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ニッポン銭湯風土記
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レトロ銭湯がよみがえる 淡路島・岩屋「扇湯」へ 13分の海峡タイムトリップ

淡路島の入り口にあたる漁師町・岩屋にたたずむ「扇湯」=兵庫県淡路市

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

大橋くぐるクルージングは都会を脱する「魔法」

13分間の船旅で空気が一変する。まるでどこでもドアのように。

幅わずか4kmの海峡を挟んで本州と向き合う淡路島は、京阪神都市圏から近くて手軽な島。1998年に世界最長の吊(つ)り橋・明石海峡大橋が開通してからは、手軽なドライブ観光の島となった。

その半面、それまで大阪湾岸の各地から通じていた船便はことごとく廃止され、いまでは明石と島北端の漁師町・岩屋を結ぶ高速船・淡路ジェノバラインが残るのみ。かつて島の玄関口として栄えた岩屋の商店街もすっかり寂れてしまった。

本土側の舞子(神戸市垂水区)から幅4kmの明石海峡を隔てて淡路島を望む
本土側の舞子(神戸市垂水区)から幅4kmの明石海峡を隔てて淡路島を望む

だがこの忘れられた海のルートが今、じわじわと人気を回復しつつある。潮風を浴びて巨大な橋をくぐる13分間の海峡クルージングと、着いた瞬間に風も匂いも変わる鄙(ひな)びた島の風情が、まるでタイムスリップの魔法のように感じられ、都会のストレスを一瞬で消し去ってくれるからだ。

【動画】明石港を出発した船は、淡路島の岩屋港へ向かう。明石海峡大橋をくぐる約13分のクルージング

そしてその岩屋商店街の中ほどに、戦前からその姿を変えぬまま営業を続ける銭湯・扇湯がたたずんでいる。私はこの手軽なプチトリップにすっかりはまり、今ではほぼ週末ごとに岩屋へ通うようになった。

海と山に挟まれた岩屋には平らな土地が少なく、狭い路地に木造住宅が折り重なるように密集する漁師町らしい風景が見られる
海と山に挟まれた岩屋には平らな土地が少なく、狭い路地に木造住宅が折り重なるように密集する漁師町らしい風景が見られる

対岸の漁師町・岩屋に上陸、裏路地のお好み焼き屋へ

明石駅へは大阪駅からJR新快速で40分足らず。タイやタコが生きたまま売られるにぎやかな「魚の棚(うおんたな)」商店街を抜けると、港では鮮やかな彩色の双胴船が待っている。船に乗ったらデッキに上がり、潮風と海峡の風景を胸いっぱいに楽しむ。大橋をくぐると、岩屋の港がぐんぐん近づいてくる。海と山に挟まれた狭い場所にたくさんの漁船が並ぶさまはとても愛らしい。

【動画】ジェノバラインの船は、淡路島の玄関口・岩屋港に入港する

岩屋は海峡を抜ける風の作用か、夏でも不思議と涼しい。上陸と同時に、海藻と魚、そして造船所の鉄さびのにおいが入り混じって迎えてくれる。

岩屋港内の海中から突き出る「絵島(えしま)」は、古事記・日本書紀の国生み神話でイザナギとイザナミが天から降りるときに足場とした「おのころ島」の候補地の一つ。神々はここに宮殿を造り、まず淡路島を、次いで日本列島の島々を順々に生み出していった
岩屋港内の海中から突き出る「絵島(えしま)」は、古事記・日本書紀の国生み神話でイザナギとイザナミが天から降りた「おのころ島」の候補地の一つ。神々はここに宮殿を造り、まず淡路島を、次いで日本列島の島々を順々に生み出していったとされる

ここから西へ歩けばすぐに岩屋商店街の入り口ゲートが現れる。すでに廃業した店のシャッターが目立つが、昨年から若い人たちによる新しい店がポツポツとでき始めた。

岩屋のお好み焼き屋「紋六」
岩屋のお好み焼き屋「紋六」

そんな中で私が必ず立ち寄るのは、川の裏路地に隠れるように暖簾(のれん)を下げる「紋六」という小さなお好み焼き屋さん。戦前から約80年間続く店で、見るからに狭くてディープ。知らない人は入るのをためらうかもしれない。なのに不思議なほど次から次へと客が来る。独特のソースがクセになるお好み焼きはなんと380円から。焼き上がりを待つ間の、ご高齢のおかみさんとのホンワカとした語らいも楽しい。まさにハートオブ岩屋と呼ぶべき店だろう。

岩屋のお好み焼き屋「紋六」。お好み焼きは岩屋では「にくてん」と呼ばれる。11:00~18:00、金曜定休
岩屋のお好み焼き屋「紋六」。お好み焼きは岩屋では「にくてん」と呼ばれる。11:00~18:00、金曜定休
岩屋のお好み焼き屋「紋六」。お好み焼きは岩屋では「にくてん」と呼ばれる。11:00~18:00、金曜定休
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