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このパンがすごい!
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パンとおかずで夢見心地。“ブレ”さえ楽しい「真のコンビニ」/コンビニエンスストア高橋

クラフトマンシップあふれる少数精鋭のパンに、ナチュールワインや料理が供されるムーディーなカウンター。「コンビニエンスストア」という言葉から想像するものとはあまりにもかけ離れている。そもそも入り口からして、カルダモンを頭にのせた女の子が描かれた奇想天外なものだ。

だが、ある意味で「コンビニエンスストア高橋」はとってもコンビニエントである。なにしろ、パンとワインのついたセットメニュー「ファラフェル」を注文すれば、15分後にめくるめく世界へ飛んでいけるのだから。

ファラフェルのオイリーでパワフルな豆の味。きゅうりのサラダの爽快さ。そこへカンパーニュ。ぷにゅとやさしく弾み、麦の旨味(うまみ)とふすまのワイルドな香ばしさが湧きたつ。イタリアのワイン「ラ・ビアンカーラ」の泡を注ぎ込めば、涼やかでフルーティーな液体が、理性さえ一気に押し流す。

快楽のもうひとつの経路は、濃厚にして癖もないリエットからの「いちじくクルミ」。皮の香りはチョコのように甘く、コーンみたいな明るいトーンの穀物感が広がる。イチジクもリエットの肉の甘さを掻(か)き立てる。

綿密に計算されたおかずとパンとワインの連係プレーによって、猿蟹合戦の猿かと思うほど私は完膚なきまでにノックアウトされた。

パンとおかずで夢見心地。“ブレ”さえ楽しい「真のコンビニ」/コンビニエンスストア高橋
店内風景

この店を営むのは、パンを作る高橋諒自(りょうじ)さん、料理とドリンクを担当するネイトさんの夫妻。

諒自さんは、オーブンと冷蔵庫以外、電気を使わずパンを作る。つまり、ミキサーを使わず手ごねし、ホイロ(発酵機)も使わずに。「機械に囲まれていることにすごく違和感があるんです。理想はどこに行ってもパンを焼けるようになること」

コンビニエントな方法に背を向け、市販のパン酵母(イースト)を使わない。ボリュームを要求される食パンさえ手ごね。種には、昔ながらの製法を守る地元の味噌(みそ)屋「糀(こうじ)屋三郎右衛門」の麹(こうじ)を使用。

それだけに、甘さは濃厚。耳からは、キャラメルのような香り、旨みが押し寄せる。むにゅんむにゅんとたわみ、とろけ、顎(あご)の力を奪い去る様はまるで低反発枕。味噌のような香りとともにバターの甘さが発散され、まるで味噌バター味のようになる。

パンとおかずで夢見心地。“ブレ”さえ楽しい「真のコンビニ」/コンビニエンスストア高橋
食パン

ネイトさんによると、「食パンを見ると、(諒自さんが)疲れているのがわかるんです。疲れているときは、バターが混ざりきらずにデニッシュ感があっておいしい(笑)」。それは、画一的な商品が並ぶコンビニと大きく異なる部分だ。「商品がブレる」ことは店の落ち度のように言われるが、本当にそうだろうか。季節による発酵のちがいや素材の変化を楽しめる、手作りならではの魅力だととらえてもいいはずだ。

「お客様に『このパンいつもとちがったんですけど』と言われて、私は感動しました。実際そのときは、酵母の調子がいつもとちがってたんです。それを感じ取ってもらえたことがとてもうれしくて」(ネイトさん)

パンとおかずで夢見心地。“ブレ”さえ楽しい「真のコンビニ」/コンビニエンスストア高橋
クロワッサン

パンのおもしろさとは、素材に人の手や毎日の発酵の変化が加わることで予想外の風味やテクスチャーが生まれることである。自家製のレーズン種と手動のシーター(バターを折り込むための機械)で作られるクロワッサンはまさにそうだ。いわば、麦とバターが合わさった幸福な甘さの塊。レーズン種由来のフルーティーな風味はまるでパイナップル。上に伸び切れないゆえに、みっちりと詰まっていることが、風味の濃さとざくざく感、内部のしっとりふんにゃりを生んでいるのだ。

昨年11月オープンのまだ若い店、伸び代はたくさんある。

「まじめにコンビニを目指しています。コンビニって便利屋さん。お腹(なか)がすいたときだけじゃなく、切手や絆創膏(ばんそうこう)も買えたらいいな。窓際にマガジンラックを置いて『ガロ』を全巻置きたい(笑)」(ネイトさん)

パンとおかずで夢見心地。“ブレ”さえ楽しい「真のコンビニ」/コンビニエンスストア高橋
店内風景

「目標は楽しいコンビニ、もっと発酵しているコンビニ。生地も菌によってふくらんでパンになるし、それと同じように人も人と関わることでまたなにか新しいものになる」(諒自さん)

その言葉から気づく。人と人のつながりや、素材がどこからやってきたのかというトレーサビリティー、作り手の思い。食にとって大事なことが抜け落ちていたらそれは本当に「コンビニエンス」といえるのだろうか。その意味でいうなら、コンビニエンスストア高橋は、「真のコンビニ」なのである。

コンビニエンスストア高橋
東京都練馬区春日町3-4-4 春日町3丁目第2アパート4号棟
03-5848-9127
10:00頃~18:00頃
火・水・木曜休

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
「このパンがすごい!」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)

池田さんからのお知らせ

『Hanako特別編集 池田浩明責任編集 僕が一生付き合っていきたいパン屋さん。』(マガジンハウス)が発売されました。149軒のパン屋について愛を込めて書きつづっています。うつくしい写真も豊富に掲載した大判のムックです。ぜひご覧ください。

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