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「正しい」のは人間だけ? アンドロイドとの三角関係

撮影/馬場磨貴

『恋するアダム』

最近、人型ロボットのペッパーの生産が中止になったというニュースを見た。たしかに最近見かけないなと思っていた。そういえば二子玉川蔦屋家電にもオープン時に何体か勤務していたが、気がついたらいつの間にかいなくなっていた。ペッパーが大々的に登場した時は、これからは家庭用の人型ロボットが普及するのでは?と軽く期待も抱いていたが、どうやらそれが現実になるのはまだ先のようだ。

文学の世界では古くからロボットやアンドロイドが出てくる小説が多く存在した。カレル・チャペックの『ロボット』や、アシモフの『われはロボット』、ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』などなど。どちらかというと昔の作品ではロボットやアンドロイドは人間を脅かす存在のように描かれていることが多い。それは人間の知能を超えることに対する恐怖で、どこか人間としての尊厳を維持していたいという気持ちが働いているのかもしれない。

ただ、日本では昔からロボットやアンドロイドは友好的な関係を築くパートナーのように描かれることが多いようで、『鉄腕アトム』や『ドラえもん』は内容自体は子供向けではあるものの、人間と対立しないという点ではその最たるものと言っていいだろう。

イギリスの作家イアン・マキューアンの新作『恋するアダム』に出てくるアダムもまさに、主人公と友好的な関係を築く(はずだった)パートナーとして描かれている。

母親を亡くした主人公チャーリーは、その母の遺産を使ってアンドロイドのアダムを購入する。膨大な知識量を誇り、何を聞いても即座に回答できるアダムはチャーリーの良い相談相手となる。アパートの上階に住む大学生ミランダに恋をしているチャーリーはアダムの助言を受けて、うまく彼女と恋仲になることにも成功する。ここまではまるでドラえもんのひみつ道具を得たのび太が、しずかちゃんとうまくいくという漫画のような展開だ。

『恋するアダム』イアン・マキューアン(著) 村松潔(訳) 新潮社 2,750円(税込)
『恋するアダム』イアン・マキューアン(著) 村松潔(訳) 新潮社 2,750円(税込み)

だが、徐々にアダムはミランダに対して恋心を抱くようになり、ついには持ち主であるチャーリーとの三角関係に発展していく。

たしかにドラえもんもネズミに対して恐怖心を抱いているように、アンドロイドが感情を持ち合わせていてもなんら不思議はない。しかし、アンドロイドが恋愛感情を持つというのは斬新でおもしろい。

ミランダに恋をしたアダムは膨大な知識をもってアプローチし、ミランダもまんざらでもない様子。それを見たチャーリーは嫉妬の感情を抱くも、相手が機械なのではけ口が見つからないまま感情を消化しきれずにいる。ついにはアダムの電源を切ってしまおうとするも、アダムに反撃され腕を折られてしまう。シリアスな内容なのにどこか滑稽な感じで進むところにイアン・マキューアンの手腕が光る。また途中からはミランダの隠されていた複雑な過去が明らかになり、物語はより複雑になっていく。

物語を引っ張る、愛らしい恋敵

物語の舞台はパラレルワールドの1982年のイギリスで、その世界ではコンピューターの父と言われるアラン・チューリングが生きており(実際のチューリングは1954年に死去)、そのおかげでテクノロジーは急速な発展を遂げ、82年時点でパソコンや自動運転車や携帯電話が一般流通している(ちなみにビートルズも再結成している設定になっている)。

主人公チャーリーとアラン・チューリングの偶然の遭遇や、育児放棄された少年とミランダとの出会いなど、様々な出来事が物語に起伏を生むが、物語全体としては一貫してアンドロイドの存在意義について書かれている。

人間に対する恋愛感情を持ったアダムだが、人間のように感情の機微については完璧にはわからないでいる。結局それは物語の後半で行動の善悪の部分にまで踏み込んでいくことになるのだが、人間だってアンドロイドを凌駕(りょうが)するほど正しい選択や行いをしているのかと問われると答えに窮してしまう。結局正しい行いをしているのは人間なのかアンドロイドなのかの境界線がぼやけてきてしまうことが、この作品の最大の魅力であり、著者が一番伝えたかったことなのではないかと思う。

母親を亡くしたチャーリーと、母親のいないミランダ。時にアダムは母性を感じさせる存在でもあり、エディプスコンプレックスの象徴のようにチャーリーの前に立ちはだかる父性のようにも見える。恋敵のように見えつつも、チャーリーに対して助言をいとわず、ミランダへの愛情表現のひとつとして俳句を詠んだりする、どこか愛らしい側面が垣間見えるアダムという存在がこの作品を引っ張っているのは間違いない。

倫理観に沿った答えのない問題が含まれつつも物語として十分に読み応えのあるこの本は、個人的に今年の上半期に読んだ本の中で一番面白かったと断言できる。多くの人に手に取ってもらいたい一冊である。

「正しい」のは人間だけ? アンドロイドとの三角関係
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PROFILE
松本泰尭

まつもと・やすたか
二子玉川 蔦屋家電 人文コンシェルジュ
大学卒業後、広告代理店などメディア業界で働いたのち、本の仕事に憧れて転職。得意分野は海外文学。また大のメジャーリーグ好き。好きな選手はバスター・ポージー。

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