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永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
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(116) 渋滞中出会った赤い服の少女 永瀬正敏が撮ったイラン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、イランで渋滞に巻き込まれた際に、永瀬さんを見つめ続けていた少女のカット。永瀬さんの中で、物語がふくらんでいきました。

(116) 渋滞中出会った赤い服の少女 永瀬正敏が撮ったイラン
©Masatoshi Nagase

どこからか何か(誰か)の視線を感じる。

初めは「気のせいかな?」とあまり気にしていなかったが、
しばらくたっても、どこか気になる、何かむずがゆい感じが続いていた。

以前書いたイランの首都テヘランでの大渋滞に、
その日、僕たちはハマってしまっていた。

一向に進む気配がない車の後部座席で僕は、全く変わらない窓外の景色などを、
むずがゆい感じを抱えたまま、ただ眺めていた。

そのままどれぐらいの時間がたっただろう……。
こういう状態に慣れているはずのドライバーさんのため息が、頻繁に聞こえてくるようになった時、失礼ではあるが、ドライバーさんの姿にこっそり目を向けた。

ドライバーさんは半ばあきらめ顔で、ため息をリズムよく吐きながら、ハンドルを握りしめていた。
時折運転席の横に置いてある飲み物を少し飲み、元の位置に戻して、という行動を繰り返しつつ、渋滞に対しての不満がこちらにもはっきり伝わってくる姿だった。

ドライバーさんの姿をこっそり見ていた僕の目の中に、ピントの外れた小さな赤い色が飛び込んできた。
なぜか気になるその赤い色。
周りのあまり色味のない世界の中で、僕はその赤い色の方へ目のフォーカスを合わせた。

初めは前方にとまっている車の助手席から、誰かが見えているだけだと思った。
しかしよく見ると、赤い上着を着た少女が、窓を開けたドアにほおづえをつき、こちらをじっと見つめていた。
漠然とこちらを見ているだけなのかな?と思って少女を見ていると、彼女は視線を外すことなく、はっきりと僕を見つめていた。
僕はカメラに望遠レンズを付け替え、彼女に向けた。
レンズの中の彼女はじっとこちらを見つめ続けている。
しかもカメラを向けたにもかかわらず、その視線は外れることがない。

幼い(おそらく)彼女にとって、初めて見る日本人だったのかもしれない。
ただ、僕らのように全く動かない車列の中で、飽き飽きして見つめていただけかもしれない。
もしくは……。

色々と想像する最中も、彼女はこちらをじっと見続けていた。

望遠レンズをはさんだ両端で2人の視線が重なり、僕はシャッターを切った。

あの日出会った赤い服の少女……。

彼女と、またいつかどこかで出会うかもしれない。
そんなことがあった記憶もなく、気付かないままただすれ違うかもしれない。
二度と、会えないかもしれない……。

でも、写真の中のこちらをずっと見つめ続けてくれた彼女の姿は、永遠に消えることはない。

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