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恋人を「あなた」と呼ぶエモさ 人気再燃『木綿のハンカチーフ』

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

 1 “いいえ あなた”(太田裕美『木綿のハンカチーフ』/作詞:松本隆)
 2 “楽しませるが仕事じゃん”(鳥居みゆき)
 3 “戻ってきた漫才師の口、全員臭いからな”(今田耕司)
 4 “電話に件名つけてほしいですね”(かじがや卓哉)

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

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恋人を「あなた」と呼ぶエモさ 人気再燃『木綿のハンカチーフ』

3月16日放送の日本テレビ『超無敵クラス』でのこと。SNSで多くのフォロワーを持つ10代の若者たちが最近のトレンドやニュースについてトークする中で、最近は懐メロがTikTokで人気だという話になり、その代表曲として『木綿のハンカチーフ』が取り上げられていた。今年、俳優の橋本愛さんがカバーしたのが記憶に新しい。「今の歌っていい意味で複雑じゃないですか。昔の歌ってそうじゃないから感情を込めて歌いやすい」のだという。

歌や楽器は、誰もが初めは楽しくて始めるのだけれど、あるレベル以上を目指そうとするとアスリートのようになる瞬間が来る。プレーの正確さを競う競技のようになるというか。もちろん、そこを乗り越えて、高い技術が手に入れば、新しい世界の扉が待っているのだが、みんながその境地にたどり着く必要はなく、個人的にはやはり音楽は楽しいのが一番だと思う。温泉でやる卓球が妙に楽しいように、最近の「複雑で難しい歌」よりも、昔の「シンプルで歌って楽しい歌」が支持されるのは、自然なことなのかもしれないなと思う。

『木綿のハンカチーフ』を改めて聴いて、1番の「いいえ あなた」がすごく新鮮に聴こえた。今のJポップにも二人称が「あなた」で歌われる歌はたくさんあるけれど、相手に話しかける時の呼び名として「あなた」が使われることはまずない。私が幼かった昭和の時代、テレビドラマの中の夫婦は当たり前のように「あなた」と呼んでいた。

「エモい」という理由で今の若者に昭和レトロな喫茶店がはやっているけれど、その理論でいくと彼氏を「あなた」と呼ぶのもかなりエモいと思う。そんな呼び方がはやる日が来ても不思議はないなと、ぼんやり思った。

恋人を「あなた」と呼ぶエモさ 人気再燃『木綿のハンカチーフ』

3月31日の日本テレビ『徳井と後藤と麗しのSHELLYと芳しの指原が今夜くらべてみました』でのこと。ぼる塾のきりやはるかさんが、自身のピン芸を磨きたいと、先輩芸人である鳥居みゆきさんにアドバイスを求めた。

きりやさんのフリップ芸を見た鳥居さんは「私は一個も面白いと思わないけど、自分が面白いと思うならいいと思う。突き詰めれば。でも、私思ったよ。はるかちゃんがやる意味ないと思う。誰がやっても一緒だから。(あなたがネタを披露していたとき、私はあなたの)顔見てないよ。私いま、この紙見てたよ。それ、良くない。紙だけじゃなくて、自分を紙含め、見てほしいじゃん」と表情や動きも見てもらえるようにとアドバイスした。

そして、「(あなたのフリップ芸は)私こういうの楽しいーっていうまま、楽しいと思ったことを書いたから見てーっていう感じがするんだけど、そこに苦しみが一個も感じられない。もがけよ!って思う。もがいてこその美しさじゃん。自分が楽しいは要らないじゃん、楽しませるが仕事じゃん」と言った。

エンターテインメントの世界は、いつもこの葛藤がつきまとう。自分が楽しいのは大事なことだけれど、それだけでは他の誰かを楽しませることが出来なかったりもする。

私は音楽の世界にいるけれど、「楽しく自分らしく音楽をする」のが目標だと話す人に時々出会う。そう言われると内心で大丈夫かしらと心配になる。

というのも、「楽しんでいるかどうか」は自分自身にしか分からないので、本当はそんなに楽しめていなくても、「最悪だった頃よりは少しは楽しい」とか何とか、理由をこじつければ「楽しめている」ことに出来てしまうし、逆に十分に楽しい状況が訪れても「全然まだ足りない」ということも出来てしまう。「自分らしく」に至っては、そもそもの「自分らしさ」が自分でもあいまいなところが多いから、達成したかの判断はもっと難しくなる。

だから「楽しむ」だとか、「自分らしく」だとかはいったん置いておいて、「誰が見ても成功か失敗かわかること」を目標にするのがいいと思う。「大会で優勝する」だとか、「フォロワーを10万人にする」だとか、「武道館でライブをする」だとか、これらの文言に「いつまで」という期限を持たせれば、第三者から見ても自分から見ても明らかに成功か失敗かが分かる目標になる。新生活が始まるこの季節。皆さんは、どんな目標を立てました?

恋人を「あなた」と呼ぶエモさ 人気再燃『木綿のハンカチーフ』

3月30日放送のテレビ東京『あちこちオードリー〜春日の店開いてますよ〜』でのこと。ゲストの今田耕司さんがM-1グランプリの司会のことを話していて、「テレビでは絶対に伝わらへんところで言うと、ネタ終わりにこっちに戻ってきた漫才師の口、全員臭いからな。俺、顔には出さへんけど。4分間うわーっと極限状態で、そのままの流れで来て。インタビューした時、地獄やからな。でも、ってことは頑張った証拠やん。出し切った証拠や。水分残ってへんねんもん。くっさー!が、年々、よっしゃー!みたいな」と言った。

これぞ現場の意見である。なるほど。あの大会を見ていてそんなこと、考えたこともなかった。こういう、実際に経験した人でなければ絶対に分からない話を聞くのは、それだけで楽しいものである。

私は出会った人によく何のアルバイトをしていたかを尋ねる。そして、そのアルバイトならではの「あるある話」を聞く。古着屋でバイトしていたという若者に「買い取った服のポケットに一番よく入っているものは何だと思いますか?」と問題を出されたことがある。

「小銭」「ハンカチ」「レシート」「フリスク」その場にいたみんながあれこれ答えたけれど当てられなかった。正解は「リップクリーム」なのだそうだ。買い取りに出すような服は、元値が高価な服が多い。だから、持ち込まれるのは必然的に夏服よりも冬のアウターが多くなる。なので、冬場にポケットに入れたまま忘れがちなもの、というわけで、リップクリームが多くなるのだそうだ。

言われてみると、なるほどである。風が吹けばおけ屋がもうかる、みたいなロジックが面白い。今年はどんな人に出会って、どんなあるある話が聞けるだろう。

恋人を「あなた」と呼ぶエモさ 人気再燃『木綿のハンカチーフ』

4月4日放送のBSフジ『ブラマヨ弾話室〜ニッポンどうかしてるぜ〜』でのこと。「電話が苦手な若者の増加」というテーマで、iPhone芸人・家電芸人で有名な、かじがや卓哉さんが、自身も日頃のやりとりはほとんどメールだと話したあと、「電話に件名つけてほしいですね。用件分かんないと出にくい時とかあるじゃないですか。“メシの誘い”とかタイトルだけでも」と言った。

確かに。電話が掛かってきた時に、掛けてきた人の名前や番号だけでなく用件も画面に表示することくらい今の技術なら可能なことなのではないかと思ったし、それによって便利になるような気もする。いや、でも、そうなったらなったで今度は、相手が気になるようなうその用件を書き込んで電話に出てもらおうとする人なんかも出てきて、また違うわずらわしさが新たに生まれるのかもしれない。

電話が苦手な人の理由の一つに、自分の時間を奪われるというのがあると思う。メールなら自分のタイミングで返信できるけれど、電話は掛かってきたらその瞬間に出なければならず、どうして相手の都合にこちらが合わせなければならないのだというのは、まあ、分からなくもない理屈ではある。さらに、こちらが出られなくて、後でかけ直したら今度は相手の都合が悪くてつながらない、みたいなすれ違いを何度も繰り返すと、互いに気持ちの悪い時間が長引いてストレスにもなる。

でも逆にメールだと5回も6回もラリーを要する用件が、電話で話せば3分で済むなんてこともあるから、メールと電話はそもそも比べるものではなく、どちらも当たり前に使えなくてはいけないツールなのだろう。

そういえば先日、今の若者たちはテレビは「自分勝手だから嫌い」と感じているという話を小耳に挟んだ。たしかに、YouTubeなどの動画に慣れ親しんだ世代は、見たいコンテンツは、いつでも、どこでも、見たい時にその冒頭から視聴出来るのが、当たり前である。だから、放送時間に自分の生活を合わせねばならないテレビは、自分勝手と感じるのだそう。若者のテレビ離れが叫ばれて久しいけれど、もしかしたら番組の質うんぬんよりも、そういった根本的な価値観の変化によるところが大きいのかもしれない。

電話とテレビ。一見似ていないようでいて、この二つは案外、似ているのかもしれない。

Mini Column 当たり前を疑って

アサヒスーパードライの生ジョッキ缶が楽しい。従来のタブを上げて飲み口の金属片を缶の中に押し込む方式ではなく、生ジョッキ缶はまるでツナ缶を開けるように缶の上部をガバッと丸ごと取り払えるようになっているのだけれど、そのおかげで泡が缶全体にこんもりと立ち上がって、まるでジョッキで飲んでいるような感覚が得られる。開ける時の音もプシュッ!ではなくバフッ!で、その爽快感がまたいい。

私が小さい頃、缶ジュースはどれもプルタブを完全に取り払うタイプだった。プルタブが道端や公園のそこらじゅうに落ちていて、手を切ることもよくあった。缶が現在の形になった時、なんて素晴らしい発明だろうと思ったし、それ以来何十年も変わらないからもうこれが缶の最終形なのだと思っていた。

でも、ビールに関しては違ったのだ。ふたのゴミが出てしまうという、本来なら嫌がられるはずの逆の方向にイノベーションしたことで、ヒット商品につながった。思えば昭和の時代、ゴミや吸い殻を道端にポイ捨てすることに抵抗のない人がかなり多かった気がする。モラルの上昇がこの生ジョッキ缶を生んだとも言えるのかもしれない。

昨日の当たり前を今日は疑ってみる視点は忘れずに暮らしていたいものだなとあらためて思った。

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