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スリランカ 光の島の原石たち
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ママには夢がある! 社会と、仲間とつながるスモールビジネス

写真家・石野明子さんが光の島・スリランカで見つけた、宝石のようにきらめく物語を、美しい写真と文章でつづる連載です。第9回は、母親と経営者、二つの顔をもつ女性たちのお話。

取材のために訪れた私の前に長い列ができた。「私の商品は環境に優しい材料で作っていて……」「アキコ、次は私のブランドのこと話していいかな」。自分が手掛けているビジネスのことを生き生きと、そしてうれしそうに話してくれる彼女たちはみんな母親であり、経営者だ。

ここは、そんな母親たちが集う「ドリーム・チーム」が月1回行うミーティングの場。この日の参加者は21人のママたちで、全員育児真っただなか。ビジネスのジャンルはお菓子、コスメ、ジュエリー、キッズアクティビティーと多岐にわたる。店舗は持たず、自宅で商品を製作、SNSなどで宣伝したり、商品を置いてくれるお店を自分の足で探したりしている。

「ドリーム・チーム」では互いにサポートし合うことがルールだ。自分のコミュニティーで他のメンバーのビジネスを宣伝したり、イベント時にデザインや動画作りなど自分の得意とする能力を必要とされれば、その時できるメンバーが協力する。無理を強要しないところもポイントだ。全員が母親なので互いの境遇が理解できる。どうしても家をあけられない時があることも、子供の成長段階で出てくる悩みも。ミーティングではビジネスのことを報告し合うと同時に、互いの子供の成長を喜び合う。

ママには夢がある! 社会と、仲間とつながるスモールビジネス

はじまりは「おいしいケーキを作れる人知らない?」

このグループの発起人はファリザ・デルゴダさん、6歳の子を持つママだ。始まりは2019年10月の「誰かおいしいケーキを作れる人知らない?」という、主にコロンボに暮らす母親たちが利用するグループチャットに投稿された一つのメッセージだった。

開発途上国のスリランカでは、食品や日用品など、欲しいものがどこで売っているのか探すのに一苦労どころか“五苦労”くらいする。インターネットで拾える情報はあまりなく、まだまだ口コミがものを言う。私自身も困った時はそのチャットグループに質問を投稿している。そうすると誰かが必ず返信をくれるのだ。そのメッセージにもたくさんの返信が集まっていた。「あの人は家でおいしいケーキを作って売っているよ」「〇〇のケーキを試してみて!」

ママには夢がある! 社会と、仲間とつながるスモールビジネス

「たくさんの母親が家でできるホームビジネスに挑戦している、と気付きました。私もスリランカ人の夫と結婚してイギリスからここに越してきてから、大好きなお菓子作りをして細々と親戚や友人に売っていました。顧客を増やしたくても、自分だけのコミュニティーでは限界があるし、それに仲間が欲しかった。きっとホームビジネスをする母親たちが集まったら、すごく情熱的な化学変化が起こるんじゃないかと思ったんです」

ファリザさんの思惑通り、同じグループチャットで集まろうと声をかけると、すぐに何人かの母親から「大賛成!」との返信があった。呼びかけからたったの5日後、「ドリーム・チーム」初のミーティングが開催された。決行の速さに、母親たちがいかに仲間を欲していたかがわかる。

どんな風にこのグループを運営していくか、どんな可能性を持っているか、初めてのミーティングは10人ほどだったが、みんな頬を上気させ、アイデアは尽きず、予定していた時間が大幅にオーバーしたそうだ。ミーティングを行うごとにメンバーが増えていった。

ママには夢がある! 社会と、仲間とつながるスモールビジネス

現在はメンバーが50人を超える。月1回の定例ミーティングでは大なり小なりビジネスをしている女性をゲスト・スピーカーとして招き、ゲストのビジネス形態やライフストーリーをメンバーで共有する。「メンバーがビジネスをする上で、気にかけていることへのアドバイスや私たちに何かインスピレーションを与えてくれそうな人を招くようにしています。メンバーの知り合いだったりするのですが、コミュニティーが広がっていくことは、ビジネスの広がりでもありますよね。そして自分の想定外のところからアイデアをもらえることもあります」

そんなつながりが功を奏して、2019年の12月に初めての「ドリーム・チーム」ポップアップ・ストアをコロンボ市内のショッピングモールで開催することができた。一人では場所を借りにくいが、大勢ならできる。チーム力のなせる業だ。「初のポップアップ・ストアの準備はてんやわんやでした。でも当日はお客さんが全然振り向いてくれなかったりして。前日までの緊張はなんだったのかともう笑っちゃうくらい。でもたくさんの学びがありました。ショーケースとして自分たちの商品を実際にみてもらうことができること、興味を持ってくれた人の連絡先を聞いてリストが作れたこと。やってみなければわからないですよね、何事も」。思い出し笑いをしながら話すファリザさんの笑顔は明るい。

ママには夢がある! 社会と、仲間とつながるスモールビジネス

お金だけじゃない幸せ

多くの母親が迷うところが値段の決定だ。自分たちも家計を預かることが多いだけに、金銭感覚はゆるくない。安い方が手にとってもらえると考えるのが自然だ。「迷っているメンバーがいたら、自信を持って値段をつけましょう、とアドバイスしています。それは自分らしくビジネスを続ける秘訣(ひけつ)でもあるし、真摯(しんし)に自分のビジネスに向き合っていたら、値段が高くともそれに見合った顧客が必ず現れます。メンバー同士で勇気を出して値段をつけて!と励まし合っています」と話すファリザさんが大事にしているのは「自信」。もし自分の商品を自信を持って宣伝できないのなら、参加しないでください、とも。厳しい言葉かもしれないけれど、「本気」の母親たちの集まりなのだ。だからこそ互いに尊敬して助け合える。

自分のアイデアが生み出した物やサービスが売れたとき、母親たちは大きな達成感に満たされる。「本当に気持ちがいいです! ありがとうと言われ、喜ばれる。家族からのありがとうとはまた違うもの。お金だけじゃない幸せがそこにはあるんです」。母親業が決して嫌なわけではない、家族は宝物。でも社会とつながることで、彼女たちはより自分の人生を愛し、そして母親以外の顔を持てることが何より楽しいのだ。そのアドレナリンが出る感じ、私もすごくよくわかる。

ママには夢がある! 社会と、仲間とつながるスモールビジネス

「それまで育児でもビジネスでも孤立しがちだった母親たちが、助け合いながら、成長しながら一緒に夢に向かって走っていくためのチームなんです」。うまくいくことばかりじゃない。家事とビジネスのバランスが崩れてしまう時もある。でも仲間たちの「(その気持ち)わかるよ」がそばにあるだけで、心はすごく強くなる。

ミーティングが終わると「子供を迎えに行かなきゃいけないから、先に出るね!」と足早に去っていくメンバーも。慌ただしくもあり、でもその顔には充実感がいっぱいだ。「今日もすごく刺激的でした。モチベーションを保てるのもチームのおかげ」とメンバーは口をそろえる。

「まだ子供が手を離れないから、時間の融通がきくこのスモールビジネスという形態が今の私たちにはちょうどいいんです。『もっと良い明日を』という夢はいつも心の中に。残念だけど子供に読む絵本のように魔法はないから、今できる精いっぱいの努力をするのみ、です」と常にチームのみんなを盛り上げる姉御肌のファリザさん、でもその笑顔は少女のようだ。

大人になったって泣いて笑って夢をみて。そして彼女たちは知っている。困難があるからこそ人生はより深みが増すんだと。青春は何度だって訪れる。

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