THE ONE I LOVE
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「センスいいね」では済ませられない歌詞がある  オオヤユウスケ(Polaris)が選ぶ「愛」のプレイリスト


こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」

今回は、7月2日に自身初となるソロ名義でのオリジナル作品「Delight, Moon Light」をリリースしたオオヤユウスケ(Polaris)が選曲。「愛といっても恋愛ではなく、慈しみの感情を描いた曲を集めた」と語るプレイリストは、ジャンルも国籍もさまざまで、歌のないインストゥルメンタル曲も含まれている。オオヤがこれらをどのような意図で選んだのか、じっくりと話を聞いた。

<セレクト曲>
01. Milton Nascimento「Ponta de areia」
02. 矢野顕子「ごはんができたよ」
03. Ólafur Arnalds & Nils Frahm「20:17」
04. ゆらゆら帝国「ひとりぼっちの人工衛星」
05. オオヤユウスケ「Delight, Moon Light」

■Milton Nascimento「Ponta de areia」

単純にすごく好きで、「いつかカバーしてみたいな」と思っているような曲です。僕は普段、音楽を聴くときに歌詞から入るようなことはあまりないんですけども、これに関しては歌詞の意味がどうしても知りたくなって。メロディーやミルトンの歌からなんとなく郷愁や懐かしさを感じていたんですが、実際に調べてみたら、まさしく郷愁を歌っている。ポルトガル語の歌なので、もちろん聴いていてまったく言葉は聞き取れないのに、ちゃんと伝わるものがあるんですよ。歌詞には「バイーア」や「ミナス(ミナスジェライス)」(*共にブラジルの州名)といった地名が出てきて、当然僕にはピンと来ない土地なんですけど(笑)、自分にとってのバイーアやミナスに当たる懐かしい風景が自然と思い返されるような曲です。

この曲、シンプルなようでいて実は拍子が変なんですよ。メロディーの進む速度と、小節が進む速度がズレる瞬間があるんですよね。実際にカバーしようとするとすごく難しい曲だと思う。これは臆測ですが、先に弾き語りで録音したものにドラムやベースをあとから重ねているんじゃないかな。昔の録音って、わりとそういうものがあるんですよ。途中に出てくるテナーサックスのソロなんて、よく収めてるなと思いますもん。もし自分がこの拍子でソロを振られたら、きちんと尺に収めて次のミルトンがスムーズに歌い始められるように渡せる自信はないです(笑)。

■矢野顕子「ごはんができたよ」

矢野さんならではの、とてもわかりやすい家族愛が歌われている曲ですね。小学生が使うような平易な言葉が、独特な面白いメロディーに乗っている感じが素晴らしいなと。僕は矢野さんご本人の書かれる歌詞が大好きなんですよ。ちょっと言葉足らずだったり、奇抜な言い回しがあまり整理されずに歌われていたりするので、“メロディーに突き動かされるように出てきた言葉”という感じがします。おそらく、「メロディーができました、さあ歌詞を書くぞ」という流れではなくて、もっと不可分なものとして作られている印象なんですよね。メロディーを考えている段階で自然と降りてくる言葉……“降り語”みたいなものがたくさん感じられる。

この曲に出てくる、たとえば「八百屋のみいちゃん」のようなパワーのある言葉って、普通はあざとく聞こえたり、嫌らしい感じになったりしそうなものなんですけど、矢野さんの場合は本当に思っていることが書かれている感じがしますよね。ブログを書くようにというか、まるで日記をそのまま歌っているかのような境地で音楽を作れるというのは、音楽家として理想的なあり方だなと思います。「これ、歌詞なんですか?」みたいな(笑)。作為が感じられないのに完成度が高くて、誰にもマネできない。他の人が同じことをやったらダサくなるんじゃないかなという気がします。

■Ólafur Arnalds & Nils Frahm「20:17」

オーラヴル・アルナルズとニルス・フラームというポスト・クラシカルのピアニスト2人によるコラボ作品『Trance Frendz』からの1曲です。2人はレーベルメイトで、プライベートでも仲がいいらしいのですが、この作品からはとくに友情の強さを感じるというか。このアルバムの制作ドキュメント映像がありまして、YouTubeで見ることができるんですけど、めちゃくちゃいい雰囲気なんですよね。食事のシーンとか、2人が近所で遊んでいる風景なんかも収められていて。そういう家族的なノリがすごくうらやましいなと思いますし、キュンとします。僕自身もそういうのが好きで、友達と演奏するのはすごく楽しいですし、通常のソロライブ以外にセッションライブもずっと定期的にやっているんです。

この曲のような温度感でコラボできる仲間がいるのって、なかなか珍しいことだと思います。どっちも“がんばってない”じゃないですか(笑)。音もなんかモコモコしてるし、この空気感がすごく面白いです。今の世の中には真空パックされたような、ピチーッときれいに収まっている感じの音が多いですよね。 もちろんそういうものが悪いという意味ではないですけど、僕はわりと“のりしろ”のある音楽が好きなので、音と音の間に空間が感じられるものを作りたいです。以前出したカバーアルバム(『STEREO』シリーズ)でもそういうところを大事にしていて、ちょっとギターを弾き間違えちゃったりもしてるけど(笑)、「むしろそのほうがいいんじゃない?」みたいな。

■ゆらゆら帝国「ひとりぼっちの人工衛星」

これはライブでもよくカバーしています。それこそカバーアルバム(『STEREO #2』)でも取り上げていて。もともと好きな曲ではあったんですが、自分で歌ったことで、ものすごく好きになっちゃった1曲です。めちゃくちゃ深い愛を、偏愛も含めてすごく感じますね。歌メロが美しいところもポイントで、ゆらゆら帝国ってサウンドにインパクトがあるからどうしてもそのイメージで見られがちなんですけど、実はメロディー自体がとってもいいんですよ。ぜひ一度歌ってみてください(笑)。歌うことでそれがよくわかると思います。

彼(坂本慎太郎)の言葉には、びっくりするような言葉遣いなのにあざとくないという意味で、テイストは違えど矢野さんと同じようなものを感じます。たとえば「好きな 人」「好きな 場所」はまだ普通なんですけど、「好きな 山」とか「好きな 谷」とかって、普通はどういう気持ちで歌ったらいいのかわからなくなる言葉だと思うんですよ。

だって、「お前、好きな谷どこ? 何渓谷?」みたいな会話は普通あまりしないじゃないですか(笑)。なんですけど、歌っていると自然に、好きな谷や好きな丘をうっかり思い浮かべそうになるんですよね。「静まれ 海 野 谷 山 丘」という1行もすごい。「『野』って言葉、歌詞になるんだ?」みたいな(笑)。

この曲もすごく“のりしろ”たっぷりというか、「だからなんなの?」という歌で(笑)。「つまりこういうことです」という“正解”を言わずに、そぎ落としているんですよね。この曲にわかりやすいメッセージが入っていたとしたら、もしかしたら「歌いたい」とは思わないかもしれない。この歌詞を語る上で、“言葉のセンス”と言ってはいけない感じがするんです。「センスいいね」では済ませられないものがあるし、もしかしたらセンスが“悪い”のかもしれない。一般的に言われる「センスがいい/悪い」とは違う評価軸が必要だと思うんですよね。

■オオヤユウスケ「Delight, Moon Light」

自分で言うのもアレですけども、普通の”歌詞的な意味合い”としては、本当に何も言っていない曲ですね(笑)。むしろそのとき感じた“状態”を書いていて、それこそメロディーを作る段階で口をついて出てきた言葉をほぼそのまま使っています。歌っているパート自体が少ないですし、間奏部分と「どっちがメインなのかな」という構造ですが、そういう部分をきちんと音楽で伝えたくて。歌だけが中心に来ることなく、あくまで“音楽の一部”でありたいというような。前半と後半で、もはや別の曲ですよね。

Aメロ、Bメロ、サビというような一般的なJ-POPの構造とはまったく異なる作りになっていますが、奇をてらったものではないんですよ。自分の中ではこれが王道で、むしろAメロBメロといったフォーマットは意識的に「そういうふうに作ろう」と思わないと、自然には出てこない。実は、Polarisではそれを意識的にやることもけっこうあるんですよね。その中にすごく長い尺のインプロヴィゼーション(即興)などを導入したりするんで、パッと聴くとあんまりそういうふうには聞こえないと思うんですけど。

この曲は最初にギターで作ったんですが、最終的にギターの音はなくなりました。「自分にとってギターってなんなのかな」と考えたときに、やっぱり“音楽を作るためのツール”という感覚が強いんですよね。自分がギタリストだという認識よりも、ソングライターとしての自覚が根本にある気がするんで。Polarisではギターがいっぱい鳴ってますけど、実は作り方としては逆に打ち込みスタートだったりもするんですよ。この「Delight, Moon Light」を生バンドで演奏すると、まんまPolarisになります(笑)。

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