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誕生75周年、スクーター「ベスパ」とイタリア人の甘い関係

1946年ベスパ98

誰もが思い出を語れる「イタリアの恋人」

ベスパは多くのイタリア人にとって、初めて手にしたエンジン付き移動手段であると同時に、戦後文化のひとつであるといっても過言ではない。

最初のベスパ愛好クラブは、なんと誕生わずか3年後の1949年に結成されたうえ、同年に大会も催している。「ベスパッパッパッパ」という、エンジン音を模した1960年代の映画館用コマーシャルフィルムは、イタリア広告史における名作として知られている。そうしたCMに描かれているのは、高度経済成長期にベスパで移動の自由を謳歌(おうか)する若者たちである。イタリアの恋人といった感が溢(あふ)れている。

誕生75周年、スクーター「ベスパ」とイタリア人の甘い関係
エルバ島のカポリーヴェリで。日陰にたたずむベスパPX2台

いっぽう近年のイタリア市場では、ベスパの独壇場とは言い難い。2019年スクーター新車販売台数における1位はホンダ(54,855台)で、ベスパを製造するピアジオはそれに次ぐ2位(36,282台。台数はいずれもANFIA/EICMA調べ)だ。それを台湾のキムコとヤマハが猛追する。

それでも今回写真で紹介するように、今日でも各地でベスパ、それもちょっと古いモデルが人々と生活をともにしている姿を目にする。

アレッツォのブティック前で
アレッツォのブティック前で

トスカーナに住む元・石工のお年寄りは、秋になるとライフルを担ぎ、ベスパのステップ部分に猟犬を載せてハンティングに森へと向かって行くのが趣味だ。元病院勤務医の知人は、ベスパPXの復元が定年退職後のホビーである。

現在50代以上の人と話をすれば、大抵ひとつやふたつ、ベスパにまつわるエピソードを聞くことができる。知人の観光ガイドで、1958年生まれのルチアも、そのひとりだ。「父が持っていた1970年代の白いベスパ50を、本人が亡くなってから使い始めました」という。

参考までに、ベスパ50は1963年にピアジオ社が発売した排気量50cc、日本でいうところの原付き扱いのモデルである。発売当初のイタリアの道路交通法でこのカテゴリーは、免許不要、ヘルメット不要、登録およびナンバープレート不要であった。ヘルメットに至っては1992年まで不要で、筆者も人々がいわゆる“ノーヘル”で運転していたのを記憶している。

エルバ島の町・カポリーヴェリ昼下がり。海沿いの道に向かって坂を下る
エルバ島の町・カポリーヴェリ昼下がり。海沿いの道に向かって坂を下る

本人の回想は、例の変速機に及んだ。筆者自身もベスパを操縦した経験があるが、独特な変速機の操作は、それなりに慣れを要したのを覚えている。

「私はエンジンブレーキを利かせて走るのが好きでした。でもある日、1速で下り坂を走っていたとき、いきなりギア抜け(変速機が勝手にニュートラルに戻ってしまう現象)を起こしてしまい、いきなりスピードが上昇して、それは焦りました」

そうした古いなりの苦労があったが、ベスパを通じ、父の思い出を楽しんだ。

モンテプルチャーノで。2台のベスパPX
モンテプルチャーノで。2台のベスパPX

彼女の夫で医師のアルベルトも、ベスパの記憶を披露してくれた。

「1990年代初頭、赤い1962年製のベスパ125を手に入れて、家族4人で乗っていましたよ。運転する私の前に5歳くらいの息子が立ち、私の後ろに娘と妻が座るのです。まだ法規や取り締まりが緩かった時代の楽しい思い出です」

その後彼のベスパは自邸に放置されていたが、しばらく前友人に譲ったところ、再塗装も含め丹念に修復を施され、見違えるように蘇(よみがえ)ったという。

ベスパは、中高年の思い出アイテムだけにとどまっていない。若者にとって、ベスパはヴィンティッジ・スタイルを体現する身近なアイテムである。

長年主に仕えたベスパが、静かに土に還(かえ)ろうとしている光景もよく見かける
長年主に仕えたベスパが、静かに土に還(かえ)ろうとしている光景もよく見かける

各地で行われる自動車のスワップミート(部品交換会)は、来場者の高齢化が顕著だ。しかし毎年9月、北部のイモラ・サーキットで開催されるそれは、若者たちの姿も目立つ。主催者のブルーノ・ブルーザ氏に理由を分析してもらえば、「うちのイベントは二輪のショップも充実していて、ベスパの古いパーツを物色できるからですよ」と教えてくれた。加えていえば、イタリアの街には、今でも大小のベスパ・クラブが大抵存在し、自身よりも年上のベスパを大切にする若者たちが集っている。

歴史を語って楽しみ、修復して楽しみ、そして同好の士と乗って楽しむ。このように偉大かつ身近な20世紀の工業遺産があるイタリア人を、筆者はうらやましく思うのである。

(写真/Akio Lorenzo OYA/PIAGGIO)

フォトギャラリー(クリックすると、写真と説明を次々とご覧いただけます)

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