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このパンがすごい!
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食パンが、まさかのリーゼント。夏の花畑を思う「はちみつとクローバー」/ラトリエ テンポ

ハチミツとクローバー

浜松名物は、うなぎと餃子(ギョーザ)だけではない。「ラトリエ テンポ」は地元・浜松で育った素材から絶妙の発酵によってパンを作りあげる。

よくこんな香りに到達したものだ。食パン「はちみつとクローバー」を嗅いだとき、心地よさに思わず目を閉じ、深呼吸した。すーっと鼻へ通り抜けるアルコール由来の香りに、はちみつの甘い香り、夏の野原のようなさわやかな香りが混ざる。中身を食べてみると、さわさわと唇を撫(な)で、唾液(だえき)を吸ってふにっと丸くなる、丸パン的なやさしいテクスチャー。まったく対照的に、濃厚な色に焼けたてっぺんの皮は、ステーキのような香りがして、引きの強い耳に歯がめりこんでは噛(か)むたびに旨味(うまみ)がちゅるっとあふれだす。

上の皮がリーゼントのように突きだしているのは、自重にたえられなかったせいだ。それほどに中身はやわらかい。作っているのは古山健人さん。身上とする高加水が、しっとりやわらかな生地を実現する。

食パンが、まさかのリーゼント。夏の花畑を思う「はちみつとクローバー」/ラトリエ テンポ
いっしょに小麦を育てるkomugi_success_club のメンバーたち。右から3人目が古山さん=komugi_success_club提供

インスピレーションは素材から。配合されるのは、浜松市北部で採取される「養紡屋」のはちみつと、クローバーなど緑肥で栽培を行う中川農場(北海道十勝)の全粒粉など。りんごジュースで継ぐりんご種(鎌倉のベーカリー「パラダイスアレイ」の勝見淳平さんが発見した「パラダイス酵母」)のフルーティーさや自家培養したルヴァン種の酸味も入ることで、クローバーの小さな白い花が点々と一面に咲く夏の畑を思い起こさせるような風味ができあがる。

古山さんの師は、日本のパンに次々と革命を起こした「シニフィアン・シニフィエ」の志賀勝栄シェフ。「いままで食べてきたパンでいちばんうまいのこれだ!」とシニフィアンの門を叩(たた)いた。

「国産小麦を使ったり直接生産者とやりとりするようになったのは、志賀シェフの影響です。いっしょに北海道で農家さんをまわる機会をいただいたことがきっかけになりました。浜松でも、農家さんと知り合ったり、友人になったり。なるべく身近な素材でパン作りをしたい」

バゲットナチュール
バゲットナチュール

「バゲットナチュール」は、志賀シェフのバゲットの衝撃を思い起こさせた。甘さが爆発する。皮は焼きとうもろこしの香ばしさをもっと黒糖のほうへ寄せたような香り。ぴちぴちとした中身からはでんぷん質の香りがまたも爆発。旨味は舌をひたひたと襲う。重厚な赤ワインに似たレーズン種の香りもうっすらと。香り、旨味、甘さがそろった三冠王。

使用されるのは国産小麦。佐賀「さちかおり」、北海道「春よ恋」、そして愛知の「ゆめあかり」に、長野の「シラネ小麦」。13℃の温度帯が揺り籠となり、これらが15時間も眠ることで、抜群の風味が醸される。

パンコンプレ
パンコンプレ

まるで原始からタイムリープしてきたような「パンコンプレ」。長野「なつみ農園」の「ユメアサヒ」を自家製粉し、全粒粉100%でパンにする。

意外とあっけなく、ほろほろとほどける。ビターチョコか、ウェルダンのステーキの表面か、という皮の風味。ぷるぷるとした中身。食べにくくなりそうなところを、多めの水分と、種の酸味が救っているのだ。喉(のど)では旨味の塊が通過する。唇にうっすらと残った香ばしさがシガーの残り香のようだ。パテやビーフなど香りの強い肉料理などと最高の相性になるだろう。

Baking Garage Harimaya」旅田勇人さん、「ドリアン」田村陽至さん、「ベッカライ・ビオブロート」松崎太さん。当連載にも登場した、古山さんが尊敬する、全粒粉パンの作り手たちだ。自分のパンはなぜその域へと達しないのだろうか。古山さんは悩み、彼らを訪ね歩いて、やっと結論を得た。

店内風景
店内風景

「パンの原点回帰。そこまで考えすぎなくても、昔ながらのあり方がそのまま通用する。自分がおいしくしてやろうみたいなのが無駄な努力になる。そういうパンを作っていこう」

10%のルヴァン種と塩だけを入れて発酵をとり、焼く。ただ麦そのものの風味を表現するために、パン職人がそこにいないかのように技術を使う。それが唯一無二のオリジナリティーを生んでいると思った。

古山さんは、浜松の「やま市パン商店」「まるきBAKERY」という2店舗といっしょに小麦の栽培を行っている。先日、「ニシノカオリ」「ゆめかおり」を無事収穫し終えた。もっと収量を増やし、浜松産小麦のパンコンプレが地元の日常になったなら、パンの原点へ接近することになる。古山さんはそこへ向けて遡行(そこう)をつづける。

ラトリエ テンポ
静岡県浜松市中区蜆塚2-16-5 マンションとも1F
9:00~17:00(売切れ終了)
日・月曜休
053-452-8770
Instagram

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
「このパンがすごい!」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)

池田さんからのお知らせ

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