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永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
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(115) 幼き日を呼び起こす一枚 永瀬正敏が撮ったイラン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回もイランで映画の撮影現場への移動中に撮った写真です。ブレた感じのカットを見つめていた永瀬さんは父親を思い出したそうです。なぜなのでしょう。

(115) 幼き日を呼び起こす一枚 永瀬正敏が撮ったイラン
©Masatoshi Nagase

幼い頃、親父(おやじ)が大事にしまっていた一眼レフカメラを、こっそり、勝手に取り出し、ただその気になって、何のあてもなく、意図することもなく、シャッターを押したことがある。

カメラを手にして写真を撮る……。
その行為自体が何だかカッコいい気がして、大人になった気がして、あの短い時間がとても楽しかった。

そして、何度かシャッターを押した後、すぐに後悔した。
撮り終えてしまうと、勝手にカメラをいじったことへの罪悪感が押し寄せてきた。

当時はフィルムカメラしか存在しない時代。
フィルム自体も高価なものだったし、ウチではお正月や特別な日にしか撮影しない、そんな感じだった。
写真を現像しプリントするのも、後にスピードプリントが出てくるまでは、何日かかかるぐらい大変だった気がする。
しかも、プリントされたら、僕が勝手に撮影したことがバレてしまう。

案の定、できあがってきた写真の中に、何を撮ったのかも分からない、ピントがブレブレの写真が数枚あった……。

「これは怒られるな」
そんな写真を撮った犯人は僕しかあり得ない……。幼い僕は大目玉をくらうと覚悟した。

「やっぱりじいちゃんの血を引いてるな」
ところが、親父はそう言って、何を撮ったのかも分からない、ピントがブレブレの写真を、なぜだかその時、褒めてくれた。
次に撮る時にはちゃんと、カメラを貸してと先に両親に許可を得なさい、お父さんのものでも勝手に持ち出してはダメだよ、とさりげない注意も忘れずに。

それ以来、ある程度年を重ねるまで、決して勝手にカメラをいじることはなかった。
頭ごなしに怒られるより、幼い自分には効いたんだと思う。
なにより自分が撮った得体の知れない写真を、褒めてもらえたのがうれしかったのだ。

前回の作品と同じように、今回の写真も、イランで移動中に撮影した写真だ。

車内から撮ったブレ感のある写真を見るたびに、あの幼き日のエピソードを思い出す。

親父は、もう80歳を超えた。
今、田舎に一人で住んでいる親父に今度会う時には、照れるのをやめ、
「オヤジ、1枚写真を撮ろう」
そう言って、あの思い出とともにシャッターを切ろう。

その写真を親父はまた、あの日のように褒めてくれるだろうか。

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