&w

篠原ともえ アイデアのありか
連載をフォローする

版画を着るサステイナブルなコート。欲張りな私のテキスタイル

絵を描くことが好き、服を作ることも幸せ、そして、常にオリジナルでありたい。そんなつくることに対してちょっと欲張りな私が「絵を服にする」というアイデアにたどり着いたのは、ある意味とても自然なことでした。昨年7月に開催した個展「SHIKAKU」では、その考えを盛り込んだ、鉛筆画と衣装の相互作用によって生まれた作品たちをご覧いただいたのですが、今回は、最近手掛けた絵と服による新たなコラボレーション作品をご紹介したいと思います。

かつてこのコラムでも紙凹版(かみおうはん)という版画を習い始めたお話をさせていただきましたが、そこでできた作品をさらに自分らしく進化させるため、版画をテキスタイルへと落とし込み、その生地で自作のパターンによるお洋服を仕立てることにしました。私にとってファッションデザインは子供の頃から大好きで大切に育んできた分野。これまでのスキルを生かしながら、新たな挑戦となる版画創作から得たアイデアを融合させ、「絵を着る」という展開を試みます。

オリジナルの葉っぱを彫った紙凹版
オリジナルの葉っぱを彫った紙凹版

以前ご紹介した版画のモチーフは樹木でしたが、今回はその一部でもある葉っぱです。ふと見つけた葉っぱの葉脈があまりにきれいで、いつか絵にしてみたいなぁと思っていました。

何げなく選んだこのモチーフは、結果的にとても版画向きで、実際彫ってみると、その細かい葉脈をどのように表現しようか、チェック柄はどうだろう? ギザギザにして不思議な形にするのは?と、どんどんアイデアが降り注いでくるのです。紙の版画では下描きをしないので、心がおもむくまま、手の動くままに、その時の偶然も楽しみながら一気に自由に仕上げられるのも、自分のスタイルに合っていて好きなのかもしれません。

版画を着るサステイナブルなコート。欲張りな私のテキスタイル
版画作品の完成

版画工房ではいわゆる平面作品として一枚絵を完成させますが、ここから先が「絵を着る」ための制作になります。この版画作品を生地にするため、刷り上がった絵をスキャンし、コンピューターに取り込んでリピート柄にしてゆきます。生地へと落とし込むこの一連のプロセスは、これまでにいただいたテキスタイルデザインのお仕事の中で学びました。版画で刷った小さなモチーフを、大きな柄にするため拡大レイアウトし、そのデータを布へとプリントしてゆきます。

版画作品をテキスタイルへ
版画作品をテキスタイルへ

印刷は、これまで衣装のお仕事でお世話になり、「SHIKAKU」展でもご協力をいただいたogawamine LABさんに。今回は、専用シートにデザインを印刷した後、インクを高温で気化させ、密着した生地に気体で染色プリントする昇華転写プリントをしていただきました。近年、布の色染めは大量の水が使われるなど環境への問題が取り上げられる中、この印刷技術は、水の使用量を抑えた布プリントとしても注目されているんです。

転写前の専用シート・転写された生地・転写済みのシート
(左から)転写前の専用シート、転写された生地、転写済みのシート

版画作品が生地へと姿を変えたら、次は服のイメージを膨らませます。普段から思いついたアイデアを小さなメモにスケッチしているのですが、さまざまなモチーフを描いていると、この絵がこんなお洋服や衣装になったらいいなぁと、同時にシルエットが浮かんでくることがあります。葉っぱのスケッチもたくさん描いているので、それを見て記憶を手繰り寄せながら、服のデザインを組み立ててゆきます。パターンは「SHIKAKU」展の時からチャレンジし続けている、四角い生地からなるべく余り布を出さない仕様で。

版画を着るサステイナブルなコート。欲張りな私のテキスタイル
余り布がなるべく出ないように四角いパターンで

みなさんもご想像の通り、柄の生地というのは、お洋服を仕立てる際、難易度が高いものになります。どの部分にどんな柄が入ってくるかを計算しながら進めなければならないので、生地をカットするまでに多くの時間を費やしてしまうことはたびたびです。まして、なるべく余りを出さずにと考えていると、あっという間に時間が過ぎてゆきます。

これだ!と生地のレイアウトや組み合わせが決まったら、ボディーにピンでシルエットを仮留めし、全体を見ながら慎重に微調整をおこないます。シルエットが決定したら、いよいよ縫製。ミシンや手縫いで大体3日ほどに分けて少しずつ縫い留めてゆきます。

版画を着るサステイナブルなコート。欲張りな私のテキスタイル
着物の発想からつくったロングコート

縫製の作業は、まず生地にアイロンをかけ、裾を手縫いでまつり縫いするなど、1着にかかる工程が少なくはありませんが、ひとつひとつ形が見えてくる度に胸が躍り、時間を忘れ没頭してしまいます。祖母が着物のお針子で、母も洋裁好きだったこともあり、針を運んでいるとふと、私にもそのDNAが伝わっているんだなぁと実感します。

今回導き出したシルエットは、葉っぱがひらひら自由に舞うような軽やかなロングコート。これは着物のパターンを参考にしており、ここでも脈々と受け継がれてきた感性の尊さのようなものを感じずにはいられません。

版画を着るサステイナブルなコート。欲張りな私のテキスタイル
完成した作品をまとって

好きなことややりたいことを突き詰め、それを思い描くだけでなく、形にするため行動する。そのプロセスは作品制作に直結しています。

今からちょうど1年前、私は個展の準備に追われ、新たな挑戦への扉の前で不安な気持ちでいっぱいでした。でも、覚悟を決めその扉を開いた時、これまでとは違った世界や考え方と巡り合うことができました。何より、「絵を服に」や「無駄を出さない」といった、新たなものづくりの視点を得ることができたのは大きかったです。そして、そこで得たものを育み、ブラッシュアップしながら創作を続け、このようにみなさんへご紹介できていることがとても幸せです。

今年7月には、1日限りではありますが、オンライン講座の講師もさせていただくことになりました。1年前の私が想像もしなかったことです。これまで夢中で取り組んできた「創る」をテーマに、生き方やデザインの楽しみ方をお話しさせていただく予定です。もしご興味あれば、のぞいてみてください。

篠原ともえの「創る生き方」オンライン講座

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら