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しなやかで多様で。東京で商う夫婦40組のリアル

撮影/馬場磨貴

『東京商店夫婦』

住んでいる街のパン屋で食パンを買っている。仕事帰り閉店間際のお店に入ると、こちらが注文をする前に「いらっしゃい。今日も4枚切りでいい?」とおばちゃんは慣れた手付きでパンを切り始める。レジの向こうの作業場には、今日の仕事を終え、調理台を丁寧に掃除するおじさん。先代から受け継いだ夫婦によるこの小さなパン屋の壁には子どもたちの絵が飾られ、地元の住民に愛されていることが伝わってくる。

なぜ、そこのパン屋に買いに行くかを考えると、パンがおいしいからだけではなく、おばちゃんとのとりとめもない会話や、夫婦の言葉を交わさなくても通じ合う様子を楽しみにしているからなのかもしれない。そう思ったのは、『東京商店夫婦』を読んだからだ。

本書は、東京でさまざまな商売を営む夫婦40組に、写真家の阿部了さんとライターの阿部直美さんが取材をした一冊。

掲載されているのは、理容室、洋菓子店、喫茶店、クリーニング店など、東京の商店街にどこにでもありそうな「ふつうの」商店ばかり。夫婦で商いをするという、かつて世間ではあたりまえの商業のスタイルを貫く人々の、ある種の懐かしさを楽しむような本なのだろうと手に取ったことを謝りたい。そこにあるのは、現在進行形のしなやかで多種多様な暮らしと商いの姿だった。

一組の夫婦につき見開き4ページのインタビューと仕事場を背景にした夫婦の写真が掲載されている。ある夫婦は、お店の前の木漏れ日の下、自然体で立つ夫に、妻が寄り添うように体を向けて立ち、ある酒屋の夫婦は、日本酒の瓶がきれいに並ぶ店内で、2人が同じように体の前で手を組む。写真からそれぞれの距離感や関係性が浮かび上がってくるようだ。

そこで語られるのは、もともとは他人である2人がどのように出会い、暮らし、仕事をしてきたのか。どうやって時代の波に翻弄(ほんろう)されず踏ん張ってきたのか。そこに「ふつうの」商店なんて存在しないし、当初予想していたノスタルジーという言葉で語れるようなものではなかった。

何よりも良いな、と思ったのは写真と文章が見事に補完し合っていることだ。それぞれのリアルな言葉や自然な表情を引き出している本書は、他の東京商店夫婦と同じく、2人で仕事をともにする阿部夫婦だからこそ成しえているのだろう。

仲の良しあしなんかを超えたものが存在しているのが、商店夫婦だった。商いに日々喜びがあり、互いに協力し合う。尊重し合う。会話がある。幸せってこういうところにあるんだな、と思わずにいられなかった。

p.187
しなやかで多様で。東京で商う夫婦40組のリアル
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PROFILE
嵯峨山瑛

さがやま・あきら
二子玉川 蔦屋家電 建築・インテリアコンシェルジュ
大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。 大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。 卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。

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