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花のない花屋
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政治家だった父が認知症に。昔の父にもう一度会いたくて

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
山脇暁子さん(仮名) 42歳 女性
主婦
東京都在住

    ◇

こんな夢を見ました。それは、認知症になる前の父の人格と頭脳がAIでよみがえり、私と昔のような会話をしているという夢です。目が覚めた時、昔の父に会えた懐かしさで胸がいっぱいになり、同時に一族の出世頭だった自慢の父が認知症になってしまった事実を受けいれられていない自分に、改めて気づきました。

小さい時から、私にとっての父は、誰よりも尊敬できる存在でした。政治家として人々のために身を粉にして働き、家ではいつも穏やかで、子煩悩。現役時代の朝、キリっと整った身なりと七三の髪形で食事をしていた姿が今でも目に浮かびます。食事を終えると背広をはおって父は颯爽(さっそう)と仕事へと出かけていくのです。

とはいえ、パジャマ姿でいつまでも寝ぼけ眼をこすっている私たち子どものことは、目を細めて眺めているだけ。怒られた記憶がほとんどありません。自分は厳しく律するものの、他人にはやさしい。そんな立派な父でした。

また、学校の勉強のわからないところを教えてくれるのも父の役割です。何かを質問して、わからないことはひとつもないくらいの博識でした。そんな昔の父にもう一度会いたいという思いは、夢を見てからますます強くなりました。

「あなたは何年生になったんだっけ?」

夢を見た数日後、久しぶりに訪れた実家で父に聞かれました。孫は何年生になったのか? 娘の私は何歳になったのか? そんな二つの質問がひとつになってしまった、父のいつもの質問でした。

「私は、42歳、上の子は4年生、下の子は1年生になったよ」

この日、父と散歩をしながら、そんないつもの会話をしていると、父の様子がいつもと違うことに気がつきました。手術の後遺症で苦しそうだった呼吸が、この日は楽そうです。そのせいかここ最近ないくらいに、会話のキャッチボールがきちんとできている感覚がありました。

今しかない……そう思って、私の思いを父に伝えました。

「お父さん、昔の自分って覚えてる? 私は、今の穏やかでゆったりしているお父さんも好きだけど、勉強も仕事もできて、どんな悩みも相談できて、わからないことは何でも答えてくれた、昔のお父さんにもすごく会いたいって思うことがあるよ。昔のお父さんはどこへいっちゃったの?」

そう父に訴えながら、思わず涙があふれてきました。昔のお父さんは「今も残っている」という答えを期待したのですが、父の答えは違っていました。

「それ(昔の自分)は、もうないなあ……。もし必要があったら残っていると思うけどね。お父さんの場合は、もうやることはやったという気持ちだから必要がないんだよ」

その言葉を聞いて、ふと力が抜けました。

子どもが成長して少年少女になった時に、赤ん坊の頃の記憶が残っていないのと同じで、人が年老いていく過程で、若い時の人格が消えていくことも、人の成長の一端ではないか。そう考えると、父の認知症も嘆き悲しむことはないと思えるようになりました。かつてどんなことでも教えてくれた父は、認知症になっても私に多くを教えてくれます。

そんな父に感謝と愛を込めて、花束を贈りたいと思いました。

政治家だった父が認知症に。昔の父にもう一度会いたくて
≪花材≫アガパンサス、アジサイ、テッセン、ルリタマアザミ、セッカヤナギ、シュロ

花束をつくった東さんのコメント

長くお仕事をバリバリされてきた力強さと、子煩悩で穏やかな家での姿。その両面を併せ持ったお父様をイメージしたブーケに仕上げました。

全体的には紫を基調とした和のテイスト。シュロの葉を扇のようなに形に広げ、アジサイ、テッセンなど、和のテイストの花が多く入っています。アクセントにしたのは、上のほうに伸びるヤナギの一種、セッカヤナギです。

今もやさしくて、かっこいいお父様を思う投稿者様のお気持ちが、ブーケとともに届けばうれしいです。

政治家だった父が認知症に。昔の父にもう一度会いたくて
政治家だった父が認知症に。昔の父にもう一度会いたくて
政治家だった父が認知症に。昔の父にもう一度会いたくて
政治家だった父が認知症に。昔の父にもう一度会いたくて

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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