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野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?

コロナパンデミックで壊滅的な打撃を受ける前は、動員数、市場規模ともに右肩上がりだった音楽フェス。いつしか音楽ファンでも把握が困難なほどに数が増え、数年で姿を消すイベントも珍しくない。そんななか、独特の存在感を示しているのが野外ダンスフェス『GLOBAL ARK』だ。

大自然の中でテクノ、ハウス、アンビエントを楽しむこのフェスは、スポンサーを募らず、利益も積極的に追求しないスタイルで今年10周年を迎える。フェス運営は収益確保の難しさが指摘されるが、継続させる秘訣とは? 『GLOBAL ARK』の運営の裏側に迫る。(取材・文=宮崎敬太)

「フェスビジネス」への違和感

野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?
日本を代表する音楽フェス『FUJI ROCK FESTIVAL』/2003年7月26日、新潟県湯沢町の苗場スキー場、朝日新聞社

僕が初めて音楽フェスに行ったのは24年前。1997年に開催された第1回の『FUJI ROCK FESTIVAL』だ。当時の僕らにとって音楽フェスははるか海の向こうの出来事で、洋楽情報誌で取材リポートを読むなどして、妄想を膨らませることしかできなかった。だから国内外のトップアーティストが集まる野外フェス『FUJI ROCK〜』の開催に日本中の音楽ファンは狂喜した。

会場の富士天神山スキー場(現:ふじてんスノーリゾート)は標高1300メートル前後。無謀にも短パン、Tシャツ、ダンガリーシャツの軽装で臨み、いつものようにダイブしまくってたら、すぐ酸欠になった。

初日は台風による豪雨に見舞われ、夜は屋内会場で雨宿りをした。寒さに震えながら体育座りで朝を待っていたあの時、本気で「この夜は明けないんじゃないか」と思ったのをよく覚えている。

翌日は快晴だったが開催中止。怒りに怒ったものだが、場所によってはひざまで埋まるほど地面がぬかるんでいたので、今思えば妥当な判断だったと思う。何もかもがドタバタだったけど、僕らには歴史的瞬間に立ち会ってる実感があって、言い表せないほど高揚していた。

そこから長い年月をかけ、フェスは夏の風物詩になった。地方自治体が町おこしで開催しているものを含めると、一年中どこかで開催されているイメージすらある。いろんなスポンサーが協賛し、雑誌はもちろん、一時はコンビニでもフェスの告知を見かけた。

おかげでフェス自体は快適になり、ハードルも下がったけれど、フェスを商機と見る向きが広がり、チケット代は上がっていった。「フェスビジネス」なんて言葉を耳にすると「なんか違うな」と感じるのは僕だけではないだろう。

2021年はコロナの影響で『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』の中止が話題になったが、それでも『FUJI ROCK〜』をはじめ、8月以降もさまざまなフェスが開催されそうだ。そのなかで異彩を放っているのが、今年10周年を迎える野外ダンスフェス『GLOBAL ARK』だ。

日本のテクノDJの草分けであるDJ MIKUが2011年に立ち上げたフェスで、オフィシャルサイトには協賛企業のスポンサーロゴがない。つまり“完全DIY”で運営されている。

野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?
群馬県・菅沼の湖畔で開催された『GLOBAL ARK2020』/事務局提供

3日間通しで9000円 低価格へのこだわり

DJ MIKUは90年代初頭に六本木のクラブ「RAZZLE DAZZLE」のレギュラーDJとして活動していた。客はインドのゴアから来た露天商からヒッピーチックなテクノヘッズまでバラエティーに富んでいたという。後年、そこに集まった数少ない日本人に再会した時、「もう一度ああいうのやってよ」と言われたのが『GLOBAL ARK』を始めるきっかけになった。

さらに自身がイギリスの野外フェス『BIG CHILL』に出演したことも大きかった。『BIG CHILL』は「リラックス」にフォーカスしたユニークな野外ダンスフェス。MIKUは「いつか日本でこんなことをやってみたい」と思ったという。

野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?
DJ MIKU/『GLOBAL ARK』主宰。90年代初期よりエレクトロニックサウンド(テクノ)を基調としたダンスミュージックでDJ MIKU(DJ MIK)としてのオリジナリティーを確立。90年代から2010年代までDJ MIKU名義でPickin’mushroom、Pussyfoot、WC recordings、 blank records、Music mine、Hypnotic Room、Totem Traxxなどから楽曲リリースを重ねるほか、数々の国内外の野外イベント、フェスなどに出演。2019年より今までのプレイスタイルに加え、膨大なアーカイブと経験を生かしたフリーフォームなDJも並行して行っている。

『GLOBAL ARK』のオーガナイザーの一人、六弦詩人義家は、2年目にパフォーマーとして出演して以来、運営に携わっている。

「初めて演奏したとき、お客さんから出演者、スタッフに至るまで、あらゆる人から良いバイブレーション(フィーリング、ノリ)を感じて、終演後に運営に参加しようと決めました。実際に関わってみると、毎年『二度とやるか』って思うくらい大変ですが、当時の良いバイブレーションをずっと覚えているから、次の年も自然と開催に向けて動いてる」(六弦詩人義家)

野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?
六弦詩人義家/幻想的なバックトラックに共鳴するエレクトリックギターと詩の朗読を重ねたパフォーマンスを繰り広げる孤高の吟遊詩人。プログレッシブロック、テクノ、民族音楽等、多岐にわたる音楽をルーツとし独自の世界観を構築する。小滝みつる(ex 戸川純とヤプーズ)とのユニットECSTASY TWINSで活動するほか、『GLOBAL ARK』のオーガナイズメンバーも務める。

10周年となる今年の『GLOBAL ARK』には高橋透、須永辰緒、DJ KENSEI、井上薫、J.A.K.A.M.、HIDEO KOBAYASHI、KEN ISHII、DJ KRUSHら、日本を代表するDJが出演する。MIKUいわく「20年前のプレ-を今聴いても変わらない、普遍的な魅力があるDJ」たちだ。

チケットは3日間通し券で9000円。このメンバーなら通常は1日券で1万円はゆうに超える。だが、「本当はもっと安くしたい」とMIKU。「ダンスミュージックのカルチャーは、お金はないけど志を持ってる人たちが作ってきたもの。富裕層のためのものじゃない」と価格帯には強くこだわる。

収支は赤字続き。それでも「許容範囲」に収まるよう工夫を凝らす。

「一番お金が出て行くのが会場費と設営費。毎回自分たちの規模にあった会場を選ぶようにしています。また、自分自身がDJなので、仲間のDJにお友達価格でお願いしたり(笑)。10年続けてこられたのは、お金の面も含めてみんなが協力してくれたからです」(DJ MIKU)

野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?
『GLOBAL ARK 2021』の出演者リスト

それでも今年は去年よりも2000円値上げせざるを得なかった。目的は利益の追求ではない。群馬県の尾瀬ほたか高原「ほたか牧場キャンプ場」で開催するためだ。義家が「フロアは天国(笑)」と語る一面芝の会場は、あの『Big Chill』を彷彿(ほうふつ)とさせる。

「この会場を知ったのは6年前。でもその頃はここで開催できるほどの実力が自分たちにはなかった。10年目にしてようやくたどり着きました」とMIKUは感慨深げに語る。標高1500メートルで、真夏でも気温は25度程度。運が良いと雲海も見えるという。

「このコロナ禍で開催できるのも地元の協力があってこそ」とMIKU。コロナ対策については、「野外だから風通しが良い。去年は人が集まりすぎたら、雰囲気を壊さないように音を止めて、ソーシャルディスタンスを保ってもらいました」。今年もスタッフ総出ですべての施設を定期的に消毒、換気する。

ユニークなコロナ対策もある。去年に引き続き、今年もおしゃれマスクの着用をドレスコードとしている。ネガティブな行為に楽しみを見いだす、コロナ予防を逆手にとった試みだ。

昨年義家のステージに子供が上がってしまうハプニングがあった。だがそれも自然に受け入れられた。むしろ「一緒に子供を連れて来られて、親御さんは安心して音楽を聴いていられる環境なんだ」と誇らしく感じたという。

今年は特に制約が多い。そんな中でも『GLOBAL ARK』を開催するのは「自分で楽しめる場所を自分で作る」という気持ちから。オーガナイザーの使命は「カルチャーを作る」ことだとMIKUは言う。

それを聞いて、僕は自分が24年前に体験したあの高揚は、新しいカルチャーに参加していたからこそ感じられたものなのかもしれないと思った。その直後、「(そういうイベント)だから、『GLOBAL ARK』は正直まったくビジネスにならないんですよ」とMIKUは笑っていた。

野外フェス『GLOBAL ARK』が10周年 こだわりの低価格、どう実現?
『GLOBAL ARK』主宰者のDJ MIKU(左)と同オーガナイザーの六弦詩人義家/2021年7月、下北沢、下元陽撮影
イベント情報

<GLOBAL ARK 2021 – The 10th Anniversary in OZE-HOTAKA ->

会場:ほたか牧場キャンプ場 Hotaka ranch camping ground
(群馬県利根郡片品村 花咲2797-2)
日程:2021年8月27日(金) 、 8月28日(土) 、 8月29日(日)
開場:13時00分、開演:17時00分
料金:前売りチケット 9000円(完売済み) ※当日券はなし

GLOBAL ARK オフィシャルサイト
DJ MIKU 公式サイト
六弦詩人義家 Facebook / Instagram

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