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〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」

大勢の人が行き交う渋谷駅前のスクランブル交差点から東急百貨店本店方面に向かって歩く。本店をはさむY字路を右手に進むと、オーチャードロードと呼ばれる通りに入っていく。

渋谷駅前から歩いてせいぜい6、7分なのにぐっと人通りが減り、落ち着いた雰囲気が漂う。“奥渋”と呼ばれて注目された時期もあるが、下町風情も感じられる。ミニシアターの「アップリンク」や個性的なカフェなどが点在し、「Book&CafeBar BAG ONE」もそのうちの一つだ。

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」

一見すると書店のようだが、奥に進むとテーブルやソファ、カウンター席などがある。

「ソファ席のあたりも、オープン当初は平台を置いて今よりもっとたくさんの本を並べていたんですけどね」

そう話すのは、店を運営する出版社・トゥーヴァージンズの取締役でプロジェクトマネジャーの神永泰宏さん(40)。2019年10月にオープンしたこの店に、準備段階からずっと関わってきた。トゥーヴァージンズはカルチャー系の雑誌や音楽、ファッション、アート系の本などを出版しているが、自社の刊行物を販売するためにこの場所を作ったのではないという。

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」

「弊社はグループ会社の一つで、他に各出版社さんの代わりに全国各地の書店への営業をする営業代行の会社、出版業界に特化した人材派遣会社、BL系コミックの出版社などがあります。それぞれのリソースを生かした実店舗を作りたいという思いがあり、本とカフェ、バーに加えてイベントスペースを兼ね備えたこの場所を作ったんです」

営業代行の経験から、本をどう売っていくかのノウハウを持っている。出版社として、編集者、ライター、写真家などといった人とのつながりもある。自社の刊行物に限らず、著者を呼んだイベントを行うことができ、新たな人との出会いが本や雑誌づくりにつながるかもしれない、というわけだ。

「人と人とのコミュニケーションがほしかったから、カフェやバーの機能が必要でした。僕も含めてお酒好きの社員が多いというのもあり、お酒や食べ物があって、腰を落ち着けてじっくりと本を読んだり、集まって新しい本の話をしたりすることができる場所にしたくて。なので、この店のコンセプトも“本を軸にしたたまり場”なんです」

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」

現在はランチメニューのみの提供だが、フード類に力を入れ、バーカウンターでは100種類以上のラム酒を取り揃(そろ)えるなど、特色を出している。

カウンターカルチャー精神を受け継いで

店内の本は約2000冊。選書は神永さんともうひとりのスタッフが行っている。ウィリアム・バロウズ、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグなど1950~60年代にアメリカ文学界で独特の存在感を放っていたビート・ジェネレーションを核に、カウンターカルチャーやヒッピーカルチャーにまつわる小説、写真集、アート系の本や雑誌などを揃えている。ほかに自社の刊行物や旅、料理、建築、絵本なども。新刊が7割、古書が3割で、古書はスタッフが古書店で吟味し、買い集めたものを並べている。

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」

神永さん自身、これまで出版社や書店営業に深く関わってきたため、売れ筋以外の本が冷遇されがちな出版業界の実情を目の当たりにしてきた。だからこそ、ベストセラーか否かにとらわれず、自分たちがいいと思って選んだ本を、確実に、1冊でも多く売っていきたいという。

「うちで出版した『沖縄島建築』は、沖縄の小さい街の書店さんが何十冊も売ってくれました。これだと思った本に特化してたくさん売れるのは小さな独立系書店の強み。僕もこの店での経験を通して、いい本を作った出版社や、それを売ってくれる小さな書店がもっと儲(もう)かる仕組みを模索したいと思っています。出版社や書店がどういう問題を抱えて、何に困っているかを間近で見てきたので、僕らにできることはあるんじゃないかと」

コロナ禍で断念したこと、気づけたこと

2階に広々とした客席兼イベントスペースを設けたのも、イベントを行うことで出版業界の活性化の一助になればと考えたからだ。しかし、新型コロナウイルス感染拡大のために、昨春から営業時間の短縮やイベントの中止を余儀なくされた。現在は1階のみで営業し、少しでも利益を確保するためにカフェスペースを拡張、イベントもオンライン開催に切り替えた。

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」

「やりたいことはたくさんあったのですが、コロナでできなくなってしまって……。でも、イベントをオンラインに切り替えたことで新たな発見もありました。2階の会場だと40人しか入らなかったのが、オンラインなら有料で300人もの人が集まったんです」

地方在住者のオンラインイベント参加者が、「東京に行けるようになったら絶対にお店に行きます!」「地方ではこうしたイベントがないのでうれしい」といったお礼メールを送ってくれることも多く、神永さんらスタッフの励みになっている。

「本というアナログの強みも再認識しています。リアルなものは絶対になくならないですし、本の場合、人から人への伝播(でんぱ)力はデジタルよりアナログのほうが強い。電子書籍だとこうはいきません。また、ある編集者が昔手掛けた本をうちの本棚で見つけて喜んでくださったことがあり、そこから『じゃあ今度トゥーヴァージンズで出す本を手伝ってくれない?』などと仕事につながったこともあって、立体的な広がりが得られるのはアナログならではだと実感しています」

本が好きな人、本を作る人、本を売る人が集まって、何かが生まれる場所にしたいという神永さんの思いは、少しずつ形になっているようだ。渋谷駅周辺の喧騒(けんそう)とは一線を画し、感性を刺激する店が点在するこのエリアで 、カウンターカルチャーの精神を受け継ぐ人たちの挑戦が続いている。

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」
神永泰宏さん

大切な一冊

ココペリの足あと』(著/ななおさかき)
詩人のななおさかきが、かつて出版した詩集に収録された作品を年代別に並べ、未発表の詩を加えたアンソロジー集。ななおは世界中を放浪する過程でアレン・ギンズバーグやゲーリー・スナイダーなどのビート・ジェネレーションの詩人たちと出会い、現代社会に警鐘を鳴らしたヒッピー詩人として知られる。

「日本ではあまり知られていない詩人ですが、海外では詩集が十数カ国語に翻訳されています。普遍的な詩を書く人で、めちゃくちゃいいんです! 子どもにも分かるようなシンプルな言葉を使って、自然破壊や資本主義社会に対する警鐘を鳴らしています。僕が個人的に好きだったというのもありますが、入り口前の本棚で20冊くらい並べていたんですね。気づく人は気づいてくれて、この本がご縁となって店の人脈がぐっと広がりました。また、店の初めてのイベントでこの詩集の朗読会もやりました。カウンターカルチャーを標榜(ひょうぼう)するうちの店ならではの出会いに恵まれ、まさに大切な一冊になりました」

〈157〉渋谷の外れ、出版社が営む本好きのたまり場 「BAG ONE」
フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)

Book&CafeBar BAG ONE
東京都渋谷区松濤1-4-8
https://bagone.jp/

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