

どんな人が来てくれるのか皆目見当がつかなかった。YMOのライブだったらなんとなくわかるんです。大体は僕らと同世代で、そもそもテクノという共通言語があるから。でも、今の僕がやっているのは古いアメリカの音楽やブギウギで、それをアメリカでやっていいのかな?と。どんな風に受け止められるかがわからず、だから怖かった。

細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」
photo:飯田雅裕

――でも、NYもLAもチケットはソールドアウトで大盛況でした。

ステージでは「パンダのような気分だ。みんな物珍しいから見に来たんでしょ?」なんてあいさつしたけど(笑)、フタを開けてみたら普通に喜んでもらえたみたいでよかったなぁと。僕の同世代から若い人たちまで様々で、でもみんな純粋に音楽が好きな様子が伝わって来て、うれしかったですね。僕も日本でやっているのと同じようにとてもリラックスして楽しめました。

YMOのライブには熱狂的なファンが多く、熱狂されればされるほどステージの上の僕らはクールになる(笑)。それに、どこに行ってもどんな体調でも、YMOでは同じ音が出せる。対して今の僕のステージはすごく体調が影響する。お客さんの反応も影響します。だから、今回のツアーのようにお客さんが落ち着いて楽しんでくれていると、僕自身もすごく自然体で気持ちよく音を出せるように感じます。

――ブルーレイ&DVDボックスと、ライブ盤『あめりか』。盛りだくさんですが、見どころ、聴きどころは?

それはね、僕が聞きたい(笑)。聴いてくれている人のほうが詳しいし、最近はSNSで感想を送ってくれる人もいるんです。僕が気づいていないこと、たとえば今回の『あめりか』も「歓声の中に日本語が聞こえる」とかね。ものすごく聴き込んでくれている。

細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」
2021年2月にリリースしたアルバム『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』

これまでは、作っているときは集中しているものの、終わるとほったらかしで、一体誰が聴いているんだろう?と思いながら暮らしてきました。それが、最近はちゃんと聴いてくれている人がいる、という認識を持つようになりました。それも、みんな真摯(しんし)に聴き、評価が深い。そういう状況を知り、絶対に手は抜けないなと。手を抜いたことはないんですけど(笑)。以前は僕が作った音楽を聴いているのは自分しかいないと思っていたんですよ、本当に。でも今は聴いてくれる人の声が届いている。そういう人たちのことを考えながら音楽を作るようになりました。

好きな音楽が失われないために、今できること

――改めて音楽活動50年余り。今、どんなことを感じていますか?

去年出た、僕の半生をたどる本『細野晴臣と彼らの時代』(門間雄介著・文藝春秋)では僕が子どものころの話にも触れられているので、当時聴いていたアメリカのポップミュージックなどを追尾してラジオで流したのですが、なんと今とは違う世界なんだろうとがくぜんとしてしまって。僕が好きだった音楽が失われてしまったことに気づいたんです。サウンドもプロダクションもヒットチャートも、みんななくなってしまった。僕らと同じ世代は覚えているけれど、アメリカ人ですら若い人たちは知らない。社会の変化、時代の変化とともに仕方がないことだとは思っていますが、でもやっぱりちょっとさみしいなぁ、と。

USツアーのセットリストには1940年代のアメリカの音楽やブギウギを入れたのですが、ただ好きというだけではなく、残していきたい、伝えていきたいという思いも強くありました。誰かがやらないとなくなってしまう。だったら知っている人が伝えればいい。もっといいやり方があればそちらのほうがいいかもしれないけれど、とりあえず僕は今自分ができることをやっていこうかなと思っています。

――今のお話を思い出しながらライブのDVDを見たりライブ盤を聴いたり……。ステイホームの今、お酒が進みそうです。

確かにお酒が合いそうだね。僕自身は飲めないけど(笑)。みんなが自由に、それぞれの思いで楽しんでくれればいいと思っています。それが「見どころ、聴きどころ」かな?

    ◇

細野晴臣(ほその・はるおみ)
1947年東京生まれ。音楽家。69年「エイプリル・フール」でデビュー。70年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手がけ、プロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求、作曲・プロデュース、映画音楽など多岐にわたり活動。
2019年デビュー50周年を迎え、3月ファーストソロアルバム『HOSONO HOUSE』を新構築した『HOCHONO HOUSE』をリリースし、6月アメリカ公演、10月4日から東京・六本木ヒルズ東京シティビューで展覧会「細野観光 1969-2019」を開催した。
細野晴臣 公式サイト http://hosonoharuomi.jp/

INFORMATION
細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」

US ツアーのライブが待望の音源化!             ライブアルバム『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』2019年6月に開催され大盛況となったUSツアーの模様を、現地の熱気や空気感とともに全18曲収録。細野さんのソロ作品としては、初のライブアルバムです。

細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」

2019年の細野さんの活動を映像化した3作品 ブルーレイ&DVDボックス『Hosono Haruomi 50th ~ Music, Comedy and Movie』音楽、コメディー、映画の3作品をまとめた豪華セット(単体で購入することも可能)。音楽活動50周年を記念して2019年11月30日、12月1日の2日間にわたり東京国際フォーラム ホールAで開催された「細野晴臣 50周年記念特別公演」と、音楽バラエティーショー「イエローマジックショー3」、同年の11月に公開され全国50館以上でのロングラン上映となった、ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の3作品です。

細野晴臣さん「残したい、伝えていきたい音楽」

 

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