竹筒を火にくべて…… 家でつくるアジア旅の味・タイの竹餅編

世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さんが、アジアの旅先で味わったものを再現するシリーズ。今回は下川さんと写真家の阿部稔哉さんが、竹でつくるタイの「カオラム」という料理に挑戦します。火をおこして竹筒をくべて……。うまく再現できたのでしょうか。
■本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。
(写真:阿部稔哉)
家でつくるアジア旅の味・タイの竹餅編
タイの長いバス旅や列車旅。空腹を癒やしてくれたのがカオラムという竹餅だった。竹菓子とか竹筒めしという日本人もいるが。これは竹筒のなかに、ココナツ味の豆入り餅が詰まっている。甘い餅で、菓子といったほうがいいのかもしれない。
長い旅は食事に苦労する。とくに長距離バス。車内販売はないから、バスターミナルに停車したとき、売店に走る。短い停車時間のなかで、腹にたまりそうなものを選ぶ。そんなとき、このカオラムがあればラッキー。竹筒のなかに、ぎっしり餅が詰まっているから、この1本で救われるのだ。
あのカオラムが日本でできないだろうか。材料はもち米、小豆、ココナツミルク、砂糖、塩。手に入れるのは難しくない。あとは竹と入り口に詰めるバナナの葉……。
長編動画
材料を用意し、東京都下の秋川渓谷のキャンプ場へ。カオラムはもち米が入った竹を外火で焼くため、室内でつくるわけにはいかない。まだ風は冷たい河原のキャンプ場で、カオラムづくりの様子を。火の調整が難しく、底を焦がしてしまったが、なかにはちゃんとカオラムができている?
カオラムという竹餅、そして再現の様子 「旅のフォト物語」
Scene01
タイの列車旅。イサーンと呼ばれる東北タイ。ムアンコン駅に列車は停車した。夜明け前に列車に乗った僕は朝食抜き。そろそろ空腹を覚える時間帯、ホームの物売りのかごから漂うにおいに視線が動く。通学する子供たちも、駅のホームで朝食をとることが多い。タイの朝の駅はにぎやかだ。
Scene02
タイの列車、とくに各駅停車に乗っていると、次々に物売りが乗り込んでくる。皆、沿線の住人。車掌に話をつけて、車内で販売。彼女は家で焼いたガイヤーンを売っていた。ガイヤーンはたれに漬けた鶏肉を外火で焼いたもの。イサーンの名物だ。そのにおいに誘われてつい財布に手がのびる。
Scene03
タイでの長距離移動はバスに頼ることが多い。列車に比べて路線や便数が多く、運賃も高くない。夜行バスは食事もついていることが多いが、これから乗るこのバスは昼間便。といっても10時間以上揺られる。となると、食料を用意したほうが無難。バスターミナル内には、そんな乗客向けの店が並んでいる。それは次のSceneで。(ナーン)
Scene04
発車前の短い時間、バスターミナルの店で食料を確保する。どんなものなのか確認する時間もないので、想像力をフル回転させる。これまでの経験では半分ぐらいは外れる。想像した味にほど遠いことも多い。こんなとき、カオラムがあると助かる。竹筒だからすぐみつかる。この店にはないみたい……。落胆の表情です。(コーンケーン)
Scene05
カオラムはこんな感じで売りにくる。これは列車内だが、バスの停車時間にかごを手に売り子が乗り込んでくる。1本20バーツ、約70円前後。かなりおなかにたまるので、ひとり1本で十分だ。なかも見えず、味も確認できないが、これまではずしたことがない。たぶん100本以上食べていると思うのだが。この食べ方は次のSceneから。
Scene06
竹は表面が削られ、薄くなっているので簡単に割くことができる。まず、口に詰めてあるバナナの葉をはずし、手で割いていくと、こんな感じでカオラムが現れる。なんだかちょっとうれしい気分になるから不思議だ。これを手でちぎって口に運べばいいのだが、そのときにカオラムの秘策を指先で感じる。それは次のSceneで。
Scene07
カオラムは餅状になっているのだが、なぜか手にべとべととつかない。見ると、その表面に竹の内側にある薄皮がついている。そう、竹を使って焼くと、薄皮がカオラムを覆ってくれるのだ。いったい誰がこういうことに気づいたのだろう。いつも感心してしまう。味はかなり甘い。薄皮をむかずにそのまま食べる。竹の風味も楽しむわけだ。1本で半日は腹がもつ。
<カオラムの再現料理はここから>
Scene08
これがカオラムの材料。ココナツミルクは簡単に手に入る時代だ。バナナの葉はアジア食材店で売っていた。何枚ぐらい必要なのかわからなかったが、今回、竹筒に詰めてみると意外に使う。500グラム買って、少し余るぐらい。竹筒はネット通販で買った。5本で2640円。予想より高い。1本おまけで送ってくれたが。
Scene09
ひと晩水に浸したもち米と小豆を混ぜ合わせる。簡単な作業だが、小豆が広く分散されるように、何回も混ぜたほうがいい。今回もそうだったが、小豆がどうしても底のほうに集まってしまう。焼き方の問題もあったかもしれないが、混ぜるときもそれを意識したほうがいい気がする。
Scene10
別のボウルで、竹筒に入れるココナツミルクの液をつくる。ココナツミルク1リットル、砂糖は400グラムほどを入れ、塩を15グラムほどにした。できばえは別にして味はよかったので、このくらいの割合がいい気がする。ココナツミルクの液は多すぎた? 6本つくったが、半分ぐらいでも十分だった。
Scene11
竹筒に小豆を混ぜたもち米を入れる。「半分ぐらい、いや6~7割」と諸説あるが、竹筒のなかが暗いから、どのくらい入ったのかがわかりづらい。そこにScene10でつくったココナツミルクの液を流し入れる。しかしココナツミルクの粘度が高く、なかに浸透していかない。悩んだ末、2種類のカオラムをつくることに。
Scene12
ココナツミルクの液に水を加え、倍ほどの薄さにすると、うまくしみ込んでいく。元の粘度が高いココナツミルクの液は、割りばしなどで突いて少しずつ浸透させていった。それぞれ3本ずつ。口にはバナナの葉を丸めてぎゅうぎゅうと詰める。なかの液が押し出され、手がべとべとになってしまった。
Scene13
もち米、小豆、ココナツミルクの液が入った竹筒を火にかざした。焼き終えてわかったことは、この火加減が最大のコツ、たぶん。タイで売られているカオラムは、ほとんど焦げていない。そして竹の薄皮、もちもち感……。これらを支配しているのは、炭や薪の火と竹筒の距離に思えた。僕らは近すぎた?
Scene14
火にかけ、しばらくすると、詰めたバナナの葉の間から、ココナツミルクがじゅくじゅくと出はじめる。これが止まったら完成。その音を聞いている時間は楽しい。ところが竹筒が底の方から燃えはじめてしまった。これはまずい。急いで火を消し、火元から遠ざける。そこで少し落ち着いたが、なかはどうなっているのだろう。
Scene15
湧き出るココナツミルクが収まり、竹筒を割ってみた。やはり底がもち米まで焦げている。しかしその上はカオラム? 食べてみる。味は近い。しかしもちもち感がなく、竹の薄皮もない。少し時間がたてば……。自宅にもち帰って食べてみた。阿部稔哉カメラマンは好評価。でも、僕が食べた1本は……べちょっとしていて。タイのカオラムへの道は遠そう。
※再現してみた日:4月2日
【次号予告】次回から東京再発見シリーズ。1回目は中央防波堤と東京ゲートブリッジ。
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