1億2800万円の理由――日産GT-R50 byイタルデザインの製造工程を見た

伝来の技、最新技術、そしてパッション
最後に訪れたのはヴァドのすぐ隣、モンカリエリにあるイタルデザイン本社である。広大な建物の一角では、大型3Dプリンターが備えられていた。少量生産車であるGT-R50 byイタルデザインの場合、一部のパーツは、こうした機器を駆使したほうがさまざまな面で効率が良い。ただし、たとえ最新型3Dプリンターでも、完成まで8時間近くを要する部品が大半だ。
「セッレリア」と呼ばれる内装材の部門も覗(のぞ)くことができた。「ポルトローナ・フラウ」製牛革、高級人工皮革「アルカンターラ」など、数々の素材がロール状にして積み上げられている。

そこで独り黙々と作業を続けていたのはコジモ氏だ。カーボン製内装材と前述のマテリアルに糊(のり)を吹き付け、最高の接着力になるよう時間をおいてから、丁寧に貼り合わせてゆく。巧みに握っているのは、彼が35年使い続けている牛骨製のヘラだ。

艤装が完了した車両はダイナモメーターや防水試験などを経て、公道走行試験を行う。前述の3つのマテリアルを用いた車両ゆえ、軋(きし)み音のチェックにも慎重を期す。ボディー各部に丁寧な透明ラッピングが施されているのは、路上の跳ね石などを避けるためだ。それでも走行距離は、数十キロに留めるように努める。「オーナーとしては少しでも走行距離が少ないクルマを心待ちにしますからね」とスタッフは理由を語る。

かくもイタリア屈指の自動車都市トリノに生きる技と最新技術、そして携わる人々のパッション。その三者の融合によって造られていた。世界限定50台。近い将来、そのうちの1台と世界のどこかで偶然にも対面する日がくるかもしれない。そのとき筆者の脳裏には、超弩(ど)級の価格より先に、最高の技を捧げた彼らの顔が浮かんでくるに違いない。
(写真・動画/大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、Italdesign)
イタリア在住の大矢さんならではの取材ですね。プリンス時代にミケロッティとアレマーノとのコラボで生まれたスカイラインスポーツを思い出させてくれました。次の取材も楽しみにしています。