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花のない花屋
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あの時引っ越していたら……きっと出会えなかった4人の“息子”へ

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
猪口知加子さん(仮名) 50歳 女性
派遣社員
神奈川県在住

    ◇

21歳の一人息子と3人暮らしの我が家は、今も毎週、週末になると一気ににぎやかになります。息子の3人の友人たちがみんなでわいわい、おしゃべりをしたり、ゲームをしたり。我が家の居間に集結するからです。

デジタルにくわしく中学生の時から動画投稿を始めたA君。声が大きく、おしゃべり好きなB君。物静かだけど観察力が鋭いC君。そして、のんびり屋で天然、いやし系の息子……。個性も得意なこともそれぞれ違う4人ですが、我が家にしばしば遊びにくるようになってもう10年近く。まるで兄弟のようです。

鶏肉を1kgも買い込んで我が家秘伝の唐揚げを作り、みそ汁を2リットル作っても、育ち盛りの彼らの胃袋にあっというまに吸い込まれて、私や夫の分がなくなってしまうなんてこともありました。なんだか部活の合宿の世話をしている旅館を切り盛りしている気分。それでも4人の“息子たち”の成長を、目を細めて見ています。

彼らがうちに遊びに来るようになる少し前、家の中には重苦しい空気が流れていました。というのも夫が勤めていた会社の業績が、リーマンショックの影響などで悪化。夫はリストラに遭って失業してしまったからです。

ちょうど同じ頃、私の仕事にも不景気の暗雲が垂れ込めました。派遣で働いていたコールセンターが経費削減で、地方に拠点を移すことになり、退職を余儀なくされてしまいました。そうしてほぼ同時期に夫婦で失業したため、苦労して購入したマイホームのローンが払えなくなり、結局家を売却する事態になってしまいました。また同じ頃、PTA活動などでも人間関係に疲れ、家を売るこの機会にすべてを精算して、知らない町に引っ越したいと、家族に相談しました。

ところが小学校高学年だった息子が「学校が変わるのはいやだ」と強く反対したのです。普段はあまり自分を主張しなかったので、驚きました。小学校卒業を目前に控え、転校するのもかわいそうで、結局学区を変わらずに通える家を探して引っ越しました。

そうしてまもなく、新しく移った我が家を探して訪ねてくれたのは、小学校低学年のときに同じ県内の遠い場所に引っ越していったA君でした。引っ越しても変わらなかった我が家の電話番号に電話をくれて、わざわざ場所を聞いて引っ越し先を訪ねてくれたのです。その後同級生のB君とC君を、息子がA君に引き合わせたところから、兄弟のような4人組が生まれました。

全員が20歳を過ぎ、2人が学生、2人が社会人となった今も、週末になれば誰かしらはやってきます。好きな子の話を聞いたり、ときには我が家秘伝の唐揚げをみんなで作る料理教室が開かれたり。

4人の息子たちが楽しそうにしているのを眺めていると、ふと思うことがあります。あのとき、別の学区に引っ越していたら、こんな関係は存在しなかった。遠くの町に引っ越さないで、本当によかったと思います。

しぶしぶだった転居でネガティブになっていた我が家を、明るい光で照らしてくれたのは、4人の子どもたちでした。そんな彼らに、「いてくれてありがとう」の感謝を込めて、お花を贈っていただけませんでしょうか。

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≪花材≫キンセンカ、チューリップ、マリーゴールド、ガーベラ

花束を作った東さんのコメント

4人の“息子”がひとつ屋根の下に集まると、とても騒がしそうですね(笑)。でも小学生から今までずっと仲が良くて。大変なこともあったと思いますが、いい“息子”さんに恵まれましたね。
4人が集まったにぎやかな一家の様子をイメージして束ねました。真ん中にチューリップを集め、周りにガーベラやマリーゴールド、キンセンカを散らしました。オレンジ色で統一して、ポップな印象に。下のグリーンはルスカスで、ツンツンとした感じで花束全体をボリュームアップしてくれています。チューリップはこれからぐんぐん伸びるので、さらに元気な花束になっていくでしょう。
就職したり学生だったりと環境が違うようですが、4月に入って環境が変わる子もいるのでしょうか? この花束をきっかけに、また、いつまでもワイワイがやがや集まって欲しいなと思います。

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(文・福光恵 写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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