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〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

幼い頃、鮮やかな写真や精細なイラストがたくさん載っている図鑑を開いてワクワクした経験はないだろうか。

「図鑑は、もともと生物学の種の特定に使うためのもので、そこから発展してきました。でも、モノをどう分類するかという切り口はさまざまで、生物以外で“図鑑”と名乗っているものもたくさんあります。 富士山の多様な姿をとらえた写真集や消波ブロックのカタログなどもある意味、図鑑といってもいいんじゃないでしょうか。この店にあるものも、そんな観点からいろいろな本を揃(そろ)えています」

そう話すのは、西武池袋線桜台駅から徒歩3分の「図鑑カフェfumikura」のオーナー・井守正暁さん(45)。店には約1700冊の図鑑、書籍、雑誌、展覧会の図録などが並ぶ。『日本骨董(こっとう)大図鑑』『西洋の紋章』『世界の飛行機』『私鉄車両年鑑』『チラシ大全集』『図説 幻獣辞典』『拷問全書』『占星術大全』『東京洞窟厳選100』……目についたものを列挙しただけでも、子どもの頃のワクワク感がよみがえってくる。店内の本はすべて購入することができる。

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

「西武池袋線沿線には、漫画界の巨匠たちが若き日を過ごしたトキワ荘がかつてあった影響で漫画家さんやアニメ関係者が多くいらっしゃり、武蔵野音楽大学や日本大学芸術学部などの芸術系大学もあるので、資料として購入されることがよくあります。大手出版社の編集者さんが12万円分も購入したこともありました」

小さい頃から本好きの井守さんは、大学卒業後に神保町の総合書店で働いていたこともあり、家にはたくさんの蔵書があった。天体写真や、夜空にまつわる言葉や物語がたくさん詰まった『宙(そら)ノ名前』という本がきっかけで、さまざまなテーマで分類される図鑑に興味を持つようになったという。

多忙を極めた弁当店をブックカフェに

井守さんは33歳の時、両親がこの地で営んでいたフランチャイズの弁当店を継ぐことに決めた。父が定年後の生活の基盤として始めたもので、まだ会社勤めをしていた父に代わって店を切り盛りしていたのは母のえみ子さん(75)。井守さんは自分の仕事の傍ら、経理や事務などのサポートをしていたが、ある日、父が病に倒れてしまう。井守さんと兄が店に入って支えたが、しばらくしてえみ子さんも倒れてしまい、最終的には家族全員が倒れる事態に陥った。

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

「関東エリアの売り上げ上位店舗でしたが、長時間労働の毎日で、休みは元旦しかないような状態。これ以上続けたら、本当にだめになると思いました」

いくら店が繁盛していても、家族や自分の命には代えられない。そこでブックカフェへの転換を思いつく。井守さんが本好きで蔵書がたくさんあり、書店員だった経験も活(い)かせるのではないかと思ったからだが、もう一つ理由があった。

「弁当店の仕事が大変だった時は、疲れすぎて活字が読めなくなるほどでした。でも、図鑑だけは見ることができたんです。寝る前に図鑑を開いていろんな図版をながめるとリフレッシュでき、図鑑に救われたところがありました。だから、仕事や家のことなどで疲れた人が図鑑をながめて、スイッチを切り替えられる場所があればいいんじゃないかと思ったんです。蔵書が900冊くらいあったし、弁当店の経験から軽食なら提供できますし」

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

弁当店をカフェに改築し、2016年1月に店をオープンさせた。店づくりでこだわったのは、一人でゆったり過ごせたり、没頭できたりする空間を作ること。基本は壁に向かって座れる一人がけの席にした。実際、一人客が大半でリピート率も高いという。当初は少なかったメニューも、ドリンクやフードを少しずつ増やしていき、今では迷うほどの充実ぶり。その中に自家製果実酒を使ったドリンクがある。井守さんが梅や果物をさまざまなお酒に漬けたもので、多忙だった弁当店時代の産物だという。

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

「あまりにも忙しすぎて、気がつけば数年経っていたというのもザラ。でも、果実酒は、漬けておいた年月の分、熟成して美味(おい)しくなります。だから自分の生きた証みたいなつもりで作っていたんです。これも図鑑と一緒にお店の個性になるのではないかと思いました」

見れば見るほど広がる楽しみ、図鑑は「心の栄養」

ブックカフェに衣替えしてからは、客との会話や交流が格段に増えた。社交的なえみ子さんとのおしゃべりを楽しみにしている常連客も少なくないという。

「前は注文されたお弁当をお渡しするだけでしたが、今はゆっくりおしゃべりする余裕もできました。お話ししてみたらすごい専門家だったり、店にある本の著者だったりと驚くこともあります」

緊急事態宣言発出中は店を休業していたが、まん延防止等重点措置に移行した6月21日からアルコール以外のメニューで時短営業を再開した。休業中は、モクテル(ノンアルコールカクテル)などの新メニューを開発したり、天井に青空や夜空などの映像をプロジェクターで投影する“中庭計画”を進めたりと、こつこつ準備をしてきたので、早く客に楽しんでもらいたいと思っている。もちろん、店内の図鑑を手にとってもらうことも待ち望んでいた。

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

「図鑑は何度見ても楽しいものです。はじめは絵や写真だけ見ることが多いのですが、だんだん説明文にも目がいくようになります。それを何度も読んでいるうちに他の分野にも興味が芽生えてきます。図鑑は心の栄養みたいなものだと思うんです」

長引くコロナ禍で気持ちが滅入(めい)ったり、疲れたりしがちな日々が続く。だが、たとえ遠出はできなくても、図鑑をめくれば日常からしばし離れて別の世界を旅することができる。井守さんは、そんな未知の世界への扉を大切に守り続けている。

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」
オーナーの井守正暁さん(右)と母のえみ子さん

大切な一冊

〈162〉子ども時代のワクワク感がよみがえる 「図鑑カフェfumikura」

『宙ノ名前』(著/林完次)
天体写真家の林完次さんが撮影した写真と、夜空にまつわる言葉や物語の数々をまとめた一冊。1995年に光琳社出版から刊行され、現在は角川書店から新訂版(『宙の名前』に改題)が出版され、長く愛されている。

「僕は天文に興味があったので、光琳社出版から出た初版を購入しました。これが図鑑にハマるきっかけでした。ブログなどで文章を書くことが多いのですが、言葉を写真というイメージで見せてくれるこの本は、すごく役に立っています。この本は『空の名前』『時の名前』『色の名前』とシリーズがあるのですが、読むたびに発見があるので、手元に置いて大切にしています。もちろんお店にも常備しています」

フォトギャラリーへ(下の写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)

図鑑カフェfumikura
東京都練馬区桜台1-4-7 仙川ビル1F

「book cafe」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)

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