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花のない花屋
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家族のLINEへ、ひと言だけの報告。「お父さん、長い間お疲れさまでした」

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
中山かおりさん(仮名) 41歳 女性
主婦
千葉県在住

    ◇

父は昔からスタイルもセンスも良く、年齢よりも若く見られることがよくありました。私が大学生の頃は、一緒に歩いているところを友達に見られて、彼氏と間違われ、結婚式ではあろうことか新郎に間違われたほど。見かけだけでなく、私にとっては年の離れた兄のような存在です。還暦を過ぎた今も、最新の映画やアプリの話題で一緒に盛り上がるなど、その若々しさに変わりはありません。

父は大学卒業後、地元の商店街で家業の洋服店を経営してきました。紳士服を扱っていた祖父の店を婦人服の店に変え、その後は百貨店や郊外のショッピングモールへも出店。5店舗を展開していたこともありました。最近ではネットショップも展開するなど、いつもその時代をつかむ商才を持っていて、家族ながらとても尊敬していました。

代替わりして40年強、この夏に全ての店舗を閉店すると決めました。家では、商売の話を一切しなかった父。今回の閉店も「畳もうと思ってる」と、家族のLINEにひと言報告されただけでした。

今は関東で家庭を持っている私ですが、帰省したときに見かける本店のある商店街は、ここ数年シャッターを閉ざす店が増えていましたし、コロナ禍でさらに人通りが減りました。この機会に商売を畳むと決心した理由は、わかります。

最後まで仕事を家庭に持ち込まなかった父ですが、たった一度、家業についての相談を持ちかけられたことがありました。私が社会人5年目、東京の大学を出て、営業の仕事をしていたときのことです。

「継いでもらえないか?」

父から出たのは、思いがけない言葉でした。意を決して話してくれた、最初で最後の仕事の相談事だったと思います。悩みながらも、「祖父の代からの商売を、私が終わらせてはいけない」という使命感を感じ、いったんは家業の3代目へチャレンジしようと決めました。とはいえ、アパレルの経験は私になく、未知の世界。それまでの仕事を辞め、父の店とは関係のない都内のセレクトショップに転職し、修行のつもりで、まずは業界を知ることにしました。

働いてみて感じたのは、この業界で働く人たちの強い洋服愛。大好きな服に囲まれながら、みんなそれぞれが目標を持って、楽しそうに働いていました。私はといえば、たまたま就いた営業職で、5年。やみくもに働いてきただけで、目標のひとつも持ったことはありませんでした。父の頼みというだけで、家業を継いでうまくいくのだろうか……。そんな思いが日に日に大きくなっていきました。

約束した1年後、実家へ帰り、父に時間を作ってもらった私は「家業を継げない」と、父に告げました。修行と言って、東京を引き払うのを1年待ってもらったあげく、最後の答えがノー。申し訳なさから子どもの時のように泣きじゃくる私を見て、父は優しく言いました。

「つらいなら、いいよ」

セレクトショップを辞めた私は、また東京で別の仕事に転職。まもなく夫と出会い、今は2児の母です。家業の3代目とはまた違った、幸せで充実した日々を過ごしています。

今は、退職後の父がどんな暮らしを送るのかが楽しみです。老後はフランス語圏へ移住したいとフランス語を勉強していた時期もありました。趣味が多い父のことなので、頭の中にはいろんなアイデアがあるのでしょう。リタイアを機に、ゆっくり父と話せる時間を増やせたらと思います。

「長い間お疲れさまでした」

思い返すと、父の店はいつも季節の花や緑が飾られ、店名がフランス語由来ということもあり、入口はパリのショーウィンドーのように素敵でした。おしゃれな店先を思い出しながら、父とじっくり語りたい。そんな気持ちを込めた花束をお願いできますでしょうか?

家族のLINEへ、ひと言だけの報告。「お父さん、長い間お疲れさまでした」
≪花材≫シャクヤク、バラ、スカビオサ、シャクヤクの実、オオデマリ

花束をつくった東さんのコメント

まもなく閉店するお父様のお店のウェブサイトを拝見しました。ナチュラルで素敵なお洋服が並ぶ、商店街のシンボル的な存在だったことがわかりました。お店のナチュラルな雰囲気と、フランスにあるようなショーウィンドーをイメージしました。

淡いピンクの花材を使い、パリの街並みのような、ちょっとシャビーでアンティークを感じさせる色味にまとめました。春と夏の間がシーズンのシャクヤクには、はじける前には多肉植物のように見えるシャクヤクの実も添えました。バラやスカビオサ、オオデマリも華やかでおしゃれな味わいに一役。

お店は畳まれますが、これからもアクティブに活躍されるお父様へエールを込めて、贈ります。

家族のLINEへ、ひと言だけの報告。「お父さん、長い間お疲れさまでした」
家族のLINEへ、ひと言だけの報告。「お父さん、長い間お疲れさまでした」
家族のLINEへ、ひと言だけの報告。「お父さん、長い間お疲れさまでした」
家族のLINEへ、ひと言だけの報告。「お父さん、長い間お疲れさまでした」

(文・福光恵 写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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