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THE ONE I LOVE
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マッカートニー、ザ・フー、ポール・サイモン――堀込泰行が選曲、ひねりの効いたラブソング

んな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、4月21日に3rdフルアルバム『FRUITFUL』をリリースした堀込泰行が5曲をセレクト。自身のオールタイムフェイバリットから厳選したというプレイリストには、60〜70年代の洋楽ロックがずらりと並ぶ。インタビューでは自らのソングライティング論も交えつつ、選曲理由を丁寧に語ってくれた。

〈セレクト曲〉
01. Paul McCartney & Wings「Jet」
02. The Yellow Balloon「Panama Red」
03. Paul Simon「Kodachrome」
04. The Who「Pictures of Lily」
05. 堀込泰行「五月のシンフォニー」

■Paul McCartney & Wings「Jet」

選曲テーマが“広い意味での愛”ということだったので、シンプルなラブソングは避けようということで、ペットに対する愛情を歌ったこの曲を思いつきました。ジェットというのがポール(・マッカートニー)の飼っていた犬の名前なのかな。ロックンロールの曲だし、細かい歌詞の表現がどうというよりは、とにかく「Jet」って言いたかったんじゃないかと思うんですよね(笑)。意味合いよりも、愛犬の名前を口にするときの快感を重視した歌詞になっているのかなと。だからこそ、ライブでもあまり深く考えずに盛り上がれる曲なんだと思います。

僕が歌詞を書くときにも、そういう言葉の選び方をすることがあります。今回のアルバムで言えば「Here, There and Everywhere」の「犬が」というフレーズがそうですね。図らずもポールつながり(同名のザ・ビートルズの楽曲はレノン=マッカートニー名義だが、手がけたのはポール)、かつ犬つながりですけど(笑)。この曲は、4音のメロディーに対して、3音節で繰り返しに耐える言葉を使いたいなと思ったんです。ただ、そこに日本語を使うとくどい感じになりやすい。英語だと繰り返しても大丈夫な場合が多いので、ここに「It’s too much」みたいなフレーズを当てはめることも考えたのですが、「犬が」を思いついたときに「仮にくどく感じたとしても、ストレンジな歌詞として捉えることもできるだろう」と。ある種日本語ロックのニューウェーブみたいな聴こえ方もするなと思って、突っ込まれるのを承知であえて「犬が」を使いました。

■The Yellow Balloon「Panama Red」

これはイエロー・バルーンという60年代ソフトロックのグループによる1曲で、Panama Red、つまりパナマの夕暮れを歌っています。歌詞では「どこへ行くときも君を連れて行くよ」「君を眺めているとワイングラスがすぐ空になってしまうよ」といった普通のラブソングのような言葉が使われているのですが、対象が人ではなく場所や風景になった途端に表現として広がる感じが面白いなと。リラックスした曲調とも相まって、適度な軽さやたわいなさが生まれているのがいいなと思っています。僕も川沿いで生まれ育ったので歌詞によく川が出てくるんですけど、その感覚にも似ているのかなと。加山雄三さんの「海 その愛」などにも通ずる話だと思いますが、そこで生まれ育った人にとってその風景は単に自然の一部というだけじゃなく、もうちょっと大きな意味を持つもので。そういうものを題材に歌を書くという手法はよくありますよね。

(「パナマレッド」は大麻の品種名でもあると聞いて)ああ、なるほど! それも掛かっているのかもしれないですね。僕はかなり昔に対訳を読んだときからずっと夕焼けの歌だと思って聴いてきましたけど、それと見せかけたドラッグソングでもあるのかも。僕は自分の曲で明確なダブルミーニングを使うことはあまりないですけども、歌詞の中で直接は言わずに裏の事実をにおわせる書き方をすることがあります。今回のアルバムだったら、「涙をふいて」という曲で女性の失恋を描いていますが、実は不倫を題材にしているんですよ。「不倫」という言葉はまったく出てこないんですけども、「そっけない友達」や「許されることの無い/愛しい日々」といったフレーズによって、単に恋愛に破れて打ちひしがれているだけじゃないことが感じられるような詞になっています。

■Paul Simon「Kodachrome」

「コダクローム」というのは昔コダックが出していたカラーフィルムの商品名で、当時ポール・サイモンがそれにハマっていたという、ただそれだけの歌です(笑)。これも、一般的な恋人に対するラブソングとは違う視点の曲として選びました。当時はまだ白黒フィルムで写真を撮るのが一般的だった時代で、ポールにとってカラーフィルムというものが相当衝撃だったんでしょうね。その気持ちがすごく伝わってきます。「白黒ではすべてがつまらなく見える(Everything looks worse in black and white)」とまで歌っていますし。「コダクローム」という単語をカラーフィルム全般の象徴として使ったのか、個人的に気に入っていた商品名を名指しで使ったのかはわかりませんが、そのテーマひとつでこれだけ豊かな曲が書けてしまうのはすごいですよね。

商標や商品名をそのまま歌詞に使う手法は、日本の音楽よりも洋楽に多いのかなというイメージがあります。「コカ・コーラ」がよく出てきたりとか。僕もたまに使いたくなることはあって、たとえばキリンジの「エイリアンズ」には「ボーイング」が出てきます。ただ、当時のスタッフがそのまま記載するのを避けたがったので、表記としては「旅客機」になってるんですよ。

■The Who「Pictures of Lily」

これは「リリーのおもかげ」という邦題がついている通り、リリーという女性の写真に恋をする少年の歌なんですけど、要は自慰行為を歌った曲で。直接そうは言ってないけども、「リリーの写真が僕の人生を素晴らしくする(Pictures of Lily made my life so wonderful)」とか「僕を眠らせてくれる(Pictures of Lily helped me sleep at night)」のように遠回しに書かれているんです。字面だけを見るとストレートなラブソングにも思えるくらいシンプルな言葉で、思春期の子が抱える悶々(もんもん)とした思いをスマートに表現しているのが面白いなと。デフ・レパードの「Photograph」とも迷ったんですけど、あれはたぶんザ・フーのこの曲を下敷きにして作られた曲だと思うんですよね。なので一応、オリジナルと思われるこちらを選びました。

この曲では、サビで「Pictures of Lily」というフレーズが繰り返し使われています。先ほど「英語の歌詞は繰り返して使いやすい」というお話をしましたけど、まさにその一例ですね。もちろん日本語でも、たとえばウルフルズさんの「ええねん」のように繰り返しが気持ちいい歌詞は存在するんですけども、日本語というより“標準語”が音楽に乗りにくいんだと思うんです。リズムがないから、そのままでは歌にならない。「ええねん」の関西弁のように、地方の言葉には抑揚もリズムもあるから、それこそヒップホップなんかは方言のほうが乗りやすいんじゃないかと思っているんですよね。もともとは東京にも東京の言葉がちゃんとあって、落語に出てくる言葉遣いなどは音楽のように心地よく聴けますし、ああいう言葉が残っていればもっと音楽にも使いやすかったんじゃないかと考えることがあります。

■堀込泰行「五月のシンフォニー」

僕は、5月初めごろの初夏の季節がすごく好きなんです。木々の緑がどんどん色濃くなって、生命力がダダ漏れしちゃっている感じというんですかね。春先や真夏とは違う、ありあまる命が過剰にあふれ出ている感じ、うっとうしいとすら感じる5月の緑の感じが好きで、その時期の心地よさを歌詞に封じ込めたのがこの曲です。宮崎駿さんの映画で描かれるような、圧倒的な命の力みたいなものをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。曲作りのときにジブリ映画を意識したわけではまったくないんですけども(笑)。最初はメロディーから作ったのですが、このメロディーラインができた瞬間から歌詞のイメージは明確にありました。

当初、サビは転調する予定ではなかったのですが、ギターの八橋(義幸)さんが「転調したい」と提案してくれて。僕も転調するアイデア自体は持っていたんですが、いろんなパターンを試してみてもなかなかうまくいかなかったんです。そこへ八橋さんの考えた方法を試してみたらすごくいい感じになって、グッと曲のクオリティーが上がりました。そこの展開が決まった瞬間に「この曲、できたな」という感じがしましたね。技巧的な転調ではなく、きちんと必然性のある転調になっているんじゃないかと思います。

僕が近年作る曲は、意識的にそうしているわけではないんですけども、コードワークがシンプルになってきているかもしれません。若い頃は「いかにもギターで作りました」みたいな曲にはしたくない気持ちがあって、ギタリストっぽくない複雑なコードをわざわざ使ったりするようなこともあったんですけども。今は逆に、自分の音楽を「コードの色づけでなんとなくいいメロディーのように聴こえる」ものにはしたくない気持ちが強いですね。それはもちろんシンプルであることが必ず正しいという意味ではなくて、メロディーがしっかりしていればコードが凝っていようがいまいが構わないということです。メロディーとコードの関係に必然性があることのほうが大事。方法論で作るんじゃなくて、メロディーにせよコードにせよ、イマジネーションに導かれて出てきたものだけで構築されるべきだと思っています。

(企画制作/西本心〈たしざん〉、取材・文/ナカニシキュウ)

■堀込泰行セレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト

■堀込泰行『FRUITFUL』

PROFILE
堀込泰行

ほりごめ・やすゆき 1972年生まれのシンガー・ソングライター。1998年に実兄・堀込高樹とのユニット「キリンジ」としてメジャーデビューを果たし、2005年に「馬の骨」名義でソロ活動を開始。2013年にキリンジを脱退して以降は堀込泰行名義でソロアーティストとして活動しており、2021年に3作目となるフルアルバム『FRUITFUL』を発表した。独特の甘い歌声と美しいメロディーラインを持つ楽曲を特徴とし、良質なポップミュージックの作り手として業界内外から高い評価を得ている。他アーティストへの楽曲提供も多数。

【関連リンク】
堀込泰行 オフィシャルウェブサイト
http://yasuyukihorigome.com/

【4/21 アルバム発売!】堀込泰行_スタッフofficial – Twitter
https://twitter.com/yasuyuki_staff

堀込泰行 (@yasuyuki_horigome) • Instagram photos and videos
https://www.instagram.com/yasuyuki_horigome/

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