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相棒と私
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松山ケンイチさん、二人三脚で挑戦し築いたキャリア「僕は簡単に消えていた」

友達とも恋人とも違う、仕事を通して同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回は、映画「BLUE/ブルー」で主演する松山ケンイチさんにお話を聞きました。

     ◇

私:松山ケンイチ(俳優)
相棒:マネージャー

「僕を俳優として成立させてくれたのは、間違いなくマネージャーたちです」

「16歳からこの仕事を始めたので、これまで多くのマネージャーが担当してくれました。どの方にもお世話になってきたので、僕の相棒は誰かひとりではなく、『マネージャー』とさせてください」

デビューしてから仕事が少なかった20歳頃まで、ファストフード店や引っ越し会社など多くのアルバイトも経験した。ところが、「ほとんど不適格。あまり良い状態でバイト仲間とやっていけなかった」と言う。

「わがままであまのじゃく。みんなが右を見たら左を向きたくなってしまう。性格がひねくれているんです。そんな僕をきちんとかじ取りしてくれたのがマネージャー。この人たちがいなかったら、僕は簡単に消えていたし、仕事もなかなか成立しなかったのではないかと思います」

松山ケンイチ

彼の名を世に知らしめた最初の作品と言えば、映画「男たちの大和/YAMATO」(2005年)だろうか。オーディションで角川春樹に見いだされ、演じた海軍特別年少兵役は日本アカデミー賞ほか多くの賞レースで新人賞に輝いた。翌年の映画「デスノート」で演じたL役でブレイク。07年は「セクシーボイスアンドロボ」(日テレ系)で連続ドラマに初主演を果たし、この年は6本の映画に出演している。

自分の感情をコントロールできずにいた20代

輝かしいキャリアのスタートを切った20代は多忙を極めたが、「仕事が人生だ」と思ってがむしゃらに働いた。憑依(ひょうい)型俳優と称され、体重の増減もいとわない。役作りのストイックさでも一目置かれる存在に。だが、ストイックに役を突き詰めるほど周囲にも迷惑をかけていた、と今は思う。

「20代は体力はあったかもしれませんが、忙しすぎて精神的にすり減ってしまい、訳がわからなくなってしまう時がありました。そんな時の感情のはけ口がマネージャーです。『なんで朝まで仕事をしているんだ!』と当たったこともありました。撮影の都合上、仕方がないことなのに、自分でもどうしようもなくて不満をぶつけていたんです。今でこそ、こうしてペラペラと話しますが、20代の僕はうまく自分の感情を表現することができず、人とのコミュニケーションがうまく取れませんでした」

松山ケンイチ

そんな感情をうまくコントロールできない松山さんを見越して、マネージャーはケアしてくれたと言う。「もう限界という時も、スタイリストさんやメイクさんなどと一緒になって僕を笑わせてくれた。僕の気分が落ち着くように、ずっと支えてくれました」

マネージャーの一言がなかったら……

松山さんにとって、マネージャーは「自分の代わりに就職活動をする人」でもある。だから、自身は“履歴書”に面白いことを書けるようにきちんとした生活をしなければいけないと思っている。出演作選びは互いに意見を出し合い、熟考して決断。どんな仕事をいつやるか、といったプロデュース的な仕事は基本的にマネージャーが担当する。

出演作の選定では、マネージャーから思いがけない作品を勧められることがある。例えば、映画「ノルウェイの森」(10年)がそうだった。

「『オーディションを受けてくれ』と言われたんですが、当時、青森で『ウルトラミラクルラブストーリー』という映画の撮影をしていました。それが津軽弁のものすごい訛(なま)りだったんです。『こんなに訛っているのに、なんで都会的なセリフを話さなくちゃいけないんだ』って言いました」

松山ケンイチ

結局、色々と考えて「訛っていてもいいならやるよ」とオーディションを受けたら決まってしまった。

「まさか決まると思っていなかったので驚きました。監督がトラン・アン・ユンさんで、海外の監督と一緒に仕事できたのは新鮮で楽しかったです。マネージャーの一言がなければあり得ない仕事でした」

仕事を休んでいいですか?

二人三脚で築いてきたキャリア。マネージャーと信頼関係を築くために松山さんは、「嘘(うそ)をつかないこと」を心掛けてきた。

「お互いのことを考えたら、嘘をつかないといけない場面も出てきます。でも、相手を傷つける嘘とそうではない嘘の分別はあります。嘘をつけば信頼が一気に崩れてしまう。そうなってはお互いもったいない。信頼を失わないためには嘘をつかないことが大前提です」

松山ケンイチ

時に喧嘩(けんか)をしながらも、意見を尊重し守ってきてくれた。信頼するマネージャーから掛けられた、心に残っている言葉を尋ねると、こう語った。

「数年前に『仕事を休んでいいですか』と聞いたら、『いいですよ』と一言、言ってくれたんです。当時、僕は育児休暇というか、子どものことを考えて一緒にいる時間が必要だと思ったのと、休む間にいろんなことを得られる確信があったのでお願いしたんです」

「恐らく『いいですよ』の裏にはいろんな感情があったと思います。『いいわけないだろ!』とか『色々営業しているのにどうするんだよ!』とか(笑)。それでも、ただ『いいですよ』と言ってくれた度量の大きさに感激しました。そう言われたからには、自分もきちんと何かを手に入れて戻ってこなければいけないという励みになりました」

出演を断ろうとしていた映画「BLUE/ブルー」

映画「BLUE/ブルー」

(C)2021「BLUE/ブルー」製作委員会

最新主演映画「BLUE/ブルー」で演じたのは、負け続きのプロボクサー・瓜田信人。当初は、出演を断ろうとしていた。松山さんは台本を読んでその完成度の高さに感動したものの、「この映画の良さが伝わらなかったら……。僕の演技が下手だから」と、自分が出演することで、この作品を傷つけることになるのではと考えていた。

実は、松山さんはボクシングと関西弁の仕事は受けないようにしていたと言う。理由は芝居が芝居にしか見えない可能性があるから。だが、共演の東出昌大さんと話をしたことでその思いが変わった。

映画「BLUE/ブルー」

(C)2021「BLUE/ブルー」製作委員会

「それで、『1年ボクシングジムに通わせてください。それが許されるならお引き受けします』と言ったんです。本当は半年後に撮影がはじまるという話でしたが、ボクシングを半年でなんとかして、役になるというのは無理だと思ったからです。そうしたら、1年間待っていただけることになり、決めました。待っていただけるなら、もうやるしかないじゃないですか(笑)」

1年間ボクシングジムに通い、撮影が延びて、結果2年を掛けて準備をした。

自分にとっての幸せを知っている人

終始親しみやすい雰囲気で取材に応じてくれた松山さん。その温かみは、負け続けても「こういう人生も悪くないかも」と幸せな気持ちにさせてくれた、映画「BLUE/ブルー」の主人公・瓜田と通底するように感じた。

映画「BLUE/ブルー」

(C)2021「BLUE/ブルー」製作委員会

「勝ち負けというのは、本当は自分の中にしかない。だから、お前の負けだよって誰かが言ったとしても、自分は勝っていると思っている人に、何を言っても変わらない。試合の勝ち負けだけではないと思う。そういう意味で、瓜田はボクシングの試合では黒星だらけですが、得ているものは黒星だけではないとすごく感じるんです」

「他人に『あんた(ボクシングを)辞めたら』って言われた時に、『これしかないんですよ』と言えるのは、幸せなこと。瓜田にはちゃんと自分の居場所があるという感じがします。彼は何も我慢していないし、すごくシンプルな生き方をしている。そういう意味でも幸せな人だと思います」

松山さんもまた、演じることに「ものすごく幸せを感じている」人だ。だからこそ手を抜かず、「一生懸命やっているマネージャーに対しても、適当に返すわけにはいかない」と役に励む。これからも力まず、楽しむことを忘れず、試行錯誤を繰り返しながら、マネージャーと二人三脚で歩み続けるのだろう。

(写真 植田真紗美)

     ◇

松山ケンイチ(俳優)
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年に俳優デビュー。2005年に『男たちの大和/YAMATO』(佐藤純彌監督)で一躍注目を集め、続く『デスノート』『デスノート the Last name』(ともに06年、金子修介監督)で大ブレイク。2016年には、『聖の青春』(森義隆監督)で第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第59回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は、『怒り』(16年、李相日監督)、『関ヶ原』(17年、原田眞人監督)、『ユリゴコロ』(17年、熊澤尚人監督)、『宮本から君へ』(19年、真利子哲也監督)、『ホテルローヤル』(20年、武正晴監督)、『ブレイブ‐群青戦記‐』(21年、本広克行監督)など。公開待機作に『川っぺりムコリッタ』(荻上直子監督)がある。


「BLUE/ブルー」

ブルー、それは青春の色、挑戦者の色。どれだけ努力しても、どれだけ才能があっても、約束された成功なんてない。それでも前に進む姿が胸を打つ、静かに熱い若者たちの物語 。
「流した涙や汗、すべての報われなかった努力に花束を渡したい気持ちで作った」 。監督・脚本を務めた?田恵輔がボクシング人生30年の中で見続けてきた様々な人物から着想を得た本作で描いたのは 、努力を尽くす者たちの美しい姿。どんな困難が立ちはだかっても、情熱を絶やさず、何度でも立ち上がる男たちが観客の胸を熱くする。

映画「BLUE/ブルー」

(C)2021「BLUE/ブルー」製作委員会

松山さんはボクサーの体づくりにあたって、意識したのは筋肉バキバキではなく、リアルなボクサーの体。「ボクシングをやっていれば、それに必要な筋肉が付くのではないかと思って、ボクシングしかやらなかった」と言う。つまり、「縄跳び、ミット打ち、サンドバッグを打って腕立て伏せ、腹筋、また縄跳びという感じです」。リアルなボクサーの姿をスクリーンに焼き付けている。

<ストーリー>
誰よりもボクシングを愛する瓜田(松山ケンイチ)だが、どんなに努力しても試合は負け続き。友人で後輩の小川(東出昌大)は、抜群のセンスを見せ日本チャンピオン目前だ。しかも、瓜田の初恋の人でボクシングを始めるきっかけを与えてくれた幼なじみの千佳(木村文乃)との結婚も近い。そんな2人が所属するジムに楢崎(柄本時生)がやってくる。女の子にモテるためにボクシングを始めた彼だが、意外な才能を発揮して……。シビアなプロボクシングの世界を舞台に、挑戦者を象徴する青コーナーで戦い続ける若者たちを描いた青春映画。

出演:松山ケンイチ 木村文乃 柄本時生/東出昌大 守谷周徒 吉永アユリ 長瀬絹也 松浦慎一郎 松木大輔/竹原ピストル/よこやまよしひろ

新宿バルト9ほか全国公開中。
(C)2021「BLUE/ブルー」製作委員会

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