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“かっこいい”との付き合い方
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永瀬正敏がパンクの神様から学んだ「本物は、優しくて良い人」

持田薫撮影

多くの人が憧れる俳優たち。彼らはなぜ「かっこいい」のか。その演技論や仕事への向き合い方から、ルックスだけに由来しない「かっこよさ」について考えたい――。

永瀬正敏は、1983年のデビュー以来、メジャー/インディ問わず多くの映画に出演し続けている。今回挑んだのは、監督自身の実話をベースに、男兄弟の複雑な関係とそれぞれの生き方を描いた映画『名も無い日』。カメラマンとして自由奔放に生きてきた長男を演じている。

永瀬にとって、「かっこよさ」とは何か。「若い頃は変にかっこつけて、弱い部分を見せられないところがあった。今は心の甲冑(かっちゅう)が外れて、自分自身が軽やかになってきているのかもしれない」と語る、54歳の現在の心境とは――。

共演者のため息ひとつが、自分の役をつくっていった現場

名古屋市発信の映画『名も無い日』は、カメラマンでもある日比遊一監督自身の経験をもとにした作品だ。

永瀬正敏はこの作品で、主人公の達也を演じる。3人兄弟の長男である達也は次男・章人の訃報(ふほう)を受けて名古屋に戻ってくる。待っていた三男・隆史やその妻、親類や地元の友人たちと久々に再会し、章人がひとり暮らした実家や近所で時間を過ごすことで、それぞれの事情や思いに考えを巡らせてゆく。

エリート街道を歩みながらも、やがて自ら破滅に向かう生活を選んだ次男・章人を演じるのはオダギリジョー。けなげに兄2人を支える三男の隆史を演じるのは金子ノブアキだ。2人との共演は、どのような体験だったのだろうか。

永瀬正敏がパンクの神様から学んだ「本物は、優しくて良い人」
持田薫撮影

「ふたりとも心で演じる役者さんなので、現場でも章人であり隆史として存在していたという感じでした。僕が台本を読んで想像してきたものよりも、彼らがついたひとつのため息とか空気感とかが、達也という役を作ってくれたところがあるかもしれません」

「この映画は、監督の実話を元にしていて、さまざまなことが起こった監督の家で撮影しています。劇中で、達也が章人の部屋に入っていくシーンがあるんですが、オダギリくんは、撮影中、ずっとその部屋から出てこなかったんです。実際の章人さんはそこに引きこもっていた方なので、オダギリくんもそこに居続けることで、何かを引き込む作業をしてたんじゃないかなと思っています」

ドアを無理やり開けて踏み込んできた達也に、章人は背中を向けたまま一切顔を見せない。永瀬は「撮影中はその背中を見ているだけで心が震えたんですが、できあがった映画で初めてオダギリくんの演じる章人の表情を見て、こんな顔をしていたのかとあらためて震えました」と述懐する。

役に入り込む兄弟役の2人 軽いおしゃべりはできなかった 

永瀬正敏がパンクの神様から学んだ「本物は、優しくて良い人」
©2021「名も無い日」製作委員会

「金子くんも、この役は金子くんにしかできなかったと思います。あの遺体があっくん(章人)だったと警察から連絡があった日の夜、親戚の家で2人が話すシーンでは監督も涙されていましたね。本来なら、兄弟を演じたふたりとも、待ち時間とか何も関係ない軽いおしゃべりをしたり、一緒にご飯を食べに行ったりとかしたかったけど、この現場ではほぼできませんでした。」

永瀬演じる達也は自由に生きるカメラマンだ。金子が演じる隆史は温厚な性格で兄たちを見守る。オダギリが演じる次男の章人は、エリートだが、それだけに大きなプレッシャーを感じている。隆史の結婚祝いの飲み会で、弟から誇らしげに「小野家の名に恥じないたったひとりの立派な男」と称賛された章人は複雑な表情を見せる。

「小野家の父親はたくさんの賞をもらっているような立派な人で、それを受け継ぐべく、『僕がなんとかしないと』というプレッシャーを受け止めたのが、東大、ハーバード大、一流企業という道を歩んだ次男の章人だったんですよね。家族の間でそう言われたときは、シャイな感じで『やめてよ』なんて言っているけれど、ひとつが崩れると、どんどん追い込まれて孤独になっていってしまう。あの複雑な表情は、その予兆でしたね」

兄弟の中でひとり実家に残った章人は、病を得た両親の面倒を担い、達也に「帰ってこられない?」と尋ねながらも「ちゃんとやるから」「大丈夫」と伝えていた。

永瀬正敏がパンクの神様から学んだ「本物は、優しくて良い人」
持田薫撮影

「達也は表現したいことがあったのでニューヨークに渡っています。代わりに全部背負った章人を切り捨てて自分のやりたいことをやっている負い目があるでしょうね。エンドロールが終わっても残る後悔はあります。同時に、できのいい弟に対してコンプレックスもあったんだと思います」

それぞれに違ったものを背負って生きている三兄弟に対して、それぞれの強さも弱さも感じるという。

「章人には、責任感の強さがあって、そこが負い目になってしまうところがあったと思います。三男の隆史は、そんな章人を包み込むような優しさがありますね。彼の存在があったからこそ、上の2人が救われたところもあるでしょう。下の兄弟2人は、人の痛みを自分のことのように感じられる人。本気の涙や怒りを出せる人はかっこいいですね。ただ、破滅に向かってしまう章人は、もっとズルしたり、弱音をはけたりしたらよかった。それは兄貴である達也が早く気づいて手を差し伸べ、寄り添ってあげられたら違っていたのかなと思います」

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