&M

キネマの誘惑
連載をフォローする

不可解な演技を見続けたくて 終わりそうで終わらぬ二人の放課後(松居大悟×目次立樹)

撮影:花田龍之介

大の大人の男性2人が、至近距離で重なり合うようにして、1台のカメラを見つめる。カメラマンに2ショットでのポーズをリクエストされると、松居大悟はあからさまにぎこちなく、動きがかたくなった。かたや目次立樹は淡々と流れに身を任せて応じている。慶応義塾大学の学生時代に知り合って15年以上の仲というにはややバランスがいびつな気もする。この距離感こそが、2人の関係性を物語っている。

映画『くれなずめ』は、監督の松居が主宰する劇団「ゴジゲン」の単独公演として、2017年に上演された舞台が元になっている。本作で「ネジ」こと水島勇作を演じた俳優の目次は、ゴジゲンの旗揚げメンバーであると同時に、これまで全公演に出演している唯一の正団員だ。

2人にとってゴジゲンはいわばホームであり、松居と目次が共有してきた時間や体験は、あらゆる創作活動のベースにある。楽しくて、くだらなくて、言葉にするのも馬鹿馬鹿しいほど大切で。『くれなずめ』とは、終わりそうで終わらないそのかけがえのないマジックアワーを、決して終わらせまいとする宣言でもあった。

この人と演劇をやるのは無理だと思った

初対面は忘れもしない大学1年生時、演劇サークルの稽古場だった。

松居 僕が同学年の部員たちとストレッチをしながら、これから新人が1人来ると聞かされていたとき、いきなりバーンとドアが開いて、髪の長い、茶髪の、ズボンがビリビリに破けたやつが入って来て。それが目次でした。その瞬間、俺この人と演劇やるのムリだと思った(笑)。住む世界の違う人がやって来たという印象でしたね。

それを隣で聞きながら、「よく覚えてるなあ」と苦笑する目次の今の風貌(ふうぼう)からはにわかに想像できないが、松居にとってはさぞかし衝撃的な出会いだったに違いない。

不可解な演技を見続けたくて 終わりそうで終わらぬ二人の放課後(松居大悟×目次立樹)
ヘアメイク:武部千里/スタイリスト:小笠原吉恵(CEKAI) /衣裳協力:KOH’S LICK CURRO/撮影:花田龍之介

漫画家になる夢に挫折した松居と、俳優を志す姉に影響を受けた目次。それぞれの理由で演劇サークルの扉をたたくも、お互いに相いれないと直感したはずの2人は、その後なぜか一緒に劇団を立ち上げることになる。

きっかけは文化祭で披露したコントがウケたこと。松居が自ら作・演出・出演を兼ねた新入生のみのコント公演に目次も出演していた。初めて自分たちの力で客席の笑いを勝ち取ったことがうれしく、自信にもなった。

松居 目次君のお芝居はヘンなんですよ、整理されていないというか。そのおかげで、僕が投げっ放しで書いたコントも何とか笑いに変えてくれていた。だからむちゃな台本でも目次なら面白くしてくれるだろうとどこかで思っていて、自分がコメディーを演出するときはとりあえず呼んでいました。少年や外国人みたいに非現実的な役が面白くて、しかもロン毛で茶髪のヤンキーみたいな風貌でそれをやっていたから、なおさら面白かったんです。

目次 自分でもヘンだったと思います。当時の僕にとって演技の理想は『フォレスト・ガンプ』(94)のトム・ハンクスとか、『Mr.ビーン』のローワン・アトキンソンだったんです。自分とはかけ離れた人間を演じるのが“演技”だと思っていたんですよね、きっと。

しかしそんなキャラクターのせいか、大学で友達はできなかったと目次が明かすと、ここへきてまさかの事実が判明することに。

目次 お昼はわざわざ図書館の非常階段まで行って、1人でごはん食べてましたね。

松居 え、それ俺と同じじゃない!? 

目次 非常階段の先の、さらに人が来ない立ち入り禁止のエリアに入って。

松居 俺もそうだったよ……うん。

生と死を分けなくてもいいんじゃないか

不可解な演技を見続けたくて 終わりそうで終わらぬ二人の放課後(松居大悟×目次立樹)

アラサーになった高校時代の帰宅部仲間が友人の結婚式で再会する映画『くれなずめ』には、松居が大学在学中から目次と共に続けてきたゴジゲンや、その周辺にいた演劇仲間たちとの間で起こった出来事が、多分に盛り込まれている。

へらへらしているようでどこかつかみどころのない吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)、欽一の劇団で役者をしている明石 (若葉竜也)、既婚者で子持ちのソース(浜野謙太)、後輩で会社員の大成(ひろなり/藤原季節)、そして地元に残ってネジ工場で働くのが目次の演じたネジだ。

彼らはかつて高校の文化祭で踊った赤フンダンスを余興で披露するも結果はだだスベり。二次会までの3時間、誰からともなく学生時代に思いをはせる中で、吉尾の過去が明らかになっていく。

吉尾の人物像と彼にまつわる話は、松居と目次が共通の友人を失った実体験が原点にある。それについて話す松居の口は今も滑らかではない。会えなくなった友達への断ち切れない思いが作品を作らせた。

松居 僕は「そいつ」のことを天才だと思っていて、ゴジゲンにも誘ったんですけど、彼は「いや、いい」みたいな感じで加わろうとしなかった。僕と「そいつ」は岡本太郎の話を延々したりするつき合いだったんですけど、目次と「そいつ」も仲が良くて。それこそゴジゲンの旗揚げ公演(「神社の奥のモンチャン」)は、目次と「そいつ」の話だったんです。

目次 まあ、そうですね。

松居 それがあるとき、僕と「そいつ」との関係性と、目次と「そいつ」の関係性が、全然違うものだったことを知って。結局あいつはどういう人間だったんだろう……という思いがずっとあって、今でもわからないんですけど、舞台版の『くれなずめ』を作ったときはその感じを出したかったんです。それも含めて、僕は「そいつ」がいなくなったことを受け入れられなかったけど、だったら無理に受け入れなくてもいいんじゃないかと。

不可解な演技を見続けたくて 終わりそうで終わらぬ二人の放課後(松居大悟×目次立樹)
撮影:花田龍之介

同じ仲間内でも、6人の心にはそれぞれ別の吉尾がいて、彼の存在が6人を結びつけている。狭い人間関係をこじらせ、現在と過去、現実と虚構が入り混じっていくのは、松居ならではの作風でもある。

目次 生きているときよりも、死んだ後のほうが、その人のことを思い出すんだと。松居君のそのコンセプトを聞いたときに、その通りだなと思ったんです。いつでも会えると思っていたら、会えないんですよね。でも、もういなくなっちゃったけど、ことあるごとに思い出すんですよね。面白いなあと思いました。僕も松居もよく知っている人物の話なので、とにかく「そいつ」が喜んでくれる作品にしたいなと思いました。

近づきすぎないからこそ続けてこられた

目次は2011年に役者をいったん休業している。それを機にゴジゲンも活動を休止した。松居にとって目次のいないゴジゲンはゴジゲンではなかった。しかし地元に戻って農業にいそしんでいた目次を、松居はもう一度演劇の世界に呼び戻し、ゴジゲンを再開する。そのいきさつは映画『くれなずめ』で、欽一の舞台を見に来た吉尾を引き留めようとするくだりにも重なるものがある(舞台版では松居が欽一を演じた)。2人は今回の映画化にどう向き合ったのか。

目次 長くこの作品に関わってきた自分でも、あらためて新鮮に、6人の関係性が身近でいとおしく感じられたのは不思議でしたね。しかも気づいたら、映画版のキャストたちが、いつの間にかみんな仲良くなっていて! 僕のほうが頑張ってそこに飛び込もうとしていた感じです。

松居 初めからゴジゲンの空気感にするつもりはなくて、あくまでも映画の6人の空気感にしようと思っていたんです。僕の中では友達になりたいなと思う役者さんたちに声をかけたんですよね。1週間ぐらいリハーサルをしたんですけど、基本的に“頑張らない”というか、それぞれがお互いを信じ合うようなことさえできれば映画は成立すると思っていたから、稽古は全然やらずにずっと下ネタを言い合って(笑)。その間で12年間ぐらいの関係性を作らなきゃいけなかったので、言葉にならない雰囲気や共通言語がいっぱいできたらいいなと思ったんです。でも撮影中に目次とはほとんど話していないです。映画の現場で目次に時間を割きたくない、それはてめえのところ(ゴジゲン)でやれ!みたいなね。

目次 松居君とはゴジゲンのメンバーの中でも一番話さないです。松居君もクリエーターですから、それはもう、ちょっと変わってるんです。近づきすぎるとお互いのトゲが刺さってしまうこともあるので、この距離感だからここまで続けてこられたんじゃないかなあと思いますね。

不可解な演技を見続けたくて 終わりそうで終わらぬ二人の放課後(松居大悟×目次立樹)
撮影:花田龍之介

この4月頭に行われたゴジゲンの最新公演「朱春」でも松居と目次は舞台を共にしている。さらに目次も結婚して父親になろうとしている今、松居は時の流れにあらがい青春の放課後を引き延ばすかのように、ゴジゲンでYouTube「ゴジtube」の活動をスタートさせた。

遊びから仕事、学生から社会人、人生のステージに線を引くことで終わってしまう時間や関係を、意地でも手放すまいとする。それをここまで一緒にやってきた間柄に、名前をつけるとしたら、何になるのだろうか。

松居 いやいや、友達じゃないです。

目次 友達じゃないそうです(笑)。

松居 18歳で出会ってから今に至るまで、いまだにわからないんですよ、彼の芝居が。どういう脳みそなの?って毎回思うんです。そうなると、もうちょっと見たい、という思いが一番にあるんです。理解しようとは思わないですよ、べつに友達じゃないから。

目次 まだそこを強調する?

松居 でも他の作品に出ている目次君を見ると、俺と一緒にやっているときの目次のほうが絶対に面白い!とも思う。そこは負けたくないなと思いますよね。

目次 それを聞くとやっぱりうれしいですね。

作品情報

不可解な演技を見続けたくて 終わりそうで終わらぬ二人の放課後(松居大悟×目次立樹)

『くれなずめ』
キャスト:成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、高良健吾ほか
監督・脚本:松居大悟
音楽:森優太
主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ色」
配給:東京テアトル

(C)2020「くれなずめ」製作委員会
2021年製作/日本/96分
テアトル新宿ほか全国で近日公開
公式サイト https://kurenazume.com/

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら