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花のない花屋
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携帯電話がなかった頃。昭和50年代半ばに過ごした、下宿先の“東京の母”へ

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
福島 淳さん 64歳 男性
アルバイト
神奈川県在住

    ◇

大学時代に4年間お世話になった下宿のおばさん夫妻がいます。私がその下宿に入居したのは、昭和50年代半ば。自宅の2階を増築して、学生専用の下宿屋を始めたばかりのときでした。今は下宿自体の数が減ってしまいましたが、大家さんのご家庭の1部屋だけを間借りする、今で言うシェアハウスのようなもの。当時は、学生が東京で一人暮らしをするときに住むところの定番のひとつでした。

当時は携帯電話はありませんので、外から私宛てに電話がかかってくると、おばさんがインターホンで呼び出してくれました。玄関脇に置かれていた電話を終えてお礼を言うと、「よかったら、ちょっとお茶でも飲まない?」とよく声を掛けてくれました。

取り次いでくれたのが母からの電話だったときは、「ご家族はみんなお変わりない?」と実家の話を聞いてくれたり、大学生活の様子を聞いてくれたり、明るく社交的でさっぱりとした性格のおばさんとのおしゃべりはいつも弾みました。一方、ご主人は物静かでどっしりと構えた方で、対照的なご夫婦でした。

おばさんは私にとって、“東京の母”のような存在です。人間関係が希薄だと思っていた東京の大都会でも、私のふるさとのような人と人とのつながりがあることをおばさんにおしえてもらい、ほっとしたことを覚えています。

就職後、下宿を出てからは年に一度、年賀状を交わすくらいでしたが、私が40代になった頃に転勤など近況を伝えるはがきを出すと、決まっておばさんから封書の返信が届くようになりました。そこには、折々の草花や旅行先のお気に入りの風景が墨で描かれ、その余白に達筆な毛筆で温かい言葉が添えられた絵手紙が同封されていました。

たとえば私が50代になって、初めて単身赴任を始めることを伝えた際にも、いつもの絵手紙が送られてきて、そこには「単身赴任の心得3カ条」なるものが書かれていました。「一、毎日野菜を食べること。二、毎日奥様に連絡すること。三、定年後につながる新しいことを始めること」。これら三つを忠実に実践したおかげで5年に及んだ単身赴任期間中も、そして定年後の今も、健康で充実した日々を過ごすことができています。

「三、定年後につながる新しいこと」でも、赴任先で増えた暇な時間を利用して、試しに手引書を読みながらバラを育ててみたところ、手をかければかけるほど見返りがあるバラの栽培のとりこに。美しく咲いたバラを自慢したいとカメラの趣味も加わり、次はバラの成長を見守るワクワクする気持ちを伝えたいとエッセーも書くようになりました。おばさんのアドバイスで始めたこれらの趣味は、今は私の人生でなくてはならない存在になっています。

おばさんは今年で80歳。すこぶるお元気で、車椅子が手放せなくなったご主人のお世話をしながら、ご自身もご主人がデイケアに行っている時間を利用して、日本舞踊や生け花などで毎日を楽しんでおられます。近所のお友達とご自宅の卓を囲むマージャンも、いい息抜きになっているそうです。

おふたりは来年、ダイヤモンド婚式を迎えます。大学生の頃から60代になった今まで、いつも私を気にかけてくれたおばさんへの感謝と、いつまでもおふたりでお元気でという願いを込めて、明るくて社交的なおばさんのような、赤を基調としたお花をリクエストさせてください。

携帯電話がなかった頃。昭和50年代半ばに過ごした、下宿先の“東京の母”へ
≪花材≫ダリア、バラ、ケイトウ、ヒペリカム、アンスリウム

花束をつくった東さんのコメント

明るくて社交的な下宿のおばさん。そのイメージにぴったりな、赤を基調にした豪華なブーケです。真ん中に置いた大きなダリアは透明感、ケイトウはベルベットのような重厚さと、同じ赤でありながらそれぞれ質感のバリエーションが楽しめます。

おばさんとは、今もいい関係が続いているのですね。単身赴任中におばさんのアドバイスで始められたという、お花の栽培や、写真、エッセイの趣味は、投稿者様の一生の財産になったと思います。

さらに今回、お花とともに届ける感謝の気持ちが、おばさんとのつながりを強くしてくれれば、うれしいですね。

携帯電話がなかった頃。昭和50年代半ばに過ごした、下宿先の“東京の母”へ
携帯電話がなかった頃。昭和50年代半ばに過ごした、下宿先の“東京の母”へ
携帯電話がなかった頃。昭和50年代半ばに過ごした、下宿先の“東京の母”へ
携帯電話がなかった頃。昭和50年代半ばに過ごした、下宿先の“東京の母”へ

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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