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篠原ともえ アイデアのありか
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「目があった!」お相手は…… 皆既月食の夜に

子供の頃から星を眺めるのが好きで、今でも夜空を眺めることは私の楽しみの一つになっています。高校生の頃は、デビューを控え軽音部に所属していましたが、科学の授業で先生の天文のお話があまりに楽しくて、天文部へも入部。チームで天体観測をするほか、夢中になってフィルムカメラで天体の写真を撮影していました。

夜空にここまで虜(とりこ)になったのは、小さな私に双眼鏡をプレゼントしてくれた両親のおかげでもあります。レンズをのぞき込むと、肉眼では捉えることのできない無数の星たちが一気に瞳の中へ飛び込んできて、その感動は今でも忘れることができません。

そして、夜空への探究心は年を重ねるごとに深まり、そんな私の情熱に応えてくれたのが、天体望遠鏡でした。私が愛用しているのはVixenのものなのですが、自分でダイヤルを調整し被写体にピントが合う瞬間は「天体と目があった!」という感覚になり、この上ない喜びを感じるのです。

愛用しているVixenの望遠鏡
愛用しているVixenの望遠鏡

星好きがこうじて、天文にまつわるお仕事もいただくようになりました。創作においても、以前こちらの連載でもご紹介した鳥取県のお米「星空舞(ほしぞらまい)」のパッケージデザインをはじめ、星や夜空からインスピレーションを受け、イラストやデザインに発展させていくことも少なくありません。“好き”を好きでい続ける大切さ、幼い頃から変わらない好奇心は、未来のアウトプットにもつながってゆくのだと実感しています。

今年10年目を迎えるラジオ番組「東京プラネタリー☆カフェ」(TOKYO FM)では、私が星空案内人となり、毎週夜空のインフォメーションや、星や月、宇宙にまつわるお話をお届けしています。専門家の方がゲストでいらっしゃるときは、いつも新たな発見があり、中でもなるほどと思ったのが「目を逸(そ)らさずに夜空をじっと眺めることで、暗闇に目が慣れて星空がくっきり見えてくる」ということ。それからは夜空はただ見上げるものではなく、じっくり見つめて楽しむものという意識に変わりました。

ラジオでは毎週の星空情報をお届けしています
ラジオでは毎週の星空情報をお届けしています

そしてみなさん、先日、5月26日は日本全国で観測が記録された一大天体ショー、皆既月食がありましたね。今回は全国的に曇りの地域が多く、東京もあいにくの夜空でしたが、私ももちろん観測、そして天体撮影を試みました。

月食の瞬間をカメラにおさめようとされる方はたくさんいらっしゃいますが、私もこれまでの経験を生かし、月が昇りはじめる午後7時ごろから待機し、その時を待ちました。観測中周りには、子どもからご年配の方まで、空を見上げて月を探す方々がいらっしゃり、「見えないですね」「あれは雲がかかっているからですよ」など、普段つながりのない方とも自然とコミュニケーションが取れるのも、天体観測のすばらしさだと思います。

夜景と部分月食(2021年5月26日) 撮影・篠原ともえ
夜景と部分月食 撮影・篠原ともえ(2021年5月26日)

そして、高いビルからドキドキしながら目を凝らしていると、時折雲間から顔をのぞかせる部分月食が! その瞬間「わぁ~」と思わず声を上げながら、夢中でシャッターを切りました。完全な皆既月食を撮影することはできませんでしたが、今回もこの神秘的な瞬間に立ち会うことができうれしく思います。

天体は長い年月をかけ楽しむことができるので面白く、またどの機会も違った感動に出会えるところが魅力です。私はこれまで2010年、11年、18年と3回、皆既月食の観測を試みているのですが、2010年は、遮る雲のない撮影場所を天文仲間と車で探し、宮城県まで遠出しました。ただ、機材をセッティングし月食の瞬間を待ったものの、結局この日は天気に恵まれず、思い描いていた皆既月食の観測、そして天体写真を撮ることは叶(かな)いませんでした。

撮影・井川俊彦さん(2010年)
撮影・井川俊彦さん(2010年)

そんな悔しい思いもありながら臨んだ2011年、念願の完全体としての皆既月食を観測することができました。皆既に近づくにつれ、だんだんと暗くなってゆく夜空、それに合わせ浮かび上がる星たちにも、目が釘付けになったことを覚えています。

皆既月食は、地球の周りを回っている月が、地球の影に入った時に見られる現象で、地球の大気を通過し屈折した赤色光によって、月面が赤黒く染まってゆきます。影といえば黒のイメージがありますが、実際に観測するときれいな色を放っているので本当に不思議。普段見ることのない自分たちがいる「地球」の存在も感じることができ、肉眼でそれが体験できるのはとても神秘的で貴重です。

月食と共に浮かび上がってくる星たち(2018年)
月食と共に浮かび上がってくる星たち(2018年)

皆既月食によって月が赤黒く染まる色は“赤銅色(しゃくどういろ)”といわれていますが、実際に観測して感じたのは、まるでビンテージワインのような奥深い色彩であるということ。

赤でもなく茶色でもなく、自然だからこそ創り出せる特別な色で、まさに月がじっくりと染まってゆくような感じでした。染色の色では蘇芳色(すおういろ)が一番近いかもしれません。天体をはじめ自然が生み出す色もまた、感動とともに私にひらめきを与えてくれます。

「目があった!」お相手は…… 皆既月食の夜に
国立天文台にて(2018年)

夜空は一人で見上げるのも好きですが、天文現象がある時はワクワクを共有しながらみんなで楽しむのが好きなので、興味がある友達に声をかけ国立天文台で観測したこともあります。夜空を見上げることは年齢関係なく夢中になれ、その時はお誘いした方も喜んでくださり、天体観測がさらに盛り上がりました。

国立天文台の三鷹キャンパス内には口径50センチの巨大な望遠鏡があり、特別な夜空を眺めることもできます。興味のある方は定例観望会公式サイトをご覧になってみてくださいね。

そして最後に一枚、とっておきの天体写真をご紹介します。2018年に私が撮影した皆既月食の写真です。

「目があった!」お相手は…… 皆既月食の夜に
撮影・篠原ともえ(2018年)

こちらの写真は、天体望遠鏡のレンズにコンパクトなデジカメを固定し撮影したもの。月の一部に太陽光があたっているタイミングでシャッターを切ると、トルコ石のようなブルーのラインを月面上に捉えることができます。「ターコイズフリンジ」と呼ばれるこの現象は、地球のオゾン層を太陽光が通過する際に、赤色光が吸収され青色光だけが残ることによって現れるのですが、レンズを通すことでまるで透明のような美しいブルーを写し出すことができました。

観測だけでなく、こうして自身で撮影し記録することは、この瞬間の特別な現象や色を思い出と一緒に留めておくとともに、私にとってはのちの創作における貴重なソースにもなってゆきます。

天体はいつの時代も、世の中がどんな状態であってもそこにあり、私たちを楽しませてくれます。ちなみに、次に日本で皆既月食が観測できるのは2022年の11月8日。今より世間が落ち着いていることを願いつつ、きっとこの日も私は夜空をじっくり見つめ、美しい自然のハーモニーに心躍らせていることでしょう。

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