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早世の天才デザイナー、ピオ・マンズーが遺(のこ)したもの

トリノ自動車博物館ピオ・マンズー企画展の会場

プロダクトと車の両分野で活躍

マンズーはプロダクトデザイナーとしても頭角を現し始めた。65年のブリーフケース「ヴァリジェッタ」は、素材の95%に低価格のポリスチレンをあえて使うことを試みた。

同年には冒頭で記した置き時計も手掛けている。「クロノタイム」と名付けられたそのトランジスタ式置き時計は土台と文字盤を分離させることで、使い手が見やすい方向に自在に回転できるアイデアであった。実はこのプロダクト、当初フィアット社のノベルティー(記念品)として企画されたものであった。だがのちには、あのニューヨーク近代美術館に展示された。続いて68年にはデスク用文具「ポルタオジェッティ」をデザイン。こちらはイタリアの著名家具メーカー「カルテル」が製品化している。

トランジスタ置き時計「クロノタイム」66年
トランジスタ置き時計「クロノタイム」66年

興味深いことに日本人建築家・丹下健三との接点もあった。彼らは66年からリミニを舞台にした国際シンポジウムで、マンズーは都市交通の観点から、丹下は都市計画の観点から、未来の都市像を予測している。

67年には有名なデザイン賞「コンパッソ・ドーロ(金のコンパス)賞」の審査員、オリベッティ社のコンサルタントに就任するなど、八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をみせる。当時手掛けたモノコック構造乗用車のスケールモデルに関していえば、前部のミニマムな造形は、ジョルジェット・ジウジアーロの98年「大宇(シボレー)マティス」に少なからず影響を与えたのではないかと筆者は推察する。

「モノコック(一体構造)車両」習作、スケールモデル
「モノコック(一体構造)車両」習作、スケールモデル

さらにマンズーは、フィアット社の自動車デザイン・コンサルタントにも就く。その経緯を筆者に解説してくれたのは歴史家・ジャーナリストで、企画展監修をマンズーの長男ジャコモ・マンゾーニとともに務めたジョズエ・ボエット=コーエンである。

企画展監修者のジョズエ・ボエット=コーエン氏
企画展監修者のジョズエ・ボエット=コーエン氏

「フィアット創業家3代目のジョヴァンニ・アニェッリ(1921-2003)は、美術に対して深い造詣(ぞうけい)の持ち主でした。父ジャコモ・マンズーは、彼と深い交流がありました」

その縁でピオ・マンズーは、学生時代から欧州屈指の企業フィアットと極めて近い立場にいたのである。プライベートでもアニェッリ邸の家具をデザインするほどだった。

マンズーの自動車デザイナーとしてのセンスも、フィアット幹部の目からして疑いなきものだった。しかしマンズー自身は、当初は同社との関係に積極的ではなかった。

「面接の部屋でマンズーは、推薦してくれた幹部に後ろから背中を押されるようにして、重役陣の前に出て行ったのです」とボエット=コーエンは笑う。

「マンズーは大企業・フィアットの軍隊的規律に自身が馴染(なじ)めるとは到底思っていませんでした。そこで、最終的にコンサルタントという形で参画することで決着をみたのです」

そうしたマンズーの意思が反映された背景には、アニェッリによる深い理解があったことは間違いない。

フィアットとのコラボレーション第1弾は早くも1968年に結実した。同年のトリノ自動車ショーに展示されたコンセプトカー「シティタクシー」だ。機構部分こそ従来の「フィアット850」用を流用していたが、路上投影面積は最低限に抑えられていた。車両の右側面にあるドアは、客を乗降させる巨大なスライド式1枚に集約していた。

「フィアット・シティタクシー」コンセプト、68年
「フィアット・シティタクシー」コンセプト、68年

「当時タクシー用車といえば古い『フィアット600ムルティプラ』だったイタリアで、それは革命的といえる提案でした」とボエット=コーエンは解説する。そして「今日の小型タクシーに求められる姿に、半世紀も前に到達していたのです」と付け加えた。

続いてクロノタイムとともに、彼のマスターピースとなる小型車「フィアット127」のデザイン開発に参画する。127は旧態依然としたリアエンジン車「フィアット600」「フィアット850」に代わる、前輪駆動方式の次世代小型車計画だった。特定の階層の人向けではなく、ごく一般のユーザーが日々使用する自動車の姿を具現化すべく、マンズーはふたたび一切の装飾を廃したフォルムを模索した。

「フィアット127」71年
「フィアット127」71年

ボエット=コーエンは語る。「彼は生涯、豪華な高級車に関心を示しませんでした。魅力的でありながら、誰でも容易に手に入れられる自動車を考えていたのです」

NEXT PAGEピオ・マンズーの崇高な精神とは

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