シンガー・Wakanaの柔らかくしなやかな歌声 東京公演&オンライン配信の前に、大阪公演をレポート

BSフジのミニ番組「Wakanaの素顔 ~magic moment~」に出演中のシンガー・Wakanaが、今夏、大阪・住友生命いずみホールと東京・紀尾井ホールの2会場で『Wakana Anime Classic 2021』を開催。9月4日(土)の東京公演の前に、すでに終えた大阪公演の様子をご紹介します。
文:桃井麻依子 撮影:河上良
クラシックホールの中にふわりと響く
「夢の中にいるように気持ちがよかったね」
終演後のロビーで今回のライブTシャツを身にまとった男性がつぶやいていた言葉を聞いて本当に、と思った。10年を超えるキャリアを下地に、2019年にソロシンガーとしてデビューを果たしたWakana。昨年12月、珠玉のアニメソングにクラシックアレンジを施し歌唱したカバーアルバム『Wakana Covers ~Anime Classics~』をリリースし、『Wakana Anime Classic 2020』と題したライブを東京・紀尾井ホールにて開催。そしてこの夏2回目となる『Wakana Anime Classic 2021』を大阪・東京の2カ所で開催することとなった。荘厳なクラシック音楽専門ホールを舞台に、歌声を響かせた約2時間をお届けしたい。
8月15日に開催された大阪公演。会場となった住友生命いずみホールは、舞台奥に鎮座するパイプオルガンやきらびやかな8基のシャンデリアが素晴らしいクラシック音楽に特化したホールだ。なんでも1.8〜2秒というクラシックの室内楽にふさわしい残響時間が実現できるようホールの設計も計算され尽くしているという。
15時オンタイム、橋本しん(Sin)〈音楽監督・Pf〉、室屋光一郎〈Vn〉、結城貴弘〈Vc〉に続いて、純白のロングドレスに身を包んだWakanaが大きな拍手に迎えられて登場した。両手を大きく左右に広げて一礼した後、ライブのオープニングとして『魔女の宅急便』より「やさしさに包まれたなら」、『天空の城ラピュタ』より「君をのせて」というジブリ映画を代表する人気の2曲を披露。温かで伸びやかな彼女の歌声が高い天井を誇るホールの上から降り注いでくるようで、ライブ開始早々うっとりとしてしまう。
「今日はアニメの名曲、そして心の中の思い出の曲もお届けできるかもしれません。最後までよろしくお願いします」とのあいさつを挟み、次の曲へ。歌声を聞いていると、少し憂いを含んだ夏の日の情景が目の前に広がっていく。
会場に漂う余韻の中、Wakanaの独唱で始まったのは「風のとおり道」だ。『となりのトトロ』の劇中で、トトロが夜に空を飛ぶ印象的なシーンで流れるこの曲。Wakanaのどこまでも伸びていきそうな声とアンサンブルが折り重なって、目の前は幻想的な夜の風景へと切り替わっていく。空間を抱くように丸く奏でられるメロディーの間を、Wakanaの声が吹き抜けていくような感覚だ。
圧倒的な歌の表現力、そして歌でストーリーテリングをする力。声への力の入れ方や抜き方、一つひとつの言葉の発し方や響かせ方で、目の前に物語を出現させてくれる魅力がある。まるでミュージカルを見ているようと言えばお分かりいただけるだろうか。

「第1部は大好きなジブリ作品から選曲をしています。小さい頃から宮崎駿監督の作品が大好きで、どれが一番好きというか、見た時にはそれが一番好きってなっちゃうんです」と笑う。
次に披露するのは……と続けたのは『紅の豚』からの1曲。ジブリ作品は年齢を重ねるたびに印象が変わって、幼い頃は気づかなかったことに気づくこともあるという。公開当時見た『紅の豚』は大人っぽい作品だと思っていたけれど、今は大切なものを大切な思い出として抱えて生きている大人の素敵さに気づいたという。Wakanaが歌い始めたのは「時には昔の話を」。この曲は聞いている“あなたへ”向けられている。直接語りかけられているようなWakanaの歌声と芳醇(ほうじゅん)なクラシックアレンジがマッチする、大人のジブリソングを情感たっぷりに届けてくれた。
第2部は大江千里が発表し『言の葉の庭』で秦基博がカバーした「Rain」からスタート。男性目線で綴(つづ)られた歌詞をしなやかに、本当に届けたい言葉に力強さを加えているのがとても印象的に響く。そしてとある映画のエンディングテーマであり、この季節の名曲の大本命へ。きらめく太陽、ひまわりのたたずまい、青く高い空――。Wakanaの軽やかな歌声を聞いていると、暑い夏の景色もどこか涼やかなものに思えてくる。
「次にお届けする曲は、レコーディングの時にずっと一緒に歌っていたスタッフさんがいて(笑)。思い出に重ね合わせて歌いたくなるのはすごくわかるし、アニメソングって、そういう心をかき立てられるものでもあるんだなと思います」。そう語ったあと歌ったのは、『シティーハンター』に採用され大ヒットを記録した「Get Wild」。Wakanaがカバーするにあたって、ダンスミュージックの名曲にクラシックアレンジを施した意欲作だ。
クラシックの上品さに、弾むようなリズムで加えられたポップさと疾走感。Wakanaもここまで歌ってきた曲とは違い、体全体をリズムに乗せて歌うことを楽しんでいる様子。そして勢いそのままに「手拍子お願いします!」と客席にもクラップを促して閉塞(へいそく)感あふれる今を生きる人の背中をグッと押してくれるような、歌詞が心に刺さる楽曲をポップに楽しげに歌い上げた。
「 本当にちょっと今までとは少し住む世界が変わってしまったけれど、みんなが音でつながりあえる世界は変わらないんだなって。みんなで一緒に音楽を作っているんだと感じることができました」と一言。

そして最後の曲となったのは『天気の子』より「愛にできることはまだあるかい」。この時代を生きる私たちに必要な言葉が詰まった歌だ。「ずっと私は音楽を続けていきたいし、言葉を伝えていくことの大切さも、この曲を歌うことで感じることができました」と思いを告白。クリアな高音が広がっていくWakanaの独唱に始まり、どんどんアンサンブルの調べが豊かに膨らんでいく後半まで、彼女の声がもつたくさんの表情が垣間見える1曲で本編を締めくくった。
アンコールの手拍子に応えて、Wakanaはピアノの橋本と共に再びステージへ。「ありがとうございます! ではしんさんと共にお届けしたいと思います」とピアノと歌だけのシンプルな構成で1曲披露した後、メンバー全員で演奏されたフィナーレは「夢のゆくえ」。私が大切にしている曲のひとつです、と彼女が言うこの曲は『ドラえもん のび太のドラビアンナイト』のエンディングテーマだ。
「武田鉄矢さんが書く詞がとても素敵な世界で、その音楽でより深く作品を胸に仕舞い込めるような曲です」と、ピアノとストリングスにふわっと包み込まれるようなファンタジー感あふれる始まり。優しく、柔らかな歌い方で、彼女が幼い頃に聞いたはずのこの曲の世界を一緒にたどっているような感覚を得たのは不思議な体験だった。
ピアノ+ストリングスのシンプルな編成で、とことん彼女の歌の世界を堪能できる素晴らしいステージだった。東京公演は昼夜セットリストが違うという。
さぁ、彼女はまた次のステージへ! Wakanaの声に包まれて夢の中にいるような体験を、あなたもぜひ。

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Wakana(わかな)
12月10日生まれ、福岡県出身。12歳から声楽を学び、17歳より多数のイベントに出演。上京後、FictionJunctionのプロジェクトに参加。その後、劇場版アニメ「空の境界」主題歌プロジェクトとしてスタートした「Kalafina(カラフィナ)」のメンバーとして2008年1月にデビュー。本格的にシンガーとしてのキャリアをスタート。2019年2月『時を越える夜に』でビクターエンタテインメントより待望のソロデビューを果たし、3月にファーストアルバム『Wakana』、11月にはファーストEP『アキノサクラ EP』、2020年2月26日セカンドアルバム『magic moment』、12月9日にカバーアルバム『Wakana Covers ~Anime Classics~』をリリース。Wakana オフィシャルHP:https://www.jvcmusic.co.jp/wakana/
ライブ&オンライン配信で届ける歌声
Wakanaが歌うジブリを始めとした珠玉のアニメソングは、ライブ&オンライン配信で体験できます。
【ライブ詳細】
タイトル:Wakana Anime Classic 2021
《東京公演》
日時:2021年9月4日 (土) <昼の部>開場14:00 / 開演15:00 <夜の部>開場17:30 / 開演18:30
会場:紀尾井ホール(東京都千代田区紀尾井町6-5)
出演:Wakana / 音楽監督・Piano 橋本しん(Sin) / Violin 室屋光一郎 / Cello 結城貴弘
【オンライン配信詳細】
日時:2021年9月4日 (土) <昼の部>開場14:00 / 開演15:00 <夜の部>開場17:30 / 開演18:30
アーカイブ期間:生配信終了から9月11日(土)23:59まで視聴可能
<チケット販売ページ>
イープラス「Streaming+」:https://eplus.jp/wakana/st/