&M

発酵デザイナーの食国探訪
連載をフォローする

生活や死生観、政治経済なども見えてくる 「食」は人間を映す鏡である

今日から新連載が始まります。その名も「発酵デザイナーの食国探訪」。

納豆やみそなど極めて身近な存在ながら、その背景には面白い話が目白押しの発酵食品。この連載では、発酵文化のスペシャリスト小倉ヒラクさんが、発酵食品を起点に国内外の文化や歴史を掘り下げます。

初回は、まずは自己紹介から。小倉さんが「発酵デザイナー」と名乗ることになった経緯や発酵食品との出会い、連載の抱負などについて綴(つづ)ります。

はじめましてのごあいさつ

はじめまして。小倉ヒラクです。

僕は発酵文化のスペシャリスト“発酵デザイナー”として日本各地、世界各地を旅しながらその土地の食文化や微生物の調査をしています。このたび「朝日新聞デジタルマガジン&M」とのご縁を頂きまして、食にまつわる連載を始めることになりました。

まずは最初の自己紹介から。

僕は元々東京で商業デザイナーをしていたのですが、二十代半ばに過労で幼少時からのぜんそくやアトピーがぶり返して倒れてしまいました。そんな折に、会社の同僚だったみそ屋さんの娘に導かれ、発酵の世界へ。彼女の先生である発酵学の博士に出会い、

「お前は生まれつき身体が弱いから、みそ汁や納豆、お漬物を食べなさい!」

とのアドバイスを実践してみたら、少しずつ元気を取り戻していきました。これをきっかけに発酵の不思議さに魅せられ、デザインの仕事のかたわら、味噌や甘酒をつくってみたり、親子むけの食育のイベントをやってみたりと、発酵の世界に足を踏み入れていきました。

その頃に前述のみそ屋さんと一緒につくったアニメ『てまえみそのうた』がヒットし、本格的に発酵の道を極めるためデザイナーのキャリアに見切りをつけ、東京農業大学の醸造科に研究生として入学。生物学と発酵学の基礎を学び、現在は日本各地、世界各地を調査しながら微生物と人間社会の関わりを体系化する仕事をしています。

拙著『発酵文化人類学』で、僕の活動について詳細に書かれているので、ご興味ある方はご一読ください。

2020年には、各地を訪ねて収集した発酵食品が集うセレクトショップ『発酵デパートメント』を東京都下北沢にオープン。発酵文化を伝え、未来の産業をつくる仕事をしています。

生活や死生観、政治経済なども見えてくる 「食」は人間を映す鏡である
秋田の羽場こうじ店を訪ねて/筆者提供

「食国」の読み方は? どんな意味?

さて、この連載タイトルにもある“食国”というキーワード。「おすくに」と読みます。万葉集に出てくる古い言葉で「天子様の治める国」という意味があり、「治(お)す国」とも書きます。

民俗学者の折口信夫(おりくち・しのぶ)の著作『大嘗祭(だいじょうさい)の本義』で論じるところによると、古代日本を統べる「天子」の仕事は、田を作り食物を生成させることとされていて、秋に天子の田畑からとれた食物をおいしく料理した贄(にえ/神や天皇に供える食物)を「天つ神」に捧げることが国の大事なまつり(祭/政)ごとであったそうです。

生活や死生観、政治経済なども見えてくる 「食」は人間を映す鏡である
折口信夫『大嘗祭の本義』(三和書籍)

古代の日本では、神は「食物の生成される場」をつかさどる存在であり、共同体のメンバーの仕事は賜った食物をうまく収穫・加工すること。この食をめぐるコール・アンド・レスポンスこそが「国をお(食/治)す」ことであるという世界観。食をめぐる生成と循環が、すなわち世界の生成と循環と同意なのですね。

さて、実はこのような古代の世界観は日本だけのものではありません。

例えば中国。古代の王朝では国の政治をつかさどる役職を宰(さい)と言いました。この“宰”の象形文字は「家の中で包丁を振るう人」の様をあらわします。食材を上手に切り分けてみんなに分配できる者が政治のトップだったのです。伝説的な宰相といえば、調理用具の語源となった古代中国の包丁(ほうてい)は肉をさばく名人です(なお周の名宰、太公望も釣り人で料理名人という説も)。古代中国では食は治世に関わる重要スキルだったようです。

そして古代オリエントで勃興したキリスト教の世界観でも食が鍵を握ります。最後の晩餐(ばんさん)でイエスが「パンを私の体、ワインを私の血として口にしなさい」と弟子たちに告げます。つまり彼の死後の贖罪(しょくざい)と救済を弟子たちに意識させようという意図だと言えます。

なお現代の会社組織を指す英語”Company”はラテン語の「パンを共に食べる共同体」をその起源とします。

田畑を耕す、収穫した食物を加工する、そしてそれを神に捧げ、共同体のメンバーと共に食べる。東西問わず、これが人間の社会の原点だと言えるのではないでしょうか。

NEXT PAGE「食」から読み解く文化と歴史

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら