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新宿、品川、目黒……東京都内に富士山? 「登頂記」前編

旅行作家・下川裕治さんが、再び東京都内を巡ります。今回は都内で富士登山の気分になれる場所へ。急登や鎖場を経て、見えた景色は?

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

東京都内で富士登山・前編

今回から2回、東京都内の富士山登頂記をお届けする。2回の掲載で、登頂に成功した富士山は3山、見あげただけの富士山は2山、跡を訪ねることができた富士山が2山、みつからなかった富士山が1山。

「???」

東京都内に富士山があった? 

富士山ってひとつしかないのでは?

そう、登ったのは、富士山と名前がついた富士塚。なんでも東京都内には100を超える富士塚があるとか。多くは江戸時代の富士講が盛んな頃につくられている。「富士山に登ることは大変だが、これなら……」。そんな経緯でできた富士塚は、コロナ禍のなか、富士山に登ることが難しい僕らに向けた存在にも映った。

まずは最初の富士山めざして、新宿の歌舞伎町へ。

短編動画

品川区にある富士山の登頂動画を。鳥居のある登山口から登りはじめる。五合目で急に視界が開け、見あげると山頂は急な坂の上。登山道に沿って鎖も設置され、それを伝うように山頂に。そこからの眺めは……京浜急行の高架線路が眼下でした。

今回の旅のデータ

今回まわったのは新宿、品川、代官山の周辺。東京都内だから、簡単に電車で移動できる。それぞれの場所は駅からそう遠くなかった。品川から代官山方面へはバスを利用した。山に登るときは、登山口までバスに乗ることが多い。気分を盛りあげてくれる?

東京都内で富士山登頂 「旅のフォト物語」

Scene01

歌舞伎町

富士塚があるという稲荷鬼王(きおう)神社に向かう。住所は歌舞伎町。新宿駅からゴールデン街を抜け、「ご休憩」の看板が目立つホテル街を進む。この先に? 飲み歩いた記憶はよみがえってくるが、富士塚となると……。さらに進むと、ビルに囲まれたこんもりとした林が見えてきた。ここにある?

Scene02

富士塚

神社の正面から入り、奥に進んでいくと……。石畳の両側に溶岩らしき岩が積みあげられている。右手を見ると、「五合目」の碑が地面の少し上に。富士山の五合目ということなら、富士塚の中腹にあっても……。振り返ると、反対側には二合目、三合目といった碑がある。富士塚が中腹で左右に分かれてしまっていた。なぜ?

Scene03

宮司

そこで稲荷鬼王神社の富士塚の変遷史。宮司の大久保直倫さん(写真中央、57歳)によると、富士塚が築かれたのは江戸時代。しかし明治初期の廃仏毀釈(きしゃく)運動のなかで崩してしまう。塚をつくった富士講は仏教の影響を受けていたからだ。その後、やはり富士塚があったほうが……という声で再築されたのが1930(昭和5)年だった。ところが……。

Scene04

水琴窟

再築された塚は高さが10メートル近くあったという。しかしこの一帯は太平洋戦争の空襲に遭ってしまう。いまの形に整備されたのは昭和40年代とか。登ると危ないという心遣いで中腹でわけることに。この一帯はかつてはお屋敷が多かった。植木職人は神社を屋敷の庭園施設の展示場のように利用した。だから水琴窟(すいきんくつ)。いい音でした。

Scene05

御朱印

近くのバッティングセンターの記憶はあるが、稲荷鬼王神社ははじめてだった。案内をしてもらっていると、参拝する人が次々にやってくる。歌舞伎町のこういう世界、知りませんでした。富士塚の御朱印はこれ。ちゃんと富士山がふたつ。その間に「登拝」の文字。山頂の神社のミニチュアには、毎日、お神酒と野菜などが捧げられています。

Scene06

石碑

稲荷鬼王神社の富士塚のある新宿から山手線に乗って大崎で降りた。ビルに挟まれた道を進み、高架になった東海道線をくぐった先にありました。品川神社。ここに品川富士と呼ばれる富士塚があるはず。しかし神社を見あげても、それらしき築山がない。神社に向かう石段を登ってみた。ありました。石段の途中に登山道の碑。

Scene07

碑

品川富士の登り口には鳥居があった。そこをくぐり、少し神聖な気分で登りはじめる。すぐに一合目の碑。そこまで一歩。リアルな富士山登山は、五合目までバスであがってしまう。しかし品川富士はちゃんと一合目から歩いて登る。この富士塚ができたのは1869年(明治2年)。その頃の富士山登山は一合目から歩いていたから?

Scene08

石段

石段を登っていくと、20歩ほどで平らな道になった。この道は富士塚の中腹を巻くようにつくられていた。ここが五合目ぐらいの感覚だろうか。ここから一気に急登になる。鎖場も登場。本当に富士山に登っているような感覚になってくる。といっても一合目からこのあたりまで40歩ほどの登山ですが。

Scene09

石碑

登山道はさらに険しくなってきた。七合目、八合目という石に刻まれた文字を確認しながら登っていく。七合目から八合目まで五歩ほど。ほぼ等間隔で〇合目という碑を配置している気がする。九合目の先が山頂だから、もう少し。そこからはどんな眺めが待っているのだろうか。

Scene10

高架線路

山頂に着いた。汗もかかず、息もあがっていないが、吹きあげる風がなぜか心地いい。眼下に京浜急行の高架線路。そして品川周辺の街並みが続く。品川神社の話では、神社があるところが標高10メートル。とすると山頂は15メートルほどだろうか。山頂脇に祠(ほこら)があり、周囲にはおさい銭が。これも富士山にある神社という設定?

Scene11

下り

山頂からの眺めをしばらく楽しみ、下山することに。登った斜面の裏側にも登山道があり、そこをくだった。かなりの傾斜だった。くだりきったところが五合目のレベルで、品川神社の境内へと続いていた。毎年7月、白装束に身を包んだ富士講の人々によって山開きが行われているという。

Scene12

川

品川神社近くのバス停から中目黒方面に向かうバスに乗り、目黒川沿いで降りた。ここから目黒新富士跡と目黒元富士跡に向かう。跡といっても、富士塚だから、坂道を登る覚悟で歩きはじめる。川に架かる橋を渡って住宅街を歩く。やがて急坂に。沢に沿った道を進み、山頂をめざして登っていく登山道は多い。そのパターンだった。

Scene13

坂道

登山道ではないが、急な坂道を登っていく。まさに胸突き八丁。代官山をめざしてひざに力をいれる。はっきりいって品川富士登山より数倍きつい。息が切れる。周囲には高級そうなマンションが連なっている。まずは目黒新富士跡。富士塚の跡なので、築山(つきやま)を探していけばいいというわけにはいかない。

Scene14

看板

唐突に「目黒の”新富士”と新富士遺跡」という看板が現れた。その前で小休止。目黒新富士は、江戸時代後期の幕臣、近藤重蔵の土地に築かれた富士塚。多くの江戸の人々が訪ねたという。広重の「名所江戸百景」にも描かれている。ここでは重蔵の息子が町民7人を殺害した鎗ケ崎事件もおきた。話題にはこと欠かない富士塚だった。

Scene15

目黒元富士跡

目黒新富士跡から代官山駅近くまでくだり、目黒元富士跡へ。そこにあった案内板によると、1812(文化9)年に、富士講の人々が富士山から溶岩塊を運んでつくったとか。高さは12メートルもあったらしい。目黒元富士跡の表示の右手には、「関東の富士見100景」の案内板も。富士塚の多くは、その頂から富士山が見える場所に築造されている。

※登頂した日:6月23日

【次号予告】次回は、東京の富士塚登山の旅の後編。

新宿、品川、目黒……東京都内に富士山? 「登頂記」前編

2019年に連載された台湾の秘境温泉の旅が本になりました。

台湾の秘湯迷走旅(双葉文庫)

温泉大国の台湾。日本人観光客にも人気が高い有名温泉のほか、地元の人でにぎわうローカル温泉、河原の野渓温泉、冷泉など種類も豊か。さらに超のつくような秘湯が谷底や山奥に隠れるようにある。著者は、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに、車で超秘湯をめざすことに。ところがそれは想像以上に過酷な温泉旅だった……。台湾の秘湯を巡る男三人の迷走旅、果たしてどうなるのか。体験紀行とともに、温泉案内「台湾百迷湯」収録。

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