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つながる、ということ
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「探検に電話持って行きたくない」 角幡唯介さんの信条

山田秀隆撮影

7年も通うと村の北の何百キロは自分の土地、みたいな感覚があります。今年はオオカミがいなくなったなとか、効率的に移動できるルートもわかってくる。どんどん詳しくなっていくと、土地との結びつきみたいなのは感じます。人は移動する存在で、空間に縛られている。自分が自由に歩き回れる土地こそ角幡唯介という存在そのものなのかもしれない。そんな風に深まってゆく感覚があるので、今までやってきたことよりも全然面白いです。それに、年齢的に面白いことじゃないともうできない、というのもあります。50歳ぐらいまではずっとグリーンランドに偏執的にこだわりたいと思っています。

探検直前、相棒だった犬の死を知った

――探検直前の昨年12月、相棒だった犬2匹の死を知ったそうですね。

よりによって一番大事な2匹でした。ウヤミリックは生きていたら8歳。一番力を入れてそりをひいていたし、いい犬でした。ずっと一緒に旅してきた犬だったからショックでしたね。もう1匹のウヤガンはまだ若くて、こちらの意思を伝える大事なリーダー犬で、かわいくてね。一番のお気に入りだった。妙な性格の犬で、全然なついてなかったんだけど、生きてたら今年はもうちょっと関係が深まっていたんじゃないかな。

「探検に電話持って行きたくない」 角幡唯介さんの信条
グリーンランドの探検でそりをひいた犬たち。子犬もいた=2021年、角幡さん提供

――犬との関係はどんなものですか?

最初は大人の犬を寄せ集めて集団を作るから、なつかないし、言うこと聞かないし、けんかばっかりして話になんない。でも毎日のように訓練して、場数を踏むことで意思疎通ができるようになる。どの犬がどういう性格で、どういう状況でどういう動きをするのか、わかってくるわけですよ。向こうも、こういう状況で、このおっさんがこういうことを言ったら、これをやれってことなんだって理解するようになってくるから。

犬ぞりは暴走するから危ないですね。下りで制御できないと、止まらなくなって帰ってこないかもしれない。白熊を見ると追いかけて言うことを聞かなくなる。犬はこういう動きをする可能性があるっていうのを常に頭に入れておかないと対応できないんです。信頼して任せられる心境になるまで、2~3年かかります。犬との関係性を高めたうえで、そこに自分の命運を託す。そういう犬との関係性も面白いです。

――20~30代前半でのチベット・ツアンポー探検は完全にひとりでした。未踏査地域を知りたいというのはもちろん、人間の限界を知りたかったのですか?

何なんでしょうね。難しいです。人間の限界を知りたいわけじゃなくて、ヒリヒリするような生きてる体験、経験がしたいというのがベースにあります。でもそれだけだと、ツアンポーである必要はない。ツアンポーでなければならなかったのは、やっぱり情報がなかったからでしょうね。あそこがどうなっているのか知りたいというのは、人間の根源的な好奇心じゃないでしょうか。それに若かったから、やり遂げたら有名になれるんじゃないかという野心もありましたね。でももう、ああいう探検は無理ですね。現場に行くまでに潜入しなくちゃならないし。

「探検に電話持って行きたくない」 角幡唯介さんの信条
山田秀隆撮影

――死と隣り合わせの探検を続けてきましたが、家族ができて変化はありましたか?

家族ができたのは言葉にできないほど大きな変化ですね。子どもが大きくなる姿が見たいというのはあるから、「死にたくない」という思いが強くなりました。

ただ、45歳になると、「それなりにやりたいことをやってきたな」っていうのはあるわけですよ。20歳の時だったら、やりたいことを全然やってないから、死んだら無念じゃないですか。今はもし死ぬってなったら多分受け入れられるんじゃないかという風にも思うんですよね。もちろん死にたくないけど、「あ、もうしょうがないかも」って思えちゃうような気がします。今年、白熊とかなり接近する場面があったんだけど、「こいつに殺されるのもありなんじゃないか」と一瞬思いました。

――孤絶する探検家というイメージが強かったですが、2016年12月~17年2月の探検をまとめた『極夜行』では、「最大の楽しみは電話で家族の声を聞くこと」と書かれていました。

家族ができると複雑になるというか。ひとりだったら衛星電話を持っていかなくて構わないんですけど。「極夜行」は結果的には80日で終わりましたが、当初は4カ月ぐらいの予定で、その間連絡が取れないのはちょっとさすがに、と思いました。なかなか、理想を貫けないです。

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