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京都ゆるり休日さんぽ
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今年も静かに深まる緑 店々の軒先は初夏をつぶやく〈番外編〉

京都は、ひときわ静かなゴールデンウィークとなりました。緊急事態宣言を受けて、外出や旅行を見送った方も多いのではないでしょうか。今週の「京都ゆるり休日さんぽ」は番外編として、京都に暮らす筆者から見た街の営みと、日々の景色に思うことをつづります。写真とともに、京の街を感じてください。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

今年も静かに深まる緑 店々の軒先は初夏をつぶやく〈番外編〉

「初夏は一番好きな季節です」

とある店の店主からのメールに、そんな一文がありました。簡潔なやりとりの中にさりげなく添えられた一言。思わず、パソコンから顔を上げて、窓の向こうにきらめく若葉を見つめました。私も同じ気持ちだったからです。

京都に暮らすようになって、10年が経ちました。花の雨のごとく風に揺れる枝垂れ桜も、泣きたくなるほどドラマチックな夕焼け色の紅葉も、どちらも美しいけれど、一年がめぐるたびに「この季節の京都が一番好きだ」と胸を打つのは5月です。桜と紅葉という日本の四季を象徴する風景から、ほんのひと時、自由になる。海外からの観光客や3月の旅行シーズンがいったん落ち着き、街が日常のテンポを取り戻したように見える。初夏の京都はどこか、暮らす人と国内の旅行者のためのギフトのように思えるのです。

けれど今年も、京都の初夏を、旅の人と分かち合うことは叶(かな)わなそうです。5月15日の「葵祭」の行列巡行は、昨年に続き中止。ゴールデンウィークは、地元の人々も緊張感を持って過ごさざるを得ませんでした。若葉のみずみずしい色は今だけだというのに、人気(ひとけ)のない哲学の道で、青もみじの東福寺で、眺められることなく緑が濃くなってゆくのかと想像すると、さびしさが募ります。

今年も静かに深まる緑 店々の軒先は初夏をつぶやく〈番外編〉

とはいえ、京都に住み、仕事で名所や名店にうかがう機会が多いと、プライベートであえて混んでいる場所に出向くことは少ないというのが実情。けれど、街を歩いていてふと出くわす祭りやにぎわい、軒先の短冊やのぼりが、いつも私に、大好きな初夏の訪れを教えてくれていました。

先日、和菓子店「出町ふたば」の軒先の短冊に「柏(かしわ)餅」を見つけました。葉っぱの青い香りに、白味噌(みそ)あんがまったりと甘じょっぱいのです。寺町通の「一保堂茶舗」にはもうすぐ「新茶」ののぼりが立つでしょう。「大極殿本舗 甘味処 栖園」の季節ののれんを楽しみにしている人は多いはず。のびやかな筆致の「大あやめ」は、初夏の限られた時期だけの意匠です。

客が多かろうと少なかろうと、京都の店の季節の便りは淡々と更新されています。木々が色を変えるように自然に。それは、商いのためだけではなく、店の前を通り過ぎるだけの人々にも向けられた「季節がめぐりましたね」というメッセージなのです。

今年も静かに深まる緑 店々の軒先は初夏をつぶやく〈番外編〉

停滞してばかりに思えるこの一年。それでも時は進みます。それぞれの持ち場で、めぐる季節を伝える人がいます。昨年の緊急事態宣言明け、街で目にした「大あやめ」ののれんに、どれほどほっとしたか。旅せず、集まらず、食卓を囲んで笑い合うこともない日常のなかで、行き交う人へ目くばせするように季節を伝える。京都は、ことにそうした店が多いように感じますが、目をこらせばきっと、どこの街にもあると思うのです。

鴨川の水面(みなも)がキラキラとはじけ、子どもたちが飛び石を軽快に跳ねてゆく。私の住むところから半径1kmの世界で、もっとも京都らしく、好きな風景の一つです。今私がいる場所から、通りすがりの誰かの心に風を通すような便りが出せたら。そんなふうに思って、これをつづっています。

今年も静かに深まる緑 店々の軒先は初夏をつぶやく〈番外編〉

■「京都ゆるり休日さんぽ」のバックナンバーはこちら

BOOK

今年も静かに深まる緑 店々の軒先は初夏をつぶやく〈番外編〉

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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