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「カウタマン」づくりは体力勝負? 家でつくるアジア旅の味・ミャンマー風おこわ編

世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さんが、アジアの旅先で味わったものを再現するシリーズ。今回は下川さんと写真家の阿部稔哉さんがバングラデシュで食べた「カウタマン」というミャンマー風のおこわです。忠実に再現するため、なんとココナツを割るところから挑戦しますが……。

■本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

(写真:阿部稔哉)

家でつくるアジア旅の味・ミャンマー風おこわ編

バングラデシュ南部のコックスバザールは、年に2~3回訪ねる街だった。そこにある小学校の運営にかかわっていたからだ。それが縁で2019年には、コックスバザールの南、ミャンマー国境に近い村で民家を借り、10日間ほど暮らした。

このエリアでの朝食。いつもカウタマンというミャンマー風「おこわ」とミルクティーだった。僕がこのエリアで世話になるのは、ラカイン族というミャンマー系の少数民族。彼らの一般的な朝食だったのだ。

カウタマンは蒸したもち米の上からココナツの果肉のスライスを載せたもの。いたって単純な料理に映った。

これなら日本の家の台所で再現できそう。ココナツはタイやミャンマーなどの食材を扱う店に行くと簡単に手に入る。

再現するアジア旅の料理もこれで4品目。今回こそ、100パーセント、バングラデシュ南部の朝食の味を家の食卓に……と意気込んだのだが。

長編動画

簡単に思えたカウタマンだったが、ココナツが硬かった。包丁などでは歯が立たない。のこぎりやなたまで登場。ココナツを割る悪戦苦闘ぶりをご覧ください。現地では皆、涼しい顔でココナツの果肉をとり出していたのですが。しかしそれを乗り越えると、現地のカウタマンに近づいていきます。

ミャンマーおこわ、そして再現の様子 「旅のフォト物語」

Scene01
パゴダ

バングラデシュ南部のコックスバザールには、少数民族のラカイン族が暮らしている。彼らは仏教徒。イスラム教を国教にするバングラデシュでは、宗教でも少数派だ。彼らの心のよりどころはこのパゴダ。僕もコックスバザールに着くと、まずこのパゴダへ。朝食のカウタマンを食べた後。

Scene02
クトゥパロンキャンプ

コックスバザールはミャンマー国境に近い。周辺にはミャンマーから逃れてきたロヒンギャ難民のキャンプがいくつもある。ここはそのなかでも最大規模のクトゥパロンキャンプ。60万人を超える難民が収容されているようだ。ミャンマーでクーデターが起き、帰国はさらに遠のいてしまったといわれる。

Scene03
東屋

バングラデシュの村で暮らしてみたい……。それは憧れでもあった。コックスバザールの南、ミャンマー国境に近いチョドリパラという村の一軒家を借りることができた。人口約500人の小さな村のなかを歩き、川沿いの東屋をみつけた。村人はここにやってきては世間話。国境の川からの風が心地いい。チョドリパラ……気に入ってしまった。

Scene04
雑貨屋

朝、借りた家から歩いて1分の雑貨屋へ。ここが朝食食堂を兼ねていた。売っているのは、ミャンマー風おこわ、カウタマン。そしてミルクティー。この2種でひとり分が15タカ、約20円。2日目からなにもいわなくても用意してくれた。ミルクティーは注文を受けてからいれる。粗末な厨房(ちゅうぼう)だが、味は一流。

Scene05
調理

カウタマンは雑貨屋のなかで売られている。ラカイン風鍋のなかにある蒸したもち米をひと握り。そこに塩をふりかけ、ココナツの果肉スライスをぱらぱらと載せる。慣れた手つきで次々にカウタマンをつくってくれる。奥のかまどでは、次のもち米を蒸している。優しい香り。村の朝は、もち米を蒸すにおいで包まれている。

Scene06
道

できたてでまだ湯気がたちのぼるカウタマンといれたてのミルクティーをポットに入れてもらい、借りた家に戻る。ここが村のメイン通り。僕らが村に着いたのは夜だった。翌朝には、村の人全員が僕らのことを知っていた。彼らは照れ屋だから、あからさまなあいさつはしないが、目を見ればそれがわかる。

Scene07
カウタマン

これがチョドリパラ村の朝食、カウタマン。もち米とココナツのほのかな甘みと、塩味が絶妙。素朴な味だが、体にしっくりと収まっていくような安心感がある。ミルクティーは濃くて甘い。朝のぼんやりした脳細胞がシャキッとする。いろんな国でさまざまな朝食を口にしてきた。そのなかでも上位に入る朝食。僕の独断ですが。

Scene08
ミーシンさん

僕らに家を貸してくれたミーシンさん。「ちゃんとやってる?」と1日に何回も顔を見せる。ある日の朝、起きると彼女がもち米持参でやってきた。毎朝、僕らがカウタマンを買っていると聞き、「私がつくってあげます」。ミーシンさんは62歳とは思えない身のこなしで、やおら、もち米を杵(きね)でつきはじめたのだった。すると頭上で音が。次のSceneで。

Scene09
ヤシの木

見あげると、青年がヤシの木に。ミーシンさんに頼まれ、ヤシの実をとっていた。杵で突いたもち米でつくったカウタマンは、餅に近いミーシンさん風カウタマン。「毎朝、つくってあげます」と胸を張る。ミーシンさんの体には、買うぐらいならつくる……という村の暮らしが溶け込んでいた。

<カウタマンの再現料理はここから>
Scene10
材料

用意したのはもち米(2合)、ココナツ、塩。ここにはないが、最後にゴマを振りかけた。材料は単純。つくり方の筋道も頭に入っている。さて、と手にとったココナツ。硬い感触が指に伝わってくる。これをどうやって割る? 家にある道具類をいろいろと思い起こす。悪戦苦闘ぶりは次のSceneから。

Scene11
ココナツ

ネットで見ると、ココナツにはくぼみが3カ所あり、そこが軟らかいとか。そこにワインのオープナーをねじ込んでみた。簡単に穴が開いた。次いでココナツの果汁を出す。飲んでみる。さわやかな甘み……。満足していてはいけない。まだ穴が開いただけなのだ。これを割らないと、カウタマンにかける果肉はとり出せない。

Scene12
包丁

まず包丁。切れ目は入るが、ココナツは頑強に割られることを拒む。その奥に刃が入っていかないのだ。で、のこぎり。くずが飛び散るがそんなことはいってられない。しかしココナツはのこぎりの刃にも抵抗する。なかなか切れ目が深くならない。最後になた。これが効いた。なただったか……。その様子は動画で。

Scene13
果肉

「パカッ」と音はしなかったが、やっとココナツが割れた。2センチほどの厚さでココナツの果肉が顔を出した。これを削る。現地には専用の道具もあるらしいが、王冠で代用できるとラカイン人から聞いていた。やってみた。「おおおーーッ」。王冠の突起が果肉に食い込み、きれいにスライスが。王冠、侮れません。

Scene14
炊飯器

もち米は電気炊飯器で炊いた。Scene5の写真を見てほしい。女性の奥のかまどでもち米を蒸していた。湯気が勢いよく出ていた。チョドリパラは一応、電気がきているが停電も多いからだ。昔ながらの蒸し方と電気炊飯器……。この違いはカウタマンの違いに現れる? そこは次のSceneの試食で。

Scene15
カウタマン

食べてみた。やはり電気炊飯器で炊いたもち米は少し軟らかい。日本のおはぎの食感に近い。比べてバングラデシュのカウタマンはやや硬い。あれだけ湯気が噴き出ているのだから。しかしそれは微妙な違い。好みの世界だろう。できあがったカウタマンが現地の味に限りなく近かった。ココナツがしっかり利いています。

※再現してみた日:4月1日
※料金はチョドリパラ滞在(2019年2月)当時のもの。

【次号予告】次回はタイの旅でよく食べたカオラムを再現。竹筒に入ったもち米料理です。

◆家でつくるアジア旅の味 第1回・油条編はこちら
◆家でつくるアジア旅の味 第2回・マカロニスープ編はこちら
◆家でつくるアジア旅の味 第3回・中国カップ麺編はこちら

BOOK

「カウタマン」づくりは体力勝負? 家でつくるアジア旅の味・ミャンマー風おこわ編

2019年に連載された台湾の秘境温泉の旅が本になりました。

台湾の秘湯迷走旅(双葉文庫)
温泉大国の台湾。日本人観光客にも人気が高い有名温泉のほか、地元の人でにぎわうローカル温泉、河原の野渓温泉、冷泉など種類も豊か。さらに超のつくような秘湯が谷底や山奥に隠れるようにある。著者は、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに、車で超秘湯をめざすことに。ところがそれは想像以上に過酷な温泉旅だった……。台湾の秘湯を巡る男三人の迷走旅、果たしてどうなるのか。体験紀行とともに、温泉案内「台湾百迷湯」収録。

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