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国境なき衣食住
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派遣された紛争地での大問題 虫が怖い私

2014年南スーダンに派遣されたとき。劣悪な環境で生活を送る人たちを巡回し、特に子供の栄養失調の調査を行った/写真提供=MSF

国境なき衣食住」は、国際NGO「国境なき医師団」の看護師として世界17カ所の紛争地や危険地に赴任してきた白川優子さんが、医療・人道支援活動の傍(かたわ)らで出会った人々、触れ合った動植物、味わった苦労や喜びについて、哀感を込めてつづるエッセイ連載です。

国境なき医師団(MSF)の活動現場では、日本では当たり前のような生活が送れるとは限らず、環境にあわせた適応能力や柔軟性が必要になってくる。バックパッカーの旅を経験したことがある人ならば、MSFの派遣先の宿舎がどんな環境であるか想像がつきやすいかもしれない。質素な環境でトイレやシャワー、キッチンをシェアしながらチームのみんなで共同生活するところが多く、バックパッカーが旅先で利用するゲストハウスなどが似ているのではないか。

その中で毎回覚悟を決めなくてはいけないのが虫だ。自室にゴキブリなど当たり前の世界である。虫ではないが、イモリ、ヤモリも当然。虫が苦手なようでは人道援助など務まらないという人もいるかもしれないが、私にとってはこれら虫こそが派遣中の最大の敵であり、毎回その戦いには泣かされている。

布団をかぶって眠りに集中

現地では、虫が媒介する感染症が存在することがあるため、虫よけスプレーを皮膚に噴霧して虫刺されから防御しなくてはならない。しかし蚊などと違って虫よけスプレーでも防御できないのが布団に潜むダニだ。気づいたらかまれた跡が身体中に数百ほどに及ぶこともあり、気が狂うほどにかゆい。

派遣された紛争地での大問題 虫が怖い私
2010年、スリランカ派遣の際の宿舎。バックパッカーの旅でのゲストハウスを思わせる/写真提供=MSF

初回に派遣されたスリランカでは皮膚をかきすぎてアレルギー化し、注射や点滴を何度か繰り返すはめとなってしまった。なぜかダニに悩まされるスタッフは少なく、被害に遭うのはチームの中ではいつも私のみ、または少人数のみという不思議な現象もある。体質なのかたまたまなのかは分からないが、布団を干したり、傷にひたすらかゆみ止めやステロイド軟膏(なんこう)を塗ったりしながら戦っている。

スリランカの宿舎では、ダニに悩まされただけではなく、実はネズミが私の部屋に出没し、目が覚めて気づいてしまった時にはベッドの上で極めて精神の安定に努め、頭から布団をかぶって再び眠りにつく事に集中するしかなかった。この時はひたすら我慢しながら8カ月の派遣を乗り切った。

テントを選ばなかった理由

私にとって身の毛もよだつ経験をしたのは、2015年のネパール派遣だ。大絶景のヒマラヤ山脈に囲まれた活動だった。この年ネパールではマグニチュード7.8の大地震が発生し、地割れの発生や仏塔など歴史的建造物を含む多くの建物が倒壊した。首都のカトマンズや周辺地域にはたくさんの救援チームが世界中から集まっていたため、私たちは医療援助が届いていない場所に絞って活動した。

派遣された紛争地での大問題 虫が怖い私
ネパール・カトマンズで倒壊してばらばらになった寺院。後方の建物は大きな被害を受けていなかった=2015年4月、貫洞欣寛撮影

調査の結果、多くの家屋とともにその地域にある唯一の診療所が崩壊し、かついかなる援助も届いていない山岳地帯を探り出した。さっそくテント病院を高原の花々とその頭上をひらひらと舞う蝶々(ちょうちょう)たちに囲まれた大きな野原に緊急で立ち上げ、患者の対応にあたった。

この時の私たちの寝床は、テントでの野営か半壊したホテルかの二者択一だった。

夜は満天の星の下でのテント生活を選択するスタッフも多かったが、私はそれだけはできない理由を到着早々見つけてしまった。それは、花や蝶とともに大自然の中に存在する毛虫の存在だ。

毛虫はどうしても無理だったので、ネパールでは半壊したホテルで夜を過ごすほうを選んだ。ホテルでは毎度定番のダニに襲われ、電気がなくシャワーを浴びる時でさえヘッドライトが不可欠であったが、毛虫に比べるとかわいい問題だった。

派遣された紛争地での大問題 虫が怖い私
ネパールの山岳部の村にMSFが立ち上げたテント病院のそばに、医師や看護師らが宿泊するテントを張る作業をする白川さん。毛虫を見てしまい、結局半壊したホテルに宿泊した/写真提供=MSF

後に、その時に一緒に活動をしていた別のスタッフに聞いたところ、毛虫はそんなにいなかったという話だが、あまりの拒絶反応から私の脳内では実際の10倍以上、つまり大量に発生していたと認識されてしまったのかもしれない。

中には虫など気にもせず、どこであっても寝ることのできるチームメンバーたちもいる。私にとってはとてもカッコよく映り、自分もそのようになれたらMSFの派遣生活がどんなに楽になるだろうと思っている。

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