&M

つながる、ということ
連載をフォローする

「探検に電話持って行きたくない」 角幡唯介さんの信条

山田秀隆撮影

スマホを持ちたくない理由

前々回のグリーンランド探検でも、できれば衛星電話を持って行きたくなかったんです。狩りをしながら探検しているので、狩りに成功すれば期間がどんどん長くなるわけですよ。もし、60日の予定で出発したけど、「まだ食料がすげーあるなぁ、あと1カ月行けるなぁ」となったら家族に電話で伝えられるので、電話を持っていったほうが賢明だなって思って、持って行ったわけですよ。それが失敗だった。カナダと連絡がついて、コロナを理由に入国拒否されたから。持ってなかったら、入国許可の取り消しを知らずにそのままカナダに行けたわけで(笑)。

角幡唯介氏
最北到達地点で記念撮影。カナダは目と鼻の先だった=2020年、角幡さん提供

――情報やモノがないところで数カ月過ごして、日本に戻ってくると、ギャップが大きくて疲れませんか?

日本って「みんながやってるから」とか「前例だから」とか、意味なくやってることが多いでしょ。そういうのはイライラします。自分で考えずにただ無駄に流されているってだけだから。

あと、ネットがつながる環境だとどうしてもニュースとか見てしまう。情報が多すぎるし、いろんな人が意見や批判を書いているのを見ると、疲れますね。

SNSはツイッターしかやっていないですが、ニュースを見たら「意見をツイッターにあげなきゃ」とか、面白いことがあったら「これSNSにあげなきゃ」とか、思っちゃうじゃないですか。ツイッターをやめたいなって思う時もかなりありますが、最近は殊勝なことを考えるようになって、曲がりなりにも読者がいるから、その人たちにお返ししなきゃ、みたいな気持ちもあるわけですよ。普段やってることを報告する場としてツイッターを始めたのですが、発信しなきゃ、みたいな強迫観念が生まれるから疲れるんですよね。フォロワーが増えたのでやめにくくなっちゃいました。

――スマホを持たないのも疲れるからですか?

つながり過ぎがよくないんじゃないのかな。パソコンの前にいる時でさえついついネットを見ちゃったりするのに、スマホを持って常に誰かとつながってるかと思うとぞっとするわけですよ。LINEなんかもやってないから、今じゃ誰からも連絡が来なくなって友達がいなくなっちゃった。でも、これはこれである意味すごく楽ではある。鎌倉に引っ越してからは、地理的にも離れて、グリーンランドに行く時間も長くなって、「角幡いねーよ」ってことで、東京のもともとの友達とは疎遠になってきてますね。

探検に関して言うと、衛星電話とかGPSとか、昔はなかったような道具がいっぱいあって、なかなか連絡を絶つことができなくなってしまう。そこにジレンマを感じます。妻には携帯電話を持ちたくないと言ってます。来年は、勝負したいなと思っていて、どこまで行けるかわかんないけど、今までよりは北に進出したいなって思っています。そうするとまた期間が長くなるから、電話はどうしようかなと悩んでます。つながると、現場の没入感、集中力は薄れるんです。最悪、助けてもらえるとか思ってしまうし。

あと最近は狩りをしているから、動物の命を奪うことに対して負い目もあるわけですよ。狩りって殺すことだから、絶対に正当化することはできない。動物の死体を見ると、俺ってこんな立派な動物を殺してまで生きるに値する存在なのかと、自己への疑念が生じる。

狩りをするまで考えたこともなかったけど、食べて生きることには、こういう根源的な罪悪感がある。この罪悪感を唯一正当化する回路があるとすれば、それは自分も死ぬ可能性があるということです。自分がまったく安全な場所で殺すのは許されないことなんじゃないか。そのためには、電話を持って行かないほうがいい。単に納得の問題だけど、動物の命をとるからには自分の死のリスクも担保しておかないと釣り合いが取れないという感覚はあります。生きることは本来緊張感を伴うものなんじゃないでしょうか。

「探検に電話持って行きたくない」 角幡唯介さんの信条
山田秀隆撮影

――新刊『狩りの思考法』を出すそうですね。どんな本ですか?

イヌイットの人たちの思考回路を書きます。イヌイットは現場主義。その場所にあるもの、その時の状況によって行動します。今の日本の考え方と正反対の思考回路です。しっかり計画するのはダメなことだ、というのが彼らの考えです。計画した時点で、計画にのっとってやらないといけないという意識が働くじゃないですか。計画と違うことが起きても、無理やり現実を計画に合わせて修正してしまう。イヌイットの人たちはそういう考え方はしなくて、その時の状況によって柔軟にやり方を変えていくんです。発想がすごく柔軟で、固定観念にとらわれないんです。

自分自身も、どこかに行こうとか思って準備すると、当日はもう行くつもりになっているから、その日の氷の状態とかついつい見落としちゃうわけです。そうすると、「お前、氷の状態見たんか?」とイヌイットの人たちに聞かれて。そういう時に、計画に自分がとらわれてるなと思います。

――これからはどんな探検をしたいですか?

土地のことを深く知って、自由に動ける、そういう行動半径をもっと広げたい。北極海ぐらいまで行けたらいいけど、別の方向に行くかもしれません。コロナでカナダ当局が許可を出してくれるかはわからないですが、まだ行ってないところに行ってみたい。その時々の状況を読んで、それで狩りに成功して、食料が増えて、より遠くに行ける。そういう風に今の結果として未来が決まってゆく旅をしたいですね。目的地を決めて将来を決めてしまって今を逆算すると、その時々に現れる土地との関わりが薄くなる。

目的地を決めてそれに向かってまっすぐ行く、というのが冒険とか登山のやり方ですが、近代的な到達主義、進歩主義の象徴みたいなものですよね。いま、どんどん社会全体がそういう方向に流れていっていますが、僕がやっていることを示せば、アンチテーゼになるのかなぁ、と思います。

最近、昔の探検記を読んでるんですが、探検家のことはどうでもよくて、ガイドで雇ったイヌイットがどういう動きをしているのかに関心があります。彼らが先に行きたがっているということは獲物が豊富だっただろうなとか、この氷河を登りたがらないということは伝統的なルートとして使われてなかったんだなとか。それを参考にしています。探検家が雇ったイヌイットが目標です。イヌイットのように土地の事情に明るくなってきたので、そろそろ日本の探検家を案内できますよ。

写真:山田秀隆

PROFILE
角幡唯介

かくはた・ゆうすけ 1976年、北海道芦別市生まれ。2002~03年冬にチベットのヤル・ツアンポー峡谷の未踏査地域を単独で探検。03年に朝日新聞社入社。08年に退社し、雪男捜索隊に参加。09年冬、再び単独でツアンポーを探検。2度のツアンポー探検を描いた「空白の五マイル」で開高健ノンフィクション賞(10年)などを受賞。著書に「極夜行」(第45回大佛次郎賞)、「アグルーカの行方」(講談社ノンフィクション賞)など。

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、詳しくご覧いただけます)

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら