つながる、ということ
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「つながり」の面白さは、変化の中にこそある 建築家・永山祐子さん

撮影:猪俣博史

説明会の代わりに地域の伝統「餅まき」

――建築がコミュニティーをつなげていく好例ですね。

建築家は建築という物体を通して、その時代や状況にあった表現を行う職業ですが、私は建築ができる前から、コミュニティーとつながっていくことが大事だと思っています。それを知ったのが、瀬戸内海の豊島で手がけたアート×建築の「豊島横尾館」(香川県・13年)でした。

豊島横尾館
豊島横尾館/撮影:表恒匡
13年の瀬戸内国際芸術祭、夏会期に会館した瀬戸内海豊島の港町家浦の集落の中にある横尾忠則氏の美術館。この美術館で目指したのは建築と作品が一体となった空間。色彩情報を消す赤ガラス、明度をコントロールする黒ガラス、反射面としての効果を持つガラスなど様々なスクリーンによって、建築という3次元表現を絵画的な2次元表現に近づけることを考えた

通常、建築の説明会は公民館などで行われることが多いのですが、それだと、どうしても住民と建築家が相対し、意見を言うのもかしこまってしまいます。この時はアート建築だから、さらにわかりにくかった。そこで説明会の代わりに、建設前の敷地で地域の伝統である「餅まき」をしたのです。

そうしたら、一気に住民の方々との距離が近づいた。住民のみなさんと一緒に、池のタイル貼りワークショップなども行って、「自分たちの美術館」と思っていただけるようになりました。完成後は、港に着いた訪問者の方を、島の人がここまで案内してくれることもあるんですよ。

豊島横尾館/餅まき
「豊島横尾館」建設前の「餅まき」/撮影:表恒匡

建築家としての役割

――建築界で活躍する女性はまだ少数です。大御所がひしめきあう中で、永山さんが独立されたのは26歳の時。何が背中を押したのでしょうか。

いや、そこは、世間知らずだったからです(笑)。何も知らなかったから、怖いものなしで独立してしまいました。独立してはじめて自分が女性であることを客観的に意識するようになりました。それまで事務所に所属していた時は表に立つことがないこともあり、女性であることを意識していませんでした。

私にご依頼が来るということは、女性であること、子育てをしていることなど、多くの視点を持っているところに、新しい何かを期待されているからだと、最近思うようになりました。冒頭の「JINS PARK」は、そのような視点が役に立った仕事だと思います。

「つながり」の面白さは、変化の中にこそある 建築家・永山祐子さん
撮影:猪俣博史

――転機になった仕事はありますか。

LOUIS VUITTON 京都大丸店」(04年)ですね。京都の中心を走る四条通りに面した店舗で、ファサード(建物の正面)にそれまで建築に使われたことのなかった偏光板※2を使って、街と店をつなげようと考えました。この時は、ファサードの素材が建築家として譲れないところでしたが、建設会社が最初に行った耐久性能試験では、条件が非現実的に厳し過ぎて、いったん却下されてしまっていました。(※2液晶ディスプレイなどにも使用されている、特定の方向に偏光した光だけを通過させる板)

でも、その結果に納得できなかった私は、試験場の片隅を借りて、ひと月かけて実験をやり直しました。現実的な条件を設定し直し、想定されていた問題をクリアできることを、データとともに証明したのです。クライアントのLOUIS VUITTON社は、フランスにデザインの統括部門があり、こことデザイン検討のやり取りをすることになっていました。私は英語が得意でなかったのですが、一つひとつ、必死で自分の考えを伝えていきました。

LOUIS VUITTON 京都大丸店
LOUIS VUITTON 京都大丸店/撮影:阿野太一
ルイ・ヴィトンが古いトランクに使用していた“レイエ”というストライプパターンと京都の縦格子、この重なる2つのイメージから、縦ストライプをファサードのパターンとして採用した。この黒い縦格子は実際には存在しない、偏光板によってつくり出された闇である

――コミュニケーションを円滑にする極意はありますか。

自分と違う意見を言われても、その場で争ったり、勢いで押したりしない。内心ではさざ波が立っていても、冷静さをキープして耳を傾ける。そうすると、自分ひとりでは生み出せなかったものが見えてきます。

――建築への情熱の源はどこにあるのでしょうか。

振り返ってみると、子どものころの遊びですね。子どもって、部屋の隅にマットレスなんかで小さな「ハウス」を作って遊びますよね。空間に「こもる」時の楽しい感覚が、私の中にずっとあったのだと思います。父が生物物理の研究者で、顕微鏡をのぞく人でしたが、私はミクロの世界ではなく、等身大の身体感覚に惹(ひ)かれていて、それを表現できるのが建築だったのです。

「つながり」の面白さは、変化の中にこそある 建築家・永山祐子さん
撮影:猪俣博史

――建築家として、次のフェーズは何になりますか。

現在、新宿の歌舞伎町に、22年完成予定の超高層ビルを設計しています。都心の超高層なのに、オフィスフロアがなく、人を元気づけるエンターテインメント施設がテナントとして入る画期的なプロジェクトです。

背景には敗戦後の日本に娯楽を根付かせようとした、先人が尽力した歌舞伎町の歴史があります。そのスピリッツを受け継ぎつつ、かつての広場にあった噴水をデザインのモチーフにして、従来の歌舞伎町とはまったく異なる繊細なイメージを追求しています。

「つながり」の面白さは、変化の中にこそある 建築家・永山祐子さん
撮影:猪俣博史

日本の街並みは、ヨーロッパと比較すると、ごちゃごちゃして統一感がないといわれますが、時代ごとにまったく違うレイヤーが積み重なっているところが、日本ならではの面白さだと、私は思っています。ヨーロッパのように、ある時代をまるごと保存しているのではなく、それぞれの年代の様式が、バラバラと混在しているからこそ、現在進行中の勢いがある。

建築家には、人と建物の関係だけでなく、時間をつなげていく役割もあります。その時間と空間の中に、人の葛藤があり、コロナのような厄災があり、その流れを意識しながら、私は常に動き続けていきたいと思っています。

 

 

 

PROFILE
永山祐子

建築家、「永山祐子建築設計」代表。1975年、東京都生まれ。父の仕事で1歳から3歳までスイス・チューリッヒで育つ。98年、昭和女子大学生活学部生活環境学科を卒業後、「青木淳建築計画事務所」に勤務。2002年、26歳の時に自身の会社を設立。13年、「豊島横尾館」(香川県)で日本建築家協会JIA新人賞受賞。代表作に「LOUIS VUITTON 京都大丸店」(04年)、「木屋旅館」(愛媛県・12年)、「女神の森セントラルガーデン」(山梨県・17年)、「2020ドバイ国際博覧会日本館」(アラブ首長国連邦・20年)、「JINS PARK」(群馬県・21年)など。武蔵野美術大学客員教授。

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