名将2人の知力を尽くした闘い 関係者50人が明かした“史上最高の日本シリーズ”の舞台裏

1986年からの6年間で5度の日本一に輝く“常勝軍団”西武。片や万年Bクラスから14年ぶりにセ・リーグを制したヤクルト。王者と挑戦者の構図が誰の目にも明らかだった1992年の日本シリーズは、ふたを開けてみると、がっぷり四つの戦いに。ヤクルトが西武を土俵際まで追いつめ、多くの野球ファンに衝撃を与えました。
翌年も日本シリーズで相まみえた両チーム。ヤクルトが3勝1敗と王手をかけながらも、王者西武が底力を示し、再び最終戦までもつれる展開に。終盤まで1点を争う接戦となった第7戦をヤクルトが制し、全14試合、総試合時間数47時間13分という2年にわたる死闘は幕を閉じました。
ファンの間で「史上最高の日本シリーズ」と呼ばれるこの決戦。関係者50人の証言をもとにその舞台裏を描いた『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』が、昨秋の発売以来、重版を続けています。
今回の水代百貨店は、本書のファンというブックディレクター水代優さんと著者の長谷川晶一さんが、92年、93年の日本シリーズを振り返ります。
敗戦投手・岡林の夕日に照らされた姿

水代 『詰むや、詰まざるや』、往年の野球ファンにはたまらない内容で、非常に面白く読みました。そもそもの話からうかがいたいのですが、日本のプロ野球には名勝負や名シ-ンと呼ばれるものが数々ありますよね。その中で、この92年、93年の日本シリーズを題材に筆を執ろうと思ったのはなぜですか?
長谷川 実は、92、93年の日本シリーズ全14試合を現地で観戦していたんです。当時、僕は大学生でした。
92年のシリーズが始まる前の下馬評は、常勝軍団だった西武が圧倒的に有利。「絶対に第7戦までもつれる前に決着がつく」というのが世間の見方だったし、ヤクルトファンの僕ですらそう思っていました。でも、第7戦まで行ったらラッキーだなと思って、念のため前売り券を買っていました。しかも、どうせならいちばんいい席にしてやろうと、第7戦はバックネット裏の席を取っていた。
水代 そうしたら、大方の予想に反して3勝3敗となり、第7戦まで回ってきたんですね。
長谷川 神宮球場のバックネット裏で、西武・石井丈裕さんとヤクルト・岡林洋一さんの投げ合いを食い入るように見ていました。その末に、岡林さんが“完投負け”して、西武の優勝が決まった。

水代 試合時間が4時間5分……2対1のロースコアなのにすごく長いですね。
長谷川 終わった頃には16時半を回っていて、神宮の空に夕日が沈み始めていました。歓喜にわく西武ナイン。その光景を一塁側のベンチで見つめる岡林さんが夕日に照らされ、グラウンドには彼の影が伸びている。このバックネット席から見た景色がずっと忘れられなかったんです。
もしかしたら実際は、影など出ていなかったかもしれません。30年近く前だから当時の記憶が美化されていることも考えられますが、それくらい強烈な光景でした。
水代 その記憶がずっと残っていて、いつかは書きたいと構想を温めていたんですか?
長谷川 これだけの名勝負は歴代の日本シリーズでもなかなかありません。だから当然、誰かが書くだろうと思っていたんです。ところが、意外に誰も書かなかった。
それなら僕が、と思ったけど、当時の選手や監督など、多くの関係者に取材しなければいけない。時間とお金がかかるのは目に見えている。ずっと二の足を踏んでいたのですが、編集者と居酒屋で飲んでいた際に盛り上がって、最後は酔った勢いで「やりますか」「やりましょう」みたいな(笑)。でも実際、取材にまる3年を要したので、誰も書かなかった理由がわかった気がします。

>挑発を繰り返すヤクルト・野村監督と、それに動じない西武・森監督のキャラクターの対比がおもしろい。
まさにそのとおり!
これは、買って読まなければなりませんね。楽しみだ。