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パリの外国ごはん ふたたび。
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「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを配信しています。
《パリの外国ごはん》は、フードライター・川村明子さんと料理家・室田万央里さんが、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。
《パリの外国ごはん そのあとで。》では、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
今週は川村さんが心に残るレストランを再訪する《パリの外国ごはん ふたたび。》をお届けします。お店での食事がかなわない今、テイクアウトで「ふたたび」です。

パリのレストランがその扉を閉めて5カ月が経った。その間に、テイクアウト産業はこれまでにない発展を見せ、中でも、サンドイッチは多様な種類が登場している。通常営業が再開できるまで、テイクアウトメニューを展開するレストランでもサンドイッチは作られていることが多く、旬の素材を使い期間限定で販売されるものも少なくない。それで私も、幻となるかもしれないそれらの探求に日々いそしんでいる。

具材もバラエティーに富み、ベジタリアン向けのものもどこでも見つかるのだが、数日前、パンから一瞬、距離を置きたくなった。パンに限らず炭水化物は控えめに、それで、野菜をメインに食べたい。できれば、サラダではない温かい野菜料理がいい。何かあるだろうか、と考えを巡らした。ノートに控えたテイクアウト営業をしている店のリストの中から、「ここならばあるかもしれない」と目をつけたのはモロッコ料理のYemma(イェンマ)だ。

Yemmaはデリバリーもしているので、サイトでメニューを見ることができた。一つひとつ見ていくと、タジンにベジタリアンがあるではないか!

これはいい!! まさに自分の欲求にかなった一品を見つけ、買いに行くことにした。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

お昼休みのピークがすでに過ぎ去った時間に着くと、間口一面、開け放たれた店内はどことなくのどかな雰囲気で、お客は誰もいなかった。通りに面して、以前はなかったショーケースが置かれている。中には、硬質小麦で作られるモロッコの大きな円盤のパンと、ガレットのような薄焼きのパンが並べられていて、そそられた。薄焼きパンで作るこの店のロールサンドは、おいしいのだ。

サンドイッチはまた次の機会に。そう思って、立てかけてある黒板メニューを見た。クスクスにはveggie(ベジ)があるけれど、タジンの項目には書かれていない。でもよくよく見てみたら、最後にchakchouka(シャクシュカ)とあった。これはうれしい。シャクシュカは、一般的にはトマトをベースに卵を割り入れた料理だ。今はまだトマトの季節には早い。缶詰で作るのだろうか。

私はこれを、イスラエル系のビストロやチュニジア料理店で見つけるとよく頼むのだ。モロッコのも同じような料理なのだろうか。いずれにしてもシャクシュカを頼んでみよう、と思い顔を上げ、店内のカウンターに目を向けると、気づいた男性スタッフに「何にしますか?」と聞かれた。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

「シャクシュカと……」と言いかけたところで、「あ、どうぞ中に入って」と促され、店内のカウンターの前まで行き、改めて壁にかけられたメニューを眺める。すると、前菜の一番上に、後から付け加えたのか他の料理よりも細字でhariraと書いてあるのが目に入った。ハリラはラマダン明けに食べると言われるスープだ。トルコ料理の店で食べたことがある。

これも、モロッコ版を食べてみたいなと思って、「ハリラも……」と言いかけたら「今日はないんだ」と言われた。「じゃあ、メシュイヤ……」と言い始めると「それもないんだ、申し訳ない」。メシュイヤは焼き野菜をピュレ状にしたサラダである。「それなら、ひよこ豆と、あとニンジンのサラダは?」「その二つはあります」「じゃあそれでお願いします。あとレモネードも」

そう伝えると彼は厨房(ちゅうぼう)の中にオーダーを通してから「この外出制限のある間は、いつも通りに全部のメニューは作ってないんだ」ともう一度申し訳なさそうに言った。「でも、この数日はお天気が良くて、今日もすごい晴れているし!」と私が言うと、「そうだね。本当に気持ちがいいね」と答えながらカウンターの奥に行き、「お茶どう? ミントティー飲む?」と聞いてきた。「ぜひ!」

「砂糖は?」「欲しいです」。自分も飲むついでに淹(い)れてくれるものと思ったら、どうも私のために淹れてくれたらしい、小さなポットとガラスのコップを持って、戻ってきた。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

「自分で注ぐ? それとも僕が入れようか?」「お願いします」。すると彼は、コップから20cmほどの高さにポットを引き上げ、上下させながら、お茶を注いでくれた。「お砂糖は、あらかじめポットの中に入れるものなの?」と聞くと「そう。必ずポットの中に入れる。お茶を注いでから砂糖を加えることはしない」。そう聞いて、ポットのふたを開け、中をのぞくとフレッシュミントがたっぷりで、その量は“詰まっている”という言葉が適切に思えるものだった。

汁が漏れないようしっかりとパッキングされた袋を受け取り、「今度は、お店で食べられますように」と声をかけて店を出た。ほんのちょっとの待ち時間だったけれど、お茶を振る舞ってくれたことで感じたもてなしに、心がホクホクしていた。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

家までは45分ほどかかったのに、袋の中から一番大きなシャクシュカの容器を取り出そうとすると、まだ温かかった。温め直さなくても良さそうだ。前菜に頼んだひよこ豆とニンジンも、ほの温かい。

それにしても、シャクシュカの器は小ぶりなラーメン丼の大きさで、かなりのボリュームだ。ふたを開けると、それはこれまで一度も見たことのないシャクシュカだった。トマト色でも、赤いパプリカが入っている様子でもない。ナスとズッキーニのカレーと言われたら、そうだろうとうなずく色だ。お皿によそおうとすると、中には卵が落としてあった。卵は、火から外してから落としているのか、半熟だ。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

食べてみるとナスとズッキーニは形を残すギリギリのところ、ジャガイモも煮崩れる一歩手前くらいの火の通り。クミンとコリアンダーと他にもたくさんのスパイスが加えられていることがうかがえるそれは、とても控えめなカレー風味の薬膳煮込みのようだった。辛みはなく、卵を絡めながら食べると、優しくてちょっと刺激もあって、元気が回復しそうな味だ。とてもおいしかった。旅先で、どこかの家庭でこんな料理をごちそうになったらうれしいだろうなぁ、と思ったのは、ミントティーを頂いたからだろうか。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

ニンジンの前菜は、生ではなく、火を通したニンジンで作られていた。白い干しぶどうと和(あ)えてある。ぶどうの柔らかな甘みと酸味が全体を包み、ニンジンが苦手だった幼い頃にこの温サラダがあったら好きになっていたかもしれない、と思った。対照的に、ひよこ豆のハリッサ和えはニンニクの効いたパンチのある味で、食欲を刺激した。だけれど、たっぷりのオイルと煮汁が乳化していて、口当たりは丸みを帯びている。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

半分残しておいたシャクシュカは翌日、新たに卵を落として温め直して食べた。北アフリカ版野菜の卵とじのようなこの料理を、これから自分でも作るようになりそうだ。

「野菜を食べたい!」をかなえるモロッコ料理。予想外のシャクシュカで元気をチャージ/Yemma

Yemma(イェンマ)

119, rue du Chemin Vert 75011 Paris

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