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花のない花屋
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7年間の結婚生活。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
山川健一さん(仮名) 60歳 男性
会社役員
福岡県在住

    ◇

妻は、知る人ぞ知るバンドのボーカリスト。ライブハウス巡りが趣味だった僕は、かっこいい彼女のファンでした。そんな彼女と知人の紹介で直接話せる関係となったのは、2010年3月。お付き合いを始めて1年が過ぎ、僕のヒロインだった彼女が誰よりも気が置けないパートナーとなった頃に、東日本大震災が起こりました。

20キロの距離を会社から都内の自宅まで歩いて帰宅し、翌日のテレビでは福島の原発建屋が爆発したことを伝えていました。年齢のこともあり結婚は考えていなかった僕たちですが、この世の終わりのような光景に背中を押され、その翌月に計画停電で真っ暗だった市役所の時間外受付へ、婚姻届を出しました。2人とも初婚で、僕は49歳と11カ月、彼女は44歳と6カ月でした。

彼女が結婚する2年前からがんを患っていたことは、付き合っている時から聞いていました。食事にこだわって玄米中心の生活に挑戦するなど、日常生活にも気を遣っていた彼女。僕も彼女と同じ生活をするようになってから、体重がみるみる20キロも減ってしまったくらいです。

「これなら再発なんかするもんか!」と信じていた僕ですが、がん細胞は僕のように甘くはなかったのです。結婚5年目を前にして、再び彼女の体をむしばむことになりました。

その頃の彼女はバンドのボーカルとしての活動のほか、数多くのCM音楽や幼児教育の映像にBGMを制作し、大学ではジャズやポップスのボーカルを学生たちに教えるなど、活動の場を広げていました。いつまでも元気で美しく音楽を発信していきたい……。そんな誇りがあったのだと思います。仕事は今まで通り続ける。再発のことは誰にも言わない。そんな条件で、2度目のがんの治療が始まりました。

この条件での治療は、限られました。本格的な治療にはなかなか踏み込めなかった。最後に取り組んだ抗がん剤治療も、その甲斐はなく、2018年、彼女は54歳で天国に旅立ちました。最期まで人に弱った姿を見せず、かっこいい人生を貫きました。誇り高い彼女らしく。

闘病中、僕ができることといえば、彼女の意思を尊重することくらい。何度となく自分にそう言い聞かせていました。でも再発がわかった時点で、もっと慎重にかつ確実な治療を受けさせることができたのではないか。僕自身もがんについてもっと勉強して、彼女を説得するべきではなかったか。彼女を失ってから、さまざまな後悔にさいなまれました。

「もっと一緒にいたかったのに、ほんとによかったの?」

今も、毎月彼女の遺影に花を供えるたび、天国の彼女に問いかけています。彼女が亡くなって2年半。彼女の遺骨の一部を海に帰したのも、今のこの新緑の季節でした。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ。素敵なお花を贈っていただけませんでしょうか?

7年間の結婚生活。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ
≪花材≫ダリア、ガーベラ、カーネーション、クルクマ、サルビア、カラー、エピデンドラム、ドラセナコンパクタ、ブラックタイ

花束をつくった東さんのコメント

最期まで毅然(きぜん)として、かっこいい人生を生き抜いたミュージシャンの奥さま。そんな奥さまをイメージして、ピンク、それもビビッドなピンクの花材を使ったアレンジを作りました。

器とフリルで仕上げたリーフワークのブラック系ベースの上に、大輪のダリアやガーベラ、カーネーション、サルビア、クルクマなどが、華やかで凜(りん)とした花を咲かせています。

なかなか本格的な治療を始めようとしなかった奥さまの生き方を許してしまったことを、今も悔いているという投稿者様。いえいえ、いつまでも変わらない投稿者様の愛は、天国の奥様にきっと届くと思います。

7年間の結婚生活。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ
7年間の結婚生活。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ
7年間の結婚生活。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ
7年間の結婚生活。まださよならが言えそうにない僕から、僕の大切なヒロインへ

(文・福光恵 写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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