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永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
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(113) 早朝に立ち寄ったパン屋さん 永瀬正敏が撮ったイラン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、イランの首都テヘランのパン屋さん。夜が明ける前に立ち寄った、そのわけは?

(113) 早朝に立ち寄ったパン屋さん 永瀬正敏が撮ったイラン
©Masatoshi Nagase

イランの首都、テヘランは時間帯によってとてつもない渋滞が発生する。
渋滞に巻き込まれてしまうと、同じテヘラン市内で30分圏内の場所へ移動するのに、2〜3時間かかってしまう事も多々あるらしい。
なので、郊外のロケの日は相当早く出発する。

僕は、撮影がある日は出発時間の1時間半から2時間前には起床する。コーヒーを淹(い)れ、四季に関係なくバスタブにお湯を張り、時間をかけてお風呂につかって、コーヒーを飲んで、準備し出発する。
それがルーティン。
寝覚めが悪く、朝起きてすぐだと、ボーッとして使いものにならないからだ。

で、帰ってきてからも、この職業はやることが多い。
現場で撮影が終了したら、はい!それで終わり!とならないのだ。
次の日に撮影するシーンをリサーチし、セリフをもう一度頭に入れる、もしくは確認する。
前後の気持ちのつながりや、全体の流れを何度も重複してたたき込む。
また風呂に入ったり、普通の生活のあれこれもしなくてはならない。
結局寝るまでに相当時間を費やさねばならないのだ。
どの職業の方もそうかもしれないが、時間が不規則な僕らは、そういう日々が続くと、かなり身も心も消耗してしまう。
それでもやめられないのは、不思議だと思う。
もう35年以上こういう生活を続けている。

この映画の撮影期間は、平均で2時間ぐらいしか寝ていなかったと思う。

ロケ地へ移動する車が突然止まった。
ここはいわゆるパン屋さん。ナンなどをその場で製造して販売している店だ。
通訳さんがスタッフの方に、朝食用のナンを買ってきてほしいと頼まれたのだそうだ。
時間は午前3時15分ごろだった。

「こんな早くからやってるんだ」
と感心しながら、僕はレンズを向けた。

インド料理等で有名なフラットブレッドのナンは、ここイランが起源だそうで、どこの国のものにも負けない!と通訳さんが話していた。

「なかでも焼きたてが一番ですから」
と、通訳さんは僕に焼きたてのナンを少し分けてくれた。

「でも大丈夫ですか? 今食べちゃって? 足りなくなるんじゃ……」という僕の懸念に、「たくさん買ったから大丈夫ですよ! それに焼きたてが一番ですから!」
と、彼はもう一度繰り返した。

まだ日が昇る前の車内で、その日待ち構えている過酷な撮影に向け、エールを送ってくれている……そんな味がした“世界一のナン”だった。

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