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私のファミリーレシピ
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黒糖蒸しパンとチャイの味

ニューヨーカーの“おふくろの味”をつづる「私のファミリーレシピ」。人種のるつぼと呼ばれるこの街で、彼/彼女を形づくる食のルーツを探ります。今回も、ブルックリンのクラフトフェアで知り合ったジェンのお話です。

ジェンの母方の祖母、アデラインさん直伝のモラセスクッキー。元々は、アデラインさんのお母さんが、1800年代後半に『Yankee Magazine(ヤンキーマガジン)』という雑誌に掲載されていたレシピを見つけたのが始まり。以来娘たちへ、代々受け継がれてきたという。

「私が初めてこのクッキーを作ったのは、たしか祖母の家を訪ねた、7歳の時。ベーキングソーダと水を合わせて、モラセスに加える工程があるんだけれど、泡みたいに膨らむのね。子どもの私は、感動してしまって。スパイスのなんともいえない香りも気に入って、このクッキーが大好物になった」とジェン。

黒糖蒸しパンとチャイの味
10歳から16歳まで、父親の仕事のため東京で暮らしたジェン。母のエスターさんは、日本料理のなかでもトンカツが好物に。「今でも母のところに遊びに行く時は、ブルドックソースが手土産」
黒糖蒸しパンとチャイの味
材料も手順もシンプルなモラセスクッキー。唯一注意することは「オーブンで焼きすぎないこと」

「さて、準備はいい?」

ジェンがガスコンロの上に鍋を置き、マーガリンを入れて火にかけた。そこにモラセスを加えると、甘く、ほろ苦いような、黒蜜のような香りが立ちのぼる。私の頭のなかには、あんみつの絵がビビッドに浮かぶ……。

砂糖と粉類を、それぞれ別々のボウルに用意したら、小さな鍋をもうひとつコンロの上へ。その鍋で少量の湯を沸(わ)かしながら、ジェンが言う。

「ここからが、いちばんクールなパートだからね!」

沸いた湯にベーキングソーダを加え、それをモラセスの鍋に注ぎ入れると……、むくむく、もこもこ、茶色い液体が膨らみだす。急いで鍋を砂糖の入ったボウルの上へ移動し、まだまだ育つ茶色い泡を夢中で眺める私たち。まるで理科の実験みたいだ。

黒糖蒸しパンとチャイの味
ベーキングソーダを溶かした熱湯を、モラセスの鍋に加えたところ。あっという間に膨らんでくる
黒糖蒸しパンとチャイの味
最大限にモラセスが膨らんだところでボウルに流し入れ、砂糖を溶かす。「以前間違えて、2倍の量で作ったことがあって。わかる? ものすごいことになっちゃった(笑)」

ほわほわのモラセス液で砂糖を溶かし、小麦粉やスパイスを混ぜ合わせ、クッキー生地は完成。あとは型に入れて、冷蔵庫で寝かせるだけ。

「卵や牛乳が含まれていないから、冷蔵庫で長期間保存ができる。冬になると祖母は冷蔵庫に常備していて、祖父が仕事から帰ると、生地を何枚かカットしてオーブンで焼いてあげていた」とジェンが言うように、生地を食べたいときに切ってオーブンへ。いつでも焼きたてを楽しめるのが、このクッキーの良さでもある。

黒糖蒸しパンとチャイの味
真っ黒な金塊……ではなく、クッキー生地。冷蔵庫で一晩寝かせたもの。寝かせることで、マーガリンがなじみ、生地はさらにみっちり、密になる

端から包丁で切っただけの四角い生地を天板に並べ、オーブンで焼くこと10分ちょっと。「生地を丸く抜いたり、くるくるっと巻いたりもしない。しゃれたクッキーではないけれど、フリーフォームで手軽でしょ」とジェン。焼き上がったクッキーは、直線がまあるく膨らんで、ふくふくとしたパンのような姿。

待ちきれない私たちは、網の上に並べたクッキーをさっそく、はふはふ、味見した。

四隅の部分はサクッと香ばしく、内側は初めふわり、それから、ブラウニーのようなもったり、ねったりとした食感へとうつろう。そういえば、この味、どこかで食べたことがあるような……。思い出したのは、子どもの頃に好きだった黒糖蒸しパン。それとチャイ(スパイスをきかせたミルクティー)を一緒に飲んだら、モラセスクッキーの味になりそうだ。

黒糖蒸しパンとチャイの味
食べたいだけ切って焼く。残りは冷蔵庫へ。2週間ぐらいは保存可能
黒糖蒸しパンとチャイの味
クッキー同士がくっついてしまわないよう、天板に並べるときは、少し間隔を空けること

ちなみに、モラセスクッキーほか、祖母のアデラインさんのレシピは、レシピボックスのなかに大切に保管され、母のエスターさんが転居のたびに持ち歩いているという。

「レシピカードのいくつかは、若くして亡くなった母の妹が手で書きなおしたもの。その文字を見れば、私たちはいつだって彼女のことを思い出すことができる」とジェン。

母のレシピボックスはまだ受け継いでいないけれど……、とジェンがテーブルの上にさまざまな文字が躍るレシピカードを広げた。今から約20年前、結婚する際に、友人たちに提供してもらったファミリーレシピなのだという。

黒糖蒸しパンとチャイの味
友人たちの手書き文字が楽しいレシピカード。ほかにも、ジェンが10歳の頃から持っているレシピカードや、父ノーマンさんの好物だったというストロベリールバーブパイのレシピなども

「これはテキサスの友だちからもらった、ブラウニーパイのレシピ。こっちは……」

懐かしそうにレシピカードをたぐり寄せるジェンは、その文字に友人たちの顔を重ね合わせているのだろう。「今はオンラインで、どんなレシピも見られる時代。レシピカードは廃れてしまった慣習だけれど、いくら汚れようとも、レシピカードは思い出であり、そこには物語が詰まっている。だから私は、こうやってレシピカードを持っているのが好き。いつだって、ここに戻って来ることができるから」

私もこの先、冬を迎えたら、今日のこのレシピを引っ張り出し、モラセスクッキーを焼こう。ジェンの顔と、ふたりで過ごしたニューヨークの日々を、懐かしく、思い浮かべながら。

黒糖蒸しパンとチャイの味
メイン州の祖父母の家の前で撮影した写真。湖で釣った魚を持っているところ。左端に写っているのが祖父のフランクさん
黒糖蒸しパンとチャイの味
部屋いっぱいに広がる、モラセスクッキーのアロマは「祖母との思い出、このレシピをシェアした友だちとの思い出を、いつだってよみがえらせてくれる」とジェン

(おわり)

《レシピ》モラセスクッキー

材料(長方形のパウンドケーキ型 約2個分)
  • マーガリン
    3本(340g)
  • モラセス
    355ml
  • 砂糖
    1と1/2カップ
  • 小麦粉(ふるいにかけておく)
    6カップ
  • ジンジャーパウダー
    小さじ2と1/4
  • クローブパウダー
    小さじ3/4
  • オールスパイスパウダー
    小さじ3/4
  • シナモンパウダー(重曹)
    小さじ3
  • 熱湯
    1/4カップと大さじ2
  • ベーキングソーダ
    小さじ3
  • 小さじ2

作り方

  1. 鍋にマーガリンとモラセスを入れ、火にかけて溶かす。
  2. 大きなボウルに砂糖を入れておく。別のボウルに、小麦粉とスパイス類を合わせておく。
  3. 熱湯にベーキングソーダを入れたものを、1.の鍋に加える。すぐに鍋を砂糖のボウルの上へ移動させ、鍋の中身が膨らむのを待つ。
  4. 3.を、砂糖のボウルへ注ぎ入れる。砂糖が溶けるまで混ぜる。
  5. 4.に小麦粉&スパイス類、塩を加えよく混ぜ、ラップを敷いた型に入れる。煮るうちにバランスの取れた味わいになる)、45分またはそれ以上煮る。塩コショウで味を調える。さらにビネガーを加えても良い。
  6. 上からラップで覆い、手で押して表面を平らに整え、冷蔵庫で一晩寝かせる(冷蔵庫で最大2週間保存が可能)。
  7. 型から出した生地を5mm~1cm幅ほどにスライスする。ベーキングシートを敷いた天板に並べる。
  8. 160~165度に予熱したオーブンで12~15分焼く。焼き上がったら網の上で冷ます。
ジェンさんのブランドCOGのウェブサイト https://www.cog-made.com
ジェンさんのブランドCOGのインスタグラム https://www.instagram.com/this.is.cog/

※2020年12月の取材時のものです。

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