国境なき衣食住
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極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情

派遣先のパキスタンで外に設置されていたシャワー室© MSF

「しょっぱいシャワー」で髪の毛がギシギシに

何不自由のないようにみえるシャワー室で、蛇口をひねったとたんにサプライズが待っていることもある。

ジブチ共和国には、イエメンに行くスタッフが使う宿舎がある。イエメンは、内戦状態が続き、「世界最悪の人道危機」にあると言われてきた。MSFのスタッフは、イエメンへの行き帰りに短期間、この宿舎に泊まることが多い。イエメンへの派遣を繰り返してきた私は何度もお世話になった。冷房付きの部屋は綺麗で広く、庭にはプールまでついていた。

しかし、残念なことに、リゾート気分が味わえる最高のシチュエーションのこの宿舎のシャワーの水が、なぜかしょっぱいのだ。シャンプー後でも髪の毛がギシギシする。ジプチ共和国で別のゲストルームに泊まったときもシャワーがしょっぱかった記憶がある。

「苦いシャワー」の経験もある。約200万人が住むパレスチナ自治区ガザ地区でのことだ。私が派遣された前年の2014年、イスラエルの空爆で多くの民家と発電所を含むインフラが破壊され、燃料不足で浄水場も十分に機能しなくなっていた。

極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情
イスラエルの空爆で破壊された家のがれきの上を歩く人々=2014年7月、ガザ地区、山尾有紀恵撮影(朝日新聞社)

現地で「水道水は決して飲んではいけない」と指導された。シャワーを浴びたとき、水が口に入ると、苦みが口の中で広がり、なんとも不快だった。4か月を過ごした後には、肌も髪も荒れてしまった。MSFの宿舎には発電機があり、お湯を使えただけ幸いだった。ガザ地区の住民の多くは、お湯どころか暖房すらない冬を過ごしていた。

極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情
ガザ地区でやすらぎを感じるひととき。活動中、現地の料理人が作ってくれた食事を楽しむ© MSF

ガザ地区では、もうひとつ、忘れられないシャワーにまつわるエピソードがある。

私が訪ねたころのガザの空には、常に軍用機の姿があった。数年に1度の大規模空爆とは別に、単発の空爆が月に1~2度あった。

ある休日の夕方、空爆と思われる振動を感じた。自室にいた私は、チームリーダーから招集がかかるだろうと予測し、携帯を片手に部屋を出た。ばったり会った外科医は、バスタオルを手にシャワー室にダッシュするところだった。

「今を逃すと、しばらくシャワーは浴びられないかも知れない」

空爆による被害者への対応が始まれば、病院にこもることになる。そんな切迫した事態でも、「できるうちにシャワー」と判断する冷静さに脱帽した。

お気に入りのソープを使っていた人は……

紛争地に派遣されるときにはいつも、お気に入りの香りのソープを持って行くことにしている。長い1日を終えたあと、シャワー室でお気に入りの香りに包まれて心身をリセットするのが日課だったからだ。

特にリフレッシュ効果が高いのは長年のお気に入りの洗顔用ソープだ。外国製のオーガニックなリキッドタイプで、ボトルのラベルもおしゃれ。メイク落としとしても使用できる。全身にも使えるタイプだが、もったいないので洗顔専用にしている。すべての香りを試してみて、一番気に入ったラベンダーを常備していた。

2016年、イエメン西部イッブ県のアルカイーダという町に派遣された。支援をしていた病院には、紛争に巻き込まれた一般市民が連日運ばれ、救急室や手術室では常に命に向き合う日々を送っていた。

極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情
2017年、イエメンの紛争で負傷した子供たちやその家族と入院病棟にて© MSF

そのイエメンの宿舎のシャワー室で悲劇は起きた。日々、洗顔用ソープのラベンダーの香りに包まれて心身の疲れを癒やしていたのだが、しばらくして異変に気付いた。ソープの減りが妙に早かったのだ。残量を見ては首をかしげる日が続き、ついに疑惑は確信に変わった。宿舎の広い共同シャワー室に、私を含むスタッフはそれぞれの私物を置きっぱなしにしていた。

「それYUKOのだったんだ? ごめん、俺それで身体洗ってた。すごいいい香りだよね。ちょっと使わせてもらってただけだよ。わっはっは」。白状したのは北欧から派遣されてきたロジスティシャンのおじさんだった。

紛争地では荷物の重量制限とにらめっこで、厳密に計算して滞在期間中の生活用品を準備する。どうにか詰め込んだ大切な癒やしグッズを浪費されて、正直、ショックだった。胸に抱えたソープボトルをなでながら、心で泣いた。チームメイトは私を慰めながら、「たかがソープで」と内心笑っていただろう。

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