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30歳からのコンパス
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「心にメリケンサックをはめていた」高山都さんの現在地

撮影/岸本 絢

私にとっての大きな転機

「当時は、よくバンドをやっている知り合いのライブに足を運んだりしていたので、音楽を好きな人はごまんといるけれど、日本のロックバンドでインディーズで……って絞り込んでいけば、私はその中で一番そのジャンルが好きで、一番詳しい人になれるかもって思ったんです。そうしたらある日、打ち上げでラジオのディレクターさんと運良く知り合うことができた」

「ウチの実家は商売をやっていて、学校から帰ると、店番をしている母とラジオを聴きながらその日あった出来事を話すのが日課で。私は、母に『あんた、おしゃべり好きだし、声に特徴があるから、ラジオの仕事につけばいいやん』と子供の頃に言われたことがあったんです。それで、初対面のディレクターさん相手に、『音楽番組をやりたいんです』とプレゼンをしました(笑)」

「心にメリケンサックをはめていた」高山都さんの現在地

面白がってくれたディレクターに企画書を出してみると、「TOKYO FMの4月の改編の会議で女の子を探しているんだけど、すぐ来られない? プロデューサーが会ってみたいって」と連絡があった。事務所には伝えずに、宣伝資料であるA4の紙を一枚持ってラジオ局に駆けつけると、「ブースに入ってしゃべってみる?」といきなりのオーディションが始まった。

「『なんだこの展開は?』『なんだこの憧れの場所は!』って夢見ごこちな感じもありつつ、好きな2曲を選んで、曲紹介をやってみたら、自分でも意外なほど、すごく楽しく喋(しゃべ)れたんです。それが評判だったみたいで、改編のタイミングでレギュラーのお仕事をいただいて。謎の大抜擢(ばってき)でした(笑)。そこから事務所に連絡が行って、みんなびっくりしていました。それが27歳の出来事で、私にとっての人生のターニングポイントです」

自分の居場所

自分だけの椅子ができた。そのことが何よりうれしかった。ラジオは2時間喋りっぱなし。大失敗だって何度もした。悔し涙をポロポロこぼしながら帰ったこともある。

「最初は、『なんだこのぶりっ子の声は』とバッシングもされました。私、エゴサーチめっちゃするんです(笑)。でも、『アニメ声』って言われてもめげずにそれを一つの個性にしようと思って。だんだん責任感が分厚くなっていった。自分なりの音楽の伝え方をしようと、常に伝える言葉のことを考えるようになったし。リスナーさんやミュージシャンの方と自分なりに全力で向き合って、やがてそれが人気番組になって、4年間続きました」

ラジオを始めた当初は、まだバイトも続けていた。生放送が終わってから、バーで働いて、仕事のない日はライブハウスに通い、旬の情報を更新していった。その数、年120本。知識量や経験値では勝てない分、できるだけフレッシュな情報で勝負するしかないと思っていた。

「ラジオをやり出してから、友達もできるようになりました。それまではとにかく夢を叶えることに必死で、誰のことも見ていなかったんです。だから、大した恋愛もしていなかった」

「心にメリケンサックをはめていた」高山都さんの現在地

「ラジオで話すときは一人だけれど、電波の向こう側に、残業しながら、料理を作りながら、運転しながらみんなが見ている景色があって、声で、その日常の中に入り込んでいく。どんな景色の中で私の声を聞いているんだろう? それを思い浮かべて喋るのと、ただ自分のことだけを考えて話すのとでは、伝わり方が違うんだよと教わったんです。人間関係も同じですよね」

「『相手のことを思う』という自分の中の一手間が、気持ちを通わせることにつながっていく。ラジオのスタッフさんとは、本当に家族のようでした。怒られたり喧嘩(けんか)したり。衝突したこともあるけど、今も付き合いは続いている。大学に行かなかった私の、大事な青春みたいな場所です」

自分だけの椅子を手に入れ、自分の居場所を見つけられた――。そのことは、高山さんの30代以降の“丁寧な生き方”の土台になった。

私の“30歳からのコンパス”

「あれから10年近く経ちますが、居場所が見つかったからといって、その後が順風満帆かといえば、そんなことはありません(笑)」

たくさんもがいて、たくさん沈んで、たくさん傷ついて思う。「挫折するたびに、強くなるなぁ」と。SNSで流れてくる、幸せそうな家族写真を眺めながら、「いいなぁ」と羨(うらや)ましく思う反面、「私は自分の選択で、今ここに一人でいることを選んでいる。それはなんて幸せなことなんだろう」とも感じる。

「“30歳からのコンパス”というテーマですが、私は19歳からこの仕事に関わっているので、もしかしたら、大学に進学して就職した人よりも、人生の転機は少し早かったのかもしれません」

「心にメリケンサックをはめていた」高山都さんの現在地

「10〜20代の心って頑(かたく)なだから、何か大きな衝撃があるとポキって折れちゃう。私は、ラジオパーソナリティーという居場所をいただいたことで、自分や人に対してゆるくいられる術(すべ)を身につけられた気がします。いいことも悪いことも、許容することができるようになった。失敗したらやり直せばいいし、間違ったら謝ればいい。大人になったからと言って、自分の恥を晒(さら)すことは恥ずかしくなんかないんです」

「もし、30代で今いる場所は居心地が悪いとか、いつも所在がないと感じている人がいたら、『たとえ1日5分でも、その気になれば居場所は自分で作れますよ』と伝えたいです。それはもしかしたら今じゃなく、未来かもしれないけれど。自分や他人の過ちを許せるゆるゆるの心でいれば、何歳からでもチャレンジはできるし、何歳からでも友達はつくれる。そうやって、何歳からでも居場所は見つけられると、私は思います」

文:菊地陽子

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