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永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
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(112) 想像力をかきたてる花屋 永瀬正敏が撮ったイラン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回もイランの街角のカット。秘密基地のようなフラワーショップが、永瀬さんの想像をかきたてたそうです。

(112) 想像力をかきたてる花屋 永瀬正敏が撮ったイラン
©Masatoshi Nagase

以前紹介したイランのニューススタンドと同じで、暗闇の中に浮かぶこの花屋もどこか秘密基地のような雰囲気がある。

僕はこのような風景もきっと好きなんだろう。しばらく続けてみたいと思う。

このフラワーショップも、イランの首都テヘランで滞在したホテルのすぐ近くにあった。しかし、通り過ぎるタイミングが悪かったのか、一度も店員さんを見かけたことがなかった。

ガラス越しに見える中のスペースには、どうみても店員さんがいられる空間を見つけられず、これはただのショーウィンドーで、花の見本がディスプレーされているだけであって、ショップではないのかもしれないな、と思ったりしていた。

もしくは、中に見えるはしごを使って、お客さんが来るたびに上から降りてくるのだろうか? いや、そんなに広いスペースがあるとは思えない。あるいは、裏手の部屋に待機されていて、その都度対応するのだろうか……などと、いろいろ想像を膨らませていた。

そんな中、ある夜に撮影したのがこの1枚だ。

初めは気がつかなかったのだが、よく見ると、店の右手の奥にコートのポケットに手を入れながら、こちらを見つめている1人の女性の姿があった。その横に店員さんらしき人がいらっしゃった。

じっとこちらを見つめている女性と、この場の雰囲気が、まるで映画のワンシーンのようだと思ってシャッターを切った。

店員さんは腰をかがめながら、彼女のために花束を作っているのか? それとも2人はご夫婦でただ作業をしているだけなのか? 何やら一生懸命働いていた。その間もその女性は、花に注意を向けるわけでもなく、ただその場にたたずんでいた。

その後この女性は、僕たちに屈託のない顔で少しほほえんで、店員さんに何も言葉をかけずその店を後にした。かがんでいた店員さんは、不思議そうに顔を上げ、その女性の後ろ姿を見つめた。

一緒にいたコーディネーターさんが「彼女、花買わなかったですね?」と首をかしげた。

僕はそれこそ、この瞬間から物語が始まり、去っていく女性の後ろ姿にタイトルが浮かび上がって一本の映画が始まる、そんな気がしてならなかった。

「この映画はどんな物語を紡いでいくのだろう」
その夜、想像の波が収まることはなく、僕は朝を迎えた。

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