&M

THE ONE I LOVE
連載をフォローする

「“音楽を消費する”という考え方が好きじゃない」坂東祐大が選ぶ、長く聴かれるべきラブソング

(C)Shinryo Saeki

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、6月9日にテレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の音楽集『Towako’s Diary – from “大豆田とわ子と三人の元夫”』をリリースした坂東祐大(ばんどう・ゆうた)がセレクトしたプレイリストを紹介する。オーケストラや室内楽のみならず幅広い分野で音楽活動を行い、米津玄師、宇多田ヒカルらJ-POPアーティストの楽曲アレンジでも知られる彼ならではの、非常にバラエティーに富んだ選曲となっている。インタビューでは選曲理由はもちろん、難解な楽曲の楽しみ方についても解説してくれた。

〈セレクト曲〉

01. Everything But The Girl「Night and Day」
02. 細野晴臣, 青葉市子「悲しみのラッキースター – Vu Ja De ver.」
03. HONNE「I Might ◑」
04. Cathy Berberian「Sequenza III for voice」
05. 坂東祐大「All The Same feat.グレッチェン・パーラト, BIGYUKI」

■Everything But The Girl「Night and Day」

原曲は「Begin the Beguine」などで知られるコール・ポーターというソングライターが作ったスタンダードナンバーで、僕は彼の曲がすごく好きなんです。旋律もリリックも素晴らしい。ポーター自身がかなり複雑なパーソナリティーの持ち主で、女性と結婚して、奥さんのことも愛する一方、度々男性と浮気も重ねている。そうした状況を周りが公然の事実として知っているような状況で作曲活動をしていた人なんです。そういう複雑なバックグラウンドを持つ人から、こういうピュアでロマンチックな曲が出てくるのがすごく美しいなと思うんですよね。

もともとは報道番組『ブロードキャスター』(TBS系)でこの曲がかかって「なんだこれは?」と気になったのが最初で、すごく調べた記憶があります。当時は(楽曲検索アプリの)Shazamがなかったんで、以降5年くらい判明しなかったんですけど(笑)。ずっと引っかかってはいて、見つけたときには興奮しましたね。

今回、これを誰がカバーしていたかなと調べたら「エブリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)があるじゃん」と思い出して、このバージョンを選んでみました。EBTGは学生時代に知って以来、普通に好きで聴いていたので。(ボーカルの)トレイシー・ソーンの声が好きというのと、なんか80年代の音に聴こえないんですよね。今聴くと、何周かしてフレッシュに感じられます。

■細野晴臣, 青葉市子「悲しみのラッキースター – Vu Ja De ver.」

細野さんが2011年に『HoSoNoVa』というアルバムで発表した曲で、後年に青葉市子さんと共演しているバージョンです。『HoSoNoVa』のオリジナルバージョンもすごくいいんですけど、青葉さんが入ることで急にラブソングに聴こえるのが不思議で面白いなと思って。言葉としてはべつに「好きだ」ともなんとも言ってなくて、そこまで直球の歌詞ではないじゃないですか。言葉を超えた、音楽的な強さを感じます。

細野さんはロックベーシスト、テクノアーティスト、歌謡曲の作曲家などいろんな側面を持つ人ですけど、シンガーとしての細野さんもすごくすてきだなあと思っていて。「こういうおじいちゃんになりたいな」という勝手な思いがあります(笑)。すごく偉大な人なのに全然そんな感じを見せないし、年齢も感じさせない。不思議なアンテナの張り方をされているところなども含め、本当に憧れの人ですね。青葉さんもですけど、たたずんでいるだけで物語の中から出てきたような雰囲気があると思います。

単なる偶然ですが、最初に挙げた「Night and Day」と同様、こちらもボサノバのテイストがありますね。僕はボサノバも好きなんですよ。ちなみに先日、ブラジル音楽バーみたいなところへ取材に行く機会があったんですが、「本場ではいまボサノバなんて全然聴かれてないよ」という話を聞きました(笑)。普通にヒップホップがはやっていたりもするし、地域や階級によっても好まれる音楽が違うらしくて。「サンバにもいろいろ種類があるんですよ」って聴かせてもらって、「こんなに違うんだ?」ということを知れて面白かったですね。

■HONNE「I Might ◑」

今回はただただ好きな人ばかりを選んでいます(笑)。ホンネも詞がいいとかだけじゃなく、すべてが好きで。ロンドンの2人組なんですけど、ユニット名が「ホンネ」で、自主レーベル名が「タテマエ・レコーディング」だったりするセンスも含めて全部がおしゃれなんですよね。それくらい親日家でもあるんですが、あまり日本では知られていないような印象があって、もったいないなと思っています。(本連載の直近の記事でCHAIがホンネ「Good Together」を挙げていたと聞いて)マジですか! もっと日本人に聴かれてほしくて選んだ部分もあるんで、CHAIも推してくれているというのはすごくうれしい(笑)。さすがだなあ。僕、CHAIも大好きなんですよ。

ここ1〜2年の音楽シーンは全体的にイギリス、とくにロンドンを向いているような印象があります。「カッコいいな」と思うミュージシャンを見つけたとき、調べてみるとだいたいみんなロンドンの人なんですよ。最近だと、たとえばビーバドゥービーっていうシンガー・ソングライターもそうでしたね。僕はイギリスに住んだ経験があるわけではないので、そこまでロンドンの空気感とかはわからないんですけど、その都市でしか生まれない音ってあると思うんです。東京には東京の音があるし、ニューヨークにはニューヨークの音がある中で、自分にとってはロンドンがちょうどいいのかなという。

ホンネの場合、バックトラックのスタイリッシュさや時代感ももちろん素晴らしいんですが、それらを取り払ったとしてもメロディーラインだけで「いい曲だな」と感じられる強さがあると思います。僕は音楽を“消費する”という考え方があまり好きじゃなくて、作品として残すために作っている意識が強いんですよ。それを考えたときに、時代の音としてカッコいいことと、メロディーラインだけを裸にしても美しい、その両面を兼ね備えることが長く聴かれ続けるために必要なことなのかなという気がします。

■Cathy Berberian「Sequenza III for voice」

これは、ルチアーノ・ベリオっていうイタリアの現代音楽家が半生をかけて作った無伴奏器楽曲シリーズのひとつで、現代音楽史の中では歴史的な大傑作とされています。第1番がフルート曲で、ほかにもオーボエとかギターとかいろいろある中で、第3番がこの“女声”なんですけど、どれもめちゃくちゃ難しいんですよ。実はかなり精密に構築されている曲で、楽譜には全部がものすごく詳細に書かれています。普通はまず再現できない(笑)。腕に覚えのある演奏家は、みんなこれに立ち向かうというような曲です。

歌っているのはキャシー・バーベリアンという、当時の現代音楽シーンにおけるポップアイコンみたいな人で。ベリオはけっこう、妻でもある彼女に当て書きで曲を作っているんですよ。そういう意味でラブレター的なものでもあるのかなという、意訳みたいな感じでラブソングとして選ばせてもらいました。内容的にはまったくラブソングではありません(笑)。

この難解な曲をどう楽しんだらいいかで言うと、とりあえず「キャシーのマネをしてみよう」というところから入るといいと思います。絶対できないんで(笑)。この超絶技巧を目の前でやられたら、けっこうダメージを食らいますね。非常に高度で知的なことをやっていながら、一見そうは見えないところも面白さだと思います。ただ、楽しみ方がわからなければ、わからなくても全然いいと思うんですよ。「なんで無理なんだろう?」を考えてみることで、新たな発見があるかもしれません。僕から全部を説明するよりも、「なんじゃこりゃ?」から入ってもらったほうが面白いと思いますね。

■坂東祐大「All The Same feat.グレッチェン・パーラト, BIGYUKI」

ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の音楽を担当するに当たって、僕はどうしても歌ものをやりたかったんです。アメリカやイギリスのドラマでトレンドになっている、歌もの楽曲をどんどん放り込んでいくスタイルがやってみたくて。ということを佐野亜裕美プロデューサーに話したらそのアイデアをすごく気に入ってくださったので、その勢いでこの「All The Same」の作詞を「(脚本の)坂元裕二さんにお願いしたい」とダメ元でオファーしてみたら、なんとご快諾いただけたという。ドラマ脚本と同じように、松たか子さん演じるとわ子への温かな目線が貫かれた歌詞が上がってきたので、その愛の深さにジーンとしちゃいました。表現が優しいんですよね。広義のラブソングと言って問題ないと思います。

とはいえ、最終的には英語詞の曲にすると最初から決めていました。なぜなら、日本語詞の歌が日本語のセリフと被っちゃうのが嫌だったからです。英詞を書いてくださったLEO今井さんという人選は日本コロムビアのスタッフさんからご提案いただいたものなんですが、僕はもともと(今井の所属する)METAFIVEがすごく好きだったんで、「LEOさんにお願いできるなら最高だな」とオファーしたところ、こちらもご快諾いただけて。

ボーカルをグレッチェン・パーラトさんにお願いした理由は、松さんとの親和性を考えてのことです。松さんが今回演じているとわ子は、必死でがんばっているけど品のある役どころですよね。そういう魅力を自然にすくい上げてくれるボーカリストは……と考えていたときに、ふと思い当たりまして。松さんのオーラじゃないですけど、そういうふうにも機能してくれる人なんじゃないかと。

すべてにおいて最初に「こうできたらいいな」と考えたことがそのまま実現した、とても幸せなプロジェクトだったと思います。本当に感謝しかないですね。

(取材・文/ナカニシキュウ、企画制作/西本心〈たしざん〉)

★他のアーティストのインタビューはこちら

■坂東祐大セレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト
■坂東祐大『Towako’s Diary – from “大豆田とわ子と三人の元夫”』
「“音楽を消費する”という考え方が好きじゃない」坂東祐大が選ぶ、長く聴かれるべきラブソング
PROFILE
坂東祐大(ばんどうゆうた)

1991年生まれの音楽家。東京芸術大学音楽学部作曲科を首席卒業したのち、オーケストラや室内楽といったフィールドにとどまらず、トラックメイキングや立体音響デザイン、シアター・パフォーマンスなど幅広い創作活動を行っている。ポピュラー音楽の分野では、米津玄師や嵐、宇多田ヒカルらの作品に編曲で参加。また、テレビアニメ『ユーリ!!! on ICE』(テレビ朝日)や映画『来る』(中島哲也監督/2018年)、テレビドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)といった映像作品の音楽も手がけており、2021年にはドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の音楽集『Towako’s Diary – from “大豆田とわ子と三人の元夫”』をリリースした。

【関連リンク】

坂東祐大 | Yuta Bandoh Official Website
https://www.yutabandoh.com/

坂東 祐大 / Yuta Bandoh (@YutaBandoh) · Twitter
https://twitter.com/YutaBandoh

Towako’s Diary – from “大豆田とわ子と三人の元夫” | 日本コロムビア
https://columbia.jp/mameo/

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら