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ニッポン銭湯風土記
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京都・伏見の名水に育まれた酒蔵と、旧遊郭の面影残す洋館風「新地湯」

1931(昭和6)年に建てられた新地湯は中書島(ちゅうしょじま)のランドマークだ=京都市伏見区

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

水運と酒蔵……京・上方をつなぐ河港として栄えた伏見

京都市の南部、桃山丘陵から西へなだらかに続く場所。砂礫(されき)層から豊富に湧き出る伏流水に恵まれたこの地は「伏水(ふしみ)」と呼ばれ、その清らかな名水とともに宇治川水運の利も得て、古くから酒蔵が立ち並んできた。今なお20以上の蔵元がひしめく日本有数の酒どころ、伏見とはそんな場所だ。

宇治川派流と酒蔵群。かつてここから酒樽(さかだる)が船に積み込まれ、全国に出荷された
宇治川派流と酒蔵群。かつてここから酒樽(さかだる)が船に積み込まれ、全国に出荷された

でも名水の郷(さと)と聞けば酒とともに風呂を思い浮かべるのが銭湯好きの性(さが)というもの。伏見の酒を船に乗せて大坂へ送り出した河港・中書島(ちゅうしょじま)には「新地湯」という銭湯があり、名水を熱く沸かした風呂とかけ流しの水風呂を堪能できる。

のん兵衛の銭湯詣で、伏見の名水携帯が 「マイルール」

京都駅から近鉄京都線で十数分の「桃山御陵前」で下車。改札を出て左を向くと、道路をまたいで大きな鳥居がそびえている。この御香宮(ごこうのみや)神社には、平安時代に都を疫病から守ったと伝えられる「伏見の御香水(ごこうすい)」が湧いており、環境省の名水百選にも選ばれている。862年の社殿修造時に香りのよい水が湧き出したことから、当時の清和天皇により御香宮の名を賜ったとの伝承がある。

御香水は誰でも自由にくむことができる
御香水は誰でも自由にくむことができる

なぜそこへ……? 勘のいい方はおわかりかと思うが、酒好きにとって、アルコールなしの伏見散歩は至難の業。でも飲酒後の入浴は正直、体に良くないし周囲も迷惑する。だから飲むのはあくまでほどほどに、そして飲んだ後は入浴までに抜く。そのために、この神々しい水をペットボトルにくんで利き酒のチェイサーとして持ち歩く、これが私の伏見歩きのルールなのだ。ありがたや。

酒蔵をリニューアルした「鳥せい本店」

さて、駅の西側はにぎやかな大手筋商店街。そこから外れて数分歩くと、とたんに道の両側に酒蔵の白壁が長々と続き、時代をさかのぼったような街並みへと一変する。

大正期の酒蔵を改造した、京都・伏見神聖酒造 鳥せい本店。山本本家の酒がほぼ全種類買える神聖直営売店も隣接する。11:00〜19:00(時短でない時は11:00〜23:00)
大正期の酒蔵を改造した、京都・伏見神聖酒造 鳥せい本店。山本本家の酒がほぼ全種類買える神聖直営売店も隣接する。11:00〜19:00(時短でない時は11:00〜23:00)

まずは腹ごしらえ。昼下がりの中途半端な時間だが、伏見の蔵元の一つ「山本本家」の大正期の酒蔵を改装した「鳥せい本店」という鶏料理の店は昼夜通し営業、雰囲気よし味よし、値段もリーズナブルな人気店だ。もちろん食事とともに山本本家の看板銘柄「神聖」もざっと20種類近く賞味できる。これを飲まないのは逆に失礼に当たる……いや、一杯だけ!

(左)ランチの看板メニュー・とりめし定食(右)ここでの定番、神聖の蔵出し原酒。フロア中央に設置されたタンクから注がれる
(左)ランチの看板メニュー・とりめし定食(右)ここでの定番、神聖の蔵出し原酒。フロア中央に設置されたタンクから注がれる

宇治茶の老舗をリニューアルしたビアホール

鳥せい本店を出て、西へぶらぶら。二筋目の小さな通りは近年「竜馬通り商店街」と名付けられ、ここ数年、古い商店などを改修した新しい飲食店が次々にオープンしている。商店街入り口の目立つ場所にある「家守堂(やもりどう)」もそんな店の一つで、元は宇治茶の販売店だったのを改造して午前中から気軽に飲めるビアホールとなった。店の奥で4種類のクラフトビールを醸造しており、新鮮なのをサクッと飲めるのがうれしい。飲み比べセットもある。おっと、あくまでサクッとね。

宇治茶の老舗を改装した家守堂。右側で奥に延びるのは竜馬通り商店街
宇治茶の老舗を改装した家守堂。右側で奥に延びるのは竜馬通り商店街
家守堂のクラフトビール飲み比べセット。11:00〜20:00(19:00L.O.、時短でない時は11:00~22:00)、月曜定休
家守堂のクラフトビール飲み比べセット。11:00〜20:00(19:00L.O.、時短でない時は11:00~22:00)、月曜定休

飲んだら醒ます 「御香水」片手に酒蔵エリアを歩く

さて、うっかり飲んだらしっかり醒(さ)ます、これが銭湯道の極意だ。新地湯への道をのんびり遠回りで散歩しよう。すぐ近くには黄桜酒造のテーマパーク的な施設「キザクラカッパカントリー」があり、その南側は月桂冠(げっけいかん)ゾーン。100年以上前に建てられた重厚な旧本社(現在はカフェ)や、見応えのある酒造博物館「月桂冠大倉記念館」などが白壁群の合間に次々と現れる。

月桂冠大倉記念館。このあたりは道の両側に延々と酒蔵の白壁が続く
月桂冠大倉記念館。このあたりは道の両側に延々と酒蔵の白壁が続く

その少し先で川に出る。岸辺に柳が揺れ、十石舟が浮かぶこの川は宇治川の派流であり、川沿いに並ぶ蔵元が酒の出荷に利用した。

宇治川派流。十石舟での遊覧もできる。水運が主流の時代はもっと川幅が広かったという
宇治川派流。十石舟での遊覧もできる。水運が主流の時代はもっと川幅が広かったという

川にかかる橋を渡ったところに、赤い壁と中華風の山門が特徴的な長建寺がある。ここは弁財天がご本尊。この付近には江戸期から公に許された大規模な遊郭があり、そこに従事する女性たちは芸事の女神でもあるこの弁財天を信仰したという。

長建寺。この境内でも湧き水をくむことができる
長建寺。この境内でも湧き水をくむことができる

長建寺の前から川岸に下り、対岸に酒蔵の三角屋根や煙突が連なるザ・伏見ともいうべき景観を眺めて次の蓬萊(ほうらい)橋で北に上がったら、さっきの竜馬通りの南端。すぐ近くに坂本龍馬が襲われた「寺田屋事件」の寺田屋旅館があり、事件に関連したさまざまな展示を見学できる。

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